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2009年01月

JKボイス-セミナーレポート:ジャパンナレッジ eBook/電子情報の徹底使いこなし~利用率向上のための具体的施策~
米国におけるeBooks利用の実情と動向

グッド長橋広行さん
(ぐっど ながはし ひろゆき)
ピッツバーグ大学図書館 
日本研究司書
日本人の目からすれば、米国のeBooksの利用頻度は相当に高いものと思いがちです。ところが、これから紹介される集計データは、eBooks先進国の意外な一面を見せてくれました。それは、eBooksの利点と問題点を浮き彫りにするものと言えるでしょう。
第10回図書館総合展
2008年11月26日(水)
会場:パシフィコ横浜(神奈川県)

eBooks利用のアンケートから読み取れるもの

 本日は、まず私からアメリカのeBooks利用の実情と動向の概観をご説明したいと思います。
ebrary、Springer という実際にeBooksを発行している会社が行った2008年のアンケート、それからPCG (Publisher Communication Group)が2007年に行いましたアンケート、さらにデンバー大学やイリノイ大学、そして私どもピッツバーグ大学で司書や学生に行いました意識調査等を踏まえてご報告したいと思います。

 まず、この漫画を見ていただきたいのですが、これは約30年前--1980年にニューヨークタイムスに載った風刺漫画です。資料1
 司書がコンピュータに本をどんどん投げ入れています。1980年と言えば、ちょうど図書館がコンピュータを導入し始めた頃で、コンピュータが図書館システムに今後どのような影響を与えるかということが、まだまだ未知数だった時代のことです。eBooksを予測させるようなマンガですが、この当時はまだ、オンラインカタログもしくは最もコスト・エフェクティブ的な遡及入力装置ということでしか、コンピュータを想像できなかったという、ひとつの象徴であると思います。

 2008年のebraryが行った調査で、「あなたの図書館はeBooksを持っていますか?」という質問があります。資料2
 ebraryの調査は、実際には世界各国を網羅した調査でしたが、今回、北米に関しての数値のみを抽出して分析をし直してあります。
ここでは、学生と司書と別々にアンケートを取っています。司書の方には「学生がeBooksをどのように考えているか?」ということを予測して答えてもらった数値となっています。この質問に関しては、約70パーセントの学生が「うちの図書館にeBooksがある」と答えていますけれど、逆に30パーセントは「分からない」と答えています。それに対して司書は、「知らない学生は4パーセントくらいだろう」と答えています。このような認識のズレが、まず表れています。

 次は「週にどのくらいeBooksを使っていますか?」という質問に関してです。資料3
「1週間に10時間以上」「1週間に5時間~10時間」という答えは、学生では合わせてまだ4.5パーセントしかありません。学生の約半数の48パーセントが、司書の予測に反して「まだ一度も使ったことがない」と答えているのです。日本では、eリソース、電子資料の使用・発達がアメリカでは、かなり進んでいると思われているかもしれませんが、実は、これがアメリカの現状なのです。

 次の質問の回答を見てみましょう。「一度も使ったことがない理由は何ですか?」という質問に対しては、約3割の学生から「探し方が分からない」という大きな問題点が出ています。資料4
 「印刷体の本の方が好きだ」「読みやすい」という人もかなりいます。逆に「eBooksはコンピュータで読みづらい、使いづらい」と思っている学生たちというのは、実は、私たち司書が考えているほど多くはないということが、この数値で逆に分かってまいりました。

 次に「リサーチ/クラスの課題のためにどのような資料を使いますか」という質問には、複数の回答を出してもらいました。資料5
 Googleやその他のサーチ・エンジンを使うというのがトップになっているのは誰でもが頷ける点だとは思いますが、電子データベース、eBooks(電子書籍)、印刷体書籍、電子雑誌の4点が、40パーセントと横並びになっているという結果が出てきました。これは、ちょっと驚きの数値ではないかと思います。
 印刷体の書籍が40パーセントになっているというのは、それだけ使う率が減ってきているというのが妥当だと思います。しかし、eBooksが電子雑誌や電子データベースと同じような数値になってきているというのは、意外でした。これは、eBooksが頭から最後まで「読む」という本としての使い方ではなく、すでに電子雑誌や電子データベースのように、必要なところだけ引っ張ってくるという使われ方をされているからなのではないでしょうか。数ページだけを検索して、それを自分の論文の中に引用していく、そのような使い方がすでに行われているのではないか、ということをこの数値が表していると思います。

eBooksの種類と利点・問題点

 ここでは、eBooksの種類を見てみましょう。「eBooks」と一言で言っても、いくつか使い分けによって種類があります。

  •  1. eReference電子参考資料
  •  2. eTexts電子教科書
  •  3. eBooks電子書籍
  •  4. eReserve電子課題資料
eReserveというのは、クラスで課題として読まなければならない論文や本の章などを資料としてリザーブし、図書館のWebサイトから見ていける、というものです。

 次に、eBooksの種類と利点を見てみましょう。資料6
 eBooksの利点としてまず挙げられるのは、とにかく見つけやすいというのがあると思います。先ほども申したように、eBooksは、もう読むものではなく、使う資料になっている。というのが大きな特徴だと思います。

 さらに24時間・7日間常にアクセス可能なこと。アメリカの学生は眠りません。2時でも3時でも、明け方でも、図書館の資料にアクセスしてきます。さらに試験前は図書館自体も24時間オープンしています。しかし、その何十倍という学生が自分の自宅・寮から図書館にアクセスして資料を使っているのです。こういった学外のアクセスが可能になることによって、先ほどの電子課題資料=eReserveのアクセスが6割以上上昇したというデンバー大学の調査もあります。
 もう1つ、象徴的なeBooksの使い方として、電子教科書の共有というものがあります。eBooksというのは、複数が同時にアクセスできる利点があります。アメリカのテキストというのは、100ドル、150ドルする高い教科書がたくさんあります。しかし、もしeBooksでの購入が可能であれば、教授から図書館にリクエストが来たときに、学生の人数によっ3から5程度の複数アクセスで購入すれば、学生がみんなで共有して使うことが出来、学生の経済的負担を軽減できます。
 最後、5番目の利点としては、ポータビリティが挙げられます。アメリカのクラスでは、20冊から30冊の大量の本を1学期のうちに読まなければいけません。昔は、先に本を借りておかなければ、すぐに無くなってしまいますので、一度に20冊、30冊の本を借りて、それを背負ってキャンパスを移動している学生が多く見られました。しかし、今はeBooksを使えますので、自分のノートパソコンに大量にダウンロードするなり、どこからでもアクセスして使えるというポータビリティが利点として考えられます。

 逆にeBooksの問題点とは何でしょう。
まず取り上げられるのは、先ほどのアンケートにも出てきた、30パーセント以上の学生が答えている「探し方が分からない」ということです。さらに「印刷体の方が読みやすいし好きだ」。そして、8.3パーセントと少ないですが「読みづらい、使いづらい」という3つの問題点が学生のアンケートから出てきています。
 そして4番目として、価格が高いという問題があります。これは利用者ではなく、我々司書が考えている点です。まだまだコレクションディベロップメントをする中で、eBooksは高くてなかなか手が出ない、というのが現状です。

これからのeBooksの技術と未来予測

 「技術の進歩はいつも我々の予想をくつがえす」
この言葉は、ピッツバーグ大学の図書館の館長であるラッシュ・ミラー博士がよく講演で使っている言葉です。資料7
 この言葉に表されるように、先ほどの問題点というのは、技術の向上によってかなり解決できるのではないかと思っています。

 現在、ピッツバーグ大学では、ディスカバビリティ(見つけやすさ)を向上させるため、次世代のOPAC、アクアブラウザというものを使っています。
 検索画面がGoogleと同じような状態になっており、たとえば「japan」と入力すると、本だけではなく雑誌や電子体、様々なメディアから検索されてきます。そして「オンライン」というジャンルから探せば、すぐに必要なeBooksと電子雑誌の論文のリストが出てきます。ここからeBooksや雑誌論文にすぐにアクセスできるわけです。
 このように、eBooksが探しづらい、という今までの学生の最大の問題点は、この次世代OPACでかなり解決できると言えるでしょう。

 さらに、読みやすいブック・リーダーが数々と出てきています。現在、Amazonのケンドルというリーダーは、手のひらで本が読める形になってきています。こうしたものが図書館の本でも使えるようになれば、かなりの利用者がeBooksを使いこなせるようになるのではないかと思います。
こうした技術の向上によって使いやすくなれば、利用者もeBooksにも慣れ、利用率もアップしていくと思われます。

 また、eBooksは価格が高いという問題についても、実際の書架の場所代などを考えれば、それほど高くないのではないか、という議論もすでにたくさん出てきています。

 この表は、米国図書館協会の統計です。この10年間で電子雑誌が予算の中でどれだけ増加してきているか、という数値です。資料8

 1996年はわずかに12パーセントしか電子雑誌の占める割合はありませんでした。実はこの年の統計には、まだeジャーナル、電子雑誌という項目さえなく、この12パーセントとはコンピュータファイル/サーチサービスという項目の数字です。それが、10年後の2006年には雑誌予算全体の45パーセントを電子雑誌が占めている状態です。この10年間の変化というのは、誰も予想できなかったのではないかと思います。こうした急激な変化が、今、eBooksというメディアに押し寄せているのではないでしょうか。

 館長のラッシュ・ミラーは、「現実はハイブリッドだが、ビジョンはデジタルだ」ともよく言ってます。
 2008年のSpringer の調査では、5年後の2013年には、「eBooksと従来の本のどちらも読んでいるだろう」と答えた人が53パーセント、「まだまだ従来の本を愛読しているだろう」という人が35パーセント、そして、「eBooksの愛読者になっているだろう」と答えた人が7パーセントおりました。
 さらに2007年の別の調査では、10年後の2017年には、「電子雑誌は成熟した段階に達していて、利用者の要求も高まっているだろう」という意見が出ています。もしかしたら、この頃には教科書、学術雑誌、参考図書はすでにeBooksが主流になっているかもしれませんね。