JKボイス お客様の声知識の泉へ
ジャパンナレッジを実際にご利用いただいているユーザーの方々に、その魅力や活用法をお聞きしました。
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2004年02月

JKボイス-私はこう使っています:ジャパンナレッジ アメリカの学校図書館で「オンライン百科」はどう活用されているか

桑田 てるみさん
(くわたてるみ)
桜美林大学講師(非常勤)
 アメリカの図書館は、書籍だけでなくインターネットなど他のメディアを活用して情報を伝えていく「メディアセンター」へと変貌しつつある。日本の図書館も早晩、その洗礼を受けるのは間違いない。そうしたなか、どのような情報が図書館に求められているのかを示した興味深い調査がある。桜美林大学講師の桑田てるみさんに日本の図書館の未来を聞いた。

アメリカで一般化するデータベースサービス

 日本の図書館は、アメリカの図書館を後追いしているのが現状です。それも10年以上遅れている印象があります。ですから、現在のアメリカの現状を観察すれば、今後、日本の図書館がどういう方向に進むのか、あるいは進むべきか、おおよその方向性が見えてきます。

 アメリカの学校図書館は現在、“Inspanation Power”をキーワードにして進化を続けています。“Inspanation Power”というのは、本だけでなくあらゆるメディアを総動員して利用者に情報や知識を伝えていこう、またその利用の方法を教えていこうという姿勢を表しています。アメリカの学校図書館はメディアセンターと呼ばれ、本だけでなくさまざまなメディア(データベース、CD-ROM、インターネットなど)を用意し、その利用方法「情報リテラシー」も教えることで、教育の中核を担っているのです。

 私が研究の対象としたのは、アメリカ・テキサス州の学校図書館です。アメリカの多くの学校図書館ではすでに電子資料としてデータベースを導入しています。興味深いのは利用者のデータベースに対する満足度でした。結論から先に言うと、百科事典のオンライン・データベースが、利用者に非常に高い満足度を与えているという事実です。

 テキサス州の学校図書館が、生徒と教員、図書館員に対して行ったオンライン・データベースの満足度に関する調査結果を見てみることにしましょう。

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 資料に示されているデータベースは「ユニオンカタログ」(図書総合蔵書目録)、「ブリタニカ」(百科事典)、「ProQuest」(電子ジャーナル、定期刊行物、雑誌、新聞記事のデータベース)の三つです。生徒、教員、図書館員とも、百科事典のデータベースが満足と答えた人(「とても満足」「満足」「少し満足」と答えた人の合計)は、非常に高い数値になっています。

 次にデータベース利用の頻度を見てみましょう。百科事典の利用者は他のデータベースサービスを抜いてトップです。生徒も教員も、月に一回以上百科事典を利用する人が5割を超えているのがわかります。

 百科事典は、すべての調べものの出発点です。調べものには、“Big6 Skills”といった情報探索のための効果的なプロセスが存在します。メディアセンターでは、このような「情報探索のプロセス」を教えるということも行っています。その点でも百科事典は欠かせないものとなっているのでしょう。

 注意したいのは、これらは「ブリタニカという百科事典」の満足度・利用度というよりも、ネットワークで提供される「オンラインの百科事典」の満足度・利用度ととらえることができるという点です。オンライン・データベースを、無線LANなどで提供することで、図書館がユビキタスな百科事典となることも可能です。事実、この調査では、データベースの利用場所の制約がなくなってきていることもわかりました。

 アメリカの図書館では、データベースの需要は年々高まり、利用者への付加価値の高いサービスとして定着しつつあるのです。それを示すのが次の資料です。これはアメリカ学校図書館の資料購入費平均値の一例ですが、年間約100万円の図書購入費に対して、インターネットを利用したデータベース(wwwリソーセス)がその半分に近い約40万円にものぼっているのがわかります。

 パソコンを日常的に使用する人たちが増えていくに従い、データベースのサービスの需要はますます増えるものと思われます。そしてそれに伴い、それを扱う図書館司書の資質の向上も望まれています。


新世代図書館への進化のキーワードは「知識」そのための人材育成もインフラも…

 ひるがえって日本の図書館を見てみましょう。日本の図書館もアメリカと同様にコンピュータやインターネットを活用した“メディアセンター”へと進んでいくことは間違いありません。1997年の学校図書館法の改正では、12学級以上の学校の図書館に司書教諭を置くことが義務付けられました。司書教諭育成の現場でも「情報メディアの活用」という科目ができ、インターネットやデータベースを活用する検索術や活用プロセスを、体系的に学べるようになってきています。その中では、オンライン・データベースの利用方法も学びます。情報活用の専門家の育成という面から見ても、図書館が情報や知識獲得のための“メディアセンター”になっていく環境が整いつつあると考えられます。

 上でも見たとおり、「知識」の入り口としての百科事典の利用頻度は非常に高い。そこで得た「知識」をとっかかりにして、さらに専門的な書物やデータベースを活用するという知識探索のプロセスにのっとったサービスは、学校図書館独自のことではなく、一般的な図書館サービスのスタンダードになっていくでしょう。実際、公共図書館では“ビジネス支援図書館”という新しい形態の図書館も出現し始めています。ビジネスで必要とされる資料やレファレンス能力を備えた図書館のことで、浦安市立図書館や大阪府立中之島図書館などがその代表です。コンピュータも多数、配置され、インターネットの環境も整っています。まさに利用者の「知識探索」に対してサービスをする図書館です。

 知識探索という意味で、百科事典──それも毎月、膨大な更新がなされるほかに類をみない百科事典──以外にも、大型の英和辞典、国語辞典、各種記事がひとつの窓から検索できる、このジャパンナレッジは、図書館の常備ツールとして利用価値は非常に高いと個人的にも確信しています。

 単に貸出率の向上だけを金科玉条にしてきた図書館では、予算が削られていくなかで、生き残っていくことは困難です。しっかりと特色をもった、利用者の知恵袋としてのメディアセンター、それが未来の図書館と言えるでしょう。