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2009年03月

JKボイス-セミナーレポート:ジャパンナレッジ コピペ問題を考える ~大学などで今起こっているレポート作成の問題と対応策~
適切なコピペのすすめ:レポート作成による主体的な学びの実現

米澤 誠さん
(よねざわ まこと)
NPO法人大学図書館支援機構
米澤さんは、コピペに対して別の角度からアプローチします。安易なコピペでなく、正しい引用をきちんと教える授業スタイルを提言していただきました。
第10回図書館総合展
2008年11月26日(水)
会場:パシフィコ横浜(神奈川県)

写しまねることから始まる学習

 はじめに、コピペは学習の基本ということで、古来より学ぶということは写すことから始まったという事例を紹介しましょう。
 例えば「和算」という江戸期以来の数学分野では、写本という資料が多数存在しています。印刷というのが高価だった時代ですので、師匠の著作を手書きすることで、記録として残して伝承していたわけです。それとともに、書写することで覚えるというのが、和算の学習の基本になっているのです。

 一方私は、図書館学の非常勤講師を務めており、「図書館経営論」という授業を受け持っています。その授業の中で心がけているのは、学生が上手にレポートを書けるようにするということです。そのために色々な教材を提示していますが、中でもいちばん有用だと評価されているのが「レポート見本」なのです。
 これは、「レポートというのはこのように書くものです」、「ここの部分はこのような意味があって、このような書き方で書くのですよ」というように、レポートの見本を提示しつつ、論述のコツを解説した教材なのです。9割の学生が、この見本がレポート作成に役立つといってくれています。現代でも、まねるということは非常に有効な学習方法なのです。

「正しい引用」が学術の基本

 ここからは、NPO法人大学図書館支援機構(IAAL)で私が開発した教材の一部を見ながら、レポート作成法の話を進めていきます。
 まず、引用は学術の基本手法であることを確認しましょう。この教材では、自分の意見は自分の意見として、「何々と考える」とか「何々と思う」というように、主観的な文章で書くように説明しています。それに対して他人の意見は、引用として明示することによって、自分の意見を効果的に援用するという役割を果たすのです。学生には、自分の言葉で一生懸命考えなくても、他人の言葉をうまく利用して、レポートの論述ができるのだと解説します。資料1
 そして、引用にもルールがあります。文献に書かれた他人の意見や事実を、自分の意見のように書かずに引用として論述する。出所・出典を明示するということが必要になります。一方、自分の問題意識や自分の見解は、自分の意見として、主観的な文章で書く。決してここに他人の意見を混ぜて書かないということが重要なのです。資料2
 このような論述のルールは、実は他人の著作権を侵害しないためのルールでもあります。学術的な世界においては、これは非常に重要なことで、このルールを守る心がけや態度が身につかない限り、健全な教育・研究はできないのです。

 引用をしつつ書く論述の仕方を、私は「論述の入れ子」と呼んでいます。文献に書かれた事実というのを中心に置き、まわりにそれに対する自分の問題意識・見解を書いていきます。これを繰り返して論述することを、大学に入ってできるだけ早い時期に、学生たちに教える必要があると思います。
 そして、この入れ子形式の論述で大事なのは、文献に書かれている事実や意見をいかに多く集め、その中から必要なものをうまく組み合わせて書くということです。そのためには、文献利用と文献検索のスキルが必要不可欠になるのです。資料3

情報リテラシーの効果的習得

 大学図書館では、オンライン目録検索法などの講習会を盛んに行うのですが、なかなかそこに学生が集まらないという問題があります。本来はまず、大学のガイダンスの後に大学での勉強の仕方、あるいはレポートの書き方の指導があって、その中でレポートを書くためには文献を使うことが重要なのだという説明がなされるべきでしょう。しかし、多くはその説明が足りないために、文献利用と文献検索の講習会に学生が集まらないのです。

 私がなぜレポート作成法にこだわるかというと、やはり、学習研究の最も基礎的な成果表現方法として、文章を書くということが重要だと思うからです。もちろん昨今、プレゼンテーションの技術や人前で話す技術も重要なのですが、自分で考えるということの基本は、ものを書くことからはじまると思います。
 また、レポート作成という実践を通じて、資料を探すというスキルがどうしても必要になってきます。実際に資料を探すという経験を積み上げることによって、情報リテラシーの効果的習得が可能になるのです。資料を探し、それを評価して最終的に書くという一連の学習プロセスを体験してはじめて、トータルな意味での情報リテラシーが習得できるのです。

活用すべき情報源

 情報を色々探すといっても、専門的なものから入門的なものまで様々な情報のレベルがあります。それらを適切に、自分の理解の度合いに応じて利用することが大切だと思います。資料4
 Web情報は非常に充実してきてはいますが、私は今のところ、Web情報だけで書いたレポートは低い評価にしています。Wikipediaの情報は、情報の典拠が不明であるということが一番の問題だと思います。つまり、どのような情報をもとにして、誰が書いたものか分からないわけです。そして、全体として情報の統一性がなく、全体としての整合性も不足しているというのが、私の現在の評価です。
 学生向けの講習会で、「あなた方は調べものをする時に何を使いますか?」と問いかけると、「図書館のOPACを使って図書を探しています」という学生が非常に多くなっています。それで適切な基本情報をえているのかというと、はなはだ疑問に思います。「百科事典を使ったことがある人」と聞くと、ほとんどの学生が使ったことはないと答えます。私は、基本的な情報としては百科事典があるので、それを使いましょうと説明しています。基本教材としての事典・辞書の有用性については、以前のJK Voiceでも主張したので、ここでは省略いたします。

 Wikipediaを出典として書いて使っても良いのではないかと思われるかもしれませんが、私としてはやはり、大学の学習で利用する情報源としては不十分であると思いますし、このようなものを使ってもよいという教育方法は、現時点では間違っていると思います。Wikipediaを使わずに、信頼度の高い情報を調べて利用することを教えるのが、本来の大学教育だと思います。
 私が開発した情報リテラシー教材では、以上のような内容を学習できるようになっています。

コピペを防ぐ授業デザイン

 さて、図書館学の授業に戻りますが、私は学生に次のようなレポート課題を出しています。資料5
 まず自分で取材する地元の図書館を選ばせます。私の授業は通信教育なので、履修生は日本全国にいるので、あまり重複することはありません。それぞれ自分で調べなくてはならないという課題設定にしているのです。そして、自分で見いだした問題意識で、主体的に資料を収集してレポートを作成する課題であるため、課題への解答はステレオタイプ(画一的)な内容となりえないのです。
 第1回目の課題は「図書館についての現状と特色」とし、そのために基本資料を収集させます。特に『日本の図書館』という資料の統計は必ず使って、レポートを記述しなさいと指示します。図書館の歴史や施設・設備の状況、統計値などの事実をもとにした論述を身につけさせるのです。

 その後、2回目のレポートとしては、その図書館について現状と特色を踏まえた上で、課題と改善案を書くというレポート課題に取り組みます。ここでは、図書館などにある文献をいろいろ調べてそこに書かれている事実を引用、あるいは参考文献として示しながら、自分なりに考察して書くことになります。
 このような授業デザインにすることで、まず安易なコピペはできないようになります。文献に書かれた事実や意見を援用して、出典を示しつつ自分の考えを論述しなくてはならないので、コピペという問題はほとんど起きないのです。
 また冒頭に示したように,レポート見本を示したり、資料調査法の教材を示したりして、学生の学習力を高める工夫も重要だと思っています。資料6

主体的に学ぶことの楽しさ

 このように、図書館にある文献を最大限に活用して、自分が見いだした課題を解決することを「主体的学習のすすめ」といっています。自ら調べて学習する技術を身につけておけば、大学にいる時だけではなく、社会に出てからも生涯活用できる能力となるのです。それが真の意味の情報リテラシーではないでしょうか。
 履修生のアンケート結果では、次のような結果がでています。授業で身についた知識・スキルはという問いに対し、科目の本来の目的である「図書館経営論の知識」というのが第3位になっています。これに対し、「レポート作成力」が第1位なのですね。科目としては本末転倒かも知れませんが、逆に基礎的なレポート作成法の教育が不足している結果であると考えます。また私の場合、徹底したレポート添削を行うので、このような結果になっているのだと思います。資料7
 履修生からのコメントを見ても、主体的に学ぶことの楽しさを覚えてもらっていると思っています。資料8本来、学ぶということは楽しいことではないでしょうか。自分で問題を見つけてそれを解決していくことの楽しさ、悪しきコピペから解き放たれた学習の仕方・レポートの書き方を、ぜひ多くの人たちに身につけてほしいと思います。

 そして、この主体的に学びについては、小説家の瀬名秀明さんはこう述べています。
 「本当に知りたいと思ったとき、人間は好奇心を止めることはできない。ここまでで充分ということはありえない。面白くなったらどこまでも追求したくなる。子供でもそれは変わらない。そのとき私たちが真に必要とするのは、優れた資料と優れた検索システムである。」

瀬名秀明 『ハートのタイムマシン!』(角川文庫,平成14年)から

 学生に限らず、多くの人々の好奇心を適切に満たす場として、ますます図書館が活用されるべきであると、私は考えます。