編者のことば

「全訳古語例解辞典」が初めて刊行されたのは一九八六年で、十七年も前のことです。当時は、新鮮にして妥当な編集方針が高く評価され、まさに孤高の存在でした。ところが、今や、古語辞典の主流は「全訳」です。「全訳」はこの辞典の固有名詞だったのですが、現在では多くの古語辞典に使われ、普通名詞のようになってしまいました。名付け親としては、嬉しいような残念なような気持ちです。ただ、「全訳」という語を書名に使っていても、「全訳」の本当の意味を正しく理解している辞典は多くありません。

 この辞典は、元祖の誇りと責任を持って、「全訳」方式の特長をさらに追求し徹底させるために、何回も改定の版を重ねてきました。そして、今回は、これまでの「全訳」の一歩先を行く、画期的な全訳古語辞典を刊行する運びとなりました。書名も「全文全訳古語辞典」と改め、従来の「全訳古語」を大幅に超えた、新しい古語辞典の誕生です。

「全文用例」という欄を随所に設け、主要古典の主要場面の全文を用例として掲げ、品詞分解を施し、現代語訳を付けました。長く続く文章はいくつかの見出し語の用例として分けて掲出し、チェーン式でつなぐようにしてあります。主要古典の有名な場面を深く味わうことは大切なことですし、どうしてそういう現代語訳になるのか、どういう単語が文を構成しているのか、つまり品詞分解がしっかり押さえられるのも、古典の正確な理解にとって重要です。

 同じ考え方から、百人一首や名歌鑑賞、名句鑑賞の用例にも、品詞分解と現代語訳を付けました。また、付録として「朗読で味わう日本の古典」を載せたのも、代表的な古典の流麗な文章を音読して味わっていただきたいからです。教室で、先生と生徒が一緒になって古典の学習や鑑賞をする時に活用していただくことを期待しています。

 現代は情報過剰の時代です。新しい本が陸続と刊行されています。本だけではありません。テレビ、ラジオ、新聞、インターネットを通して情報が押し寄せます。国際化も進んでおり、それにも対応しなければなりません。英語ができないと、国際時代に生きていけなくなります。学ぶことがたくさんあって、古典の学習にまでは手がまわらないと考える人が出てきても不思議ではありません。

 しかしそうでしょうか。今を生きていくためには、巷間に行き交っている情報が必要です。しかし、人間の基本を育てるものは、そういう日常的な浮薄なものではありません。長い歴史を生き続けてきた古典には、日本人の基本を学ぶことができる不易性があります。

 そして国際時代には、自分の国の文化をしっかりと見つめ、足元を固めることがより必要になります。自分の国の文化を知らなくては、真に外国の文化を理解することはできませんし、外国の人々と対等に付き合うこともできません。国際時代だからこそ、日本の古典はもっと読まれなければなりません。

 古典の学習に、この辞典が大いに役立つことを願っております。

二〇〇三年八月
鏡郷文庫主人
北原保雄
※付録「朗読で味わう日本の古典」の内容は、ジャパンナレッジ版には収められておりません。
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