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昨年から、新たに単行本の編集・制作をはじめることになった。いわゆる〈書き下ろし〉ではなく、新聞や雑誌などに掲載された記事を膨大に収集し、それを一冊の本にまとめる。総頁数は約600頁(『柄谷行人書評集』)と500頁強(伊藤洋司『映画時評集成』)に及んだこともあり、編集作業には、かなりの時間と労力がかかった。結果的に、1960年代の新聞記事にまで遡ることになった。一番難儀だったのは、固有名に関する事柄である。人名や事件・出来事の名称など、判断がつきかねることが多々生じた(特に〈近過去〉というのは、歴史がまだ定まっていない分、余計厄介なのである)。インターネットの情報だけでは心もとない(間違いも多い)。最後は、大学の図書館に数日籠って、わからない単語をまとめて調べることになった……。
今回、ジャパンナレッジを紹介され、一番に思ったのは、「あと一年早く利用していれば、あんな苦労はまったくしなかっただろうに」ということである。多くの事典・辞書が搭載されているので、いくつもの資料に同時にあたることができる。また、どれもが長い歴史を持っており、信頼がおける。これはもう手放すことはできない。
今は、次の単行本の準備作業中である。哲学や歴史、政治等、専門用語が頻繁に出て来ることもあり、今回は、不確かな言葉は、すべてその場で、ジャパンナレッジで調べることにした。常にサイトを立ち上げておき、逐一検索していく。そのいくつかをご紹介しよう。
「黒い森」を調べてみると、「シュワルツワルト」「ドイツ南西部の森林山岳地帯」とある。文脈からいって、これが著者の使っている「黒い森」に合致していると判断できる。
あるいは「互酬性」という言葉に「リシプロシティ」とルビが振ってある文章を見つけた際、「リシプロシティ」を検索すると、「相互主義」「互恵主義」と確かにある。
「敷島の大和心人とはば朝日に匂ふ山ざくら花」という和歌の引用があれば、試みに「山ざくら花」と入れてみる。こちらは東洋文庫『慊堂日暦』の中に見つけることができた。作者は本居宣長である。さらに、「大阪事件」も「ベスラン学校事件」も「長いナイフの夜事件」も、「ヒューマニズム書簡」も「人生に相渉るとは何の謂ぞ」(北村透谷)も「郷紳」も、すべて出てくるではないか!
繰り返し言おう。これはもう手放すことはできない。編集者をしているあいだは、一生使いつづけることを、その場で決意したのだった。「編集者を育てるのは、作家を育てるより難しい」と言ったのは、角川春樹さんだが、編集者を志す人間は、まずはジャパンナレッジを使うことをお薦めする。確実に、その能力が鍛えられるだろう。
現在もう一冊、M・デュラスとJ=L・ゴダールによる対談の翻訳本(『ディアローグ デュラス/ゴダール全対話』、2018年10月5日刊行予定)を手掛けている最中である。年譜を作成する必要もあり、ゴダールの名前で検索すると、これまた面白かった。日本大百科全書では村山匡一郎さん、デジタル版集英社世界文学大事典では金子正勝さんが、この項目を担当しているが、世界大百科事典は、敬愛する山田宏一さんが執筆しているではないか。2100字を越える解説は、これだけで読み応えのある「批評」である。
トリュフォーのゴダール評が冒頭に引用されているのも、山田さんらしい。山田さんの担当した項目だけを探してみるのもいいいかもしれない。
加えて、『グッバイ・ゴダール』の映画評まで読むことができるのには、正直驚いた(『週刊エコノミスト』の最新号に掲載された記事が読めるのである)。同時にベンジャミン・ゴダールという音楽家の存在も知ることになる。
※「週刊エコノミスト」は、データ提供元との契約により、月曜日に発売されたものを、通常、その週の金曜日(多少前後あり)に配信しています
もう一点だけ、利用して感じたことを記しておく。「揚げ底」という言葉が、ある対談者の発言に一か所だけ使われていた。「上げ底」と記すのが普通ではないかなと思い調べてみると、
「揚げ底」も正しいことがわかる。
勉強になったのは、意味が3つほどあり、その2と3の項である。「遊女が妊娠や病気の伝染などを避けるために、客と接する時に詰め紙をすること」「遊女などが皆客に揚げられて払底すること」とある。今は使われることはないだろうが、郭言葉だったことがわかる。こうやって、言葉の世界が違った方向に広がっていくのも、ジャパンナレッジならではだろう。次々と引いているだけで、実に楽しい。
最後に、一言だけ要望を。是非「類語辞典」を装備してもらえないだろうか。原稿をまとめていると、恥ずかしながら語彙不足もあって、どうしても同じ言葉を使ってしまうことがある。その時は現在、紙(リアル)の辞典を合せて使っている。ここが完備されれば、それこそ「完璧」である。