片桐一男 著
漢方医学一点張りの鎖国下の日本にあって、初めて西洋医学書を訳読、『解体新書』と銘打って公刊することに心血を注いで成功。日本の医学界の革新と純正な蘭学の確立を希求し、その発展に熱情を傾け通した玄白。日本人の心に生きつづける不朽の名著『蘭学事始』を遺した先覚者の本格的な伝記、新史料と精緻な考証を加えてはじめてなる。
[江戸][医師|学者]
宮本又次 著
近世大阪随一の富豪鴻池家の初代から近代までの一貫した歴史を、従来未公開であった厖大な資料によって丹念に追求した力篇。醸造業から海運業へ、そして大名貸その他の金融業へと発展する財閥成長の過程を、歴代当主のすぐれた業績と人物とを織込んで叙述し、特にその同族組織や事業内容をも克明にえぐり出した画期的著作。
[江戸][商人]
田中健夫 著
島井宗室は博多を代表する豪商であり、織豊政権をめぐる大名・商人・農民などの人間関係の曼陀羅模様の中でも、その生涯は異彩を放っている。商人的才腕と茶人的天分とを発揮して遠く海外にまで活躍した行動記録は、広く新しい史料蒐集とその綿密な検討とによってはじめて正確に描き出されたもの。本叢書中には特異な人物である。
[戦国|安土桃山|江戸][商人|文化人]
浜田義一郎 著
南畝は江戸文芸界をリードする巨人であり、当代最高の知識人として江戸文化に限りない影響を及ぼした。彼の一生はそのまま江戸文化形成の歴史である。本書は多年の研鑽により資料の厳選、新史料の発掘、視野の拡大によって再検討し、特に従来の南畝伝が疑問とした部分に新しい実証的な光の照射を試みようとした野心作である。
[江戸][文化人]
高谷道男 著
ヘボンといえばローマ字と誰しも思い浮べるであろうが、実は明治文明開化の大恩人であったことは案外見落されている。在日生活33年、医療に、伝道に、教育に、その足跡は極めて大であった。本書は多年の蒐集になる貴重な史料をもとに、ヘボン自身の書翰類をあわせ、ヘボン自身が語りかけるように巧みな筆を運んでいる。
[江戸|明治][宗教者|医師]
田原嗣郎 著
平田篤胤の思想は死後の世界を解明するために、宇宙の初発を知ることを中心として作られた。この世は寓世にすぎず、幽世こそ「本っ世」であるからである。宣長の学を受け継いだのも批判したのも、この立場からなのだ。それは政治的思想ではない。本書は篤胤の著書やその性格・伝記などの全体に亙って中正な観点から解説を加えたものである。
[江戸][学者]
田畑忍 著
初代の東京大学学長、学士院院長などの肩書をもち思想界・法曹界に君臨、一世に感化を与えた明治時代最大の学傑。その論争家としての立場は官界・政界をバックとし、天賦人権論からダーヴィニズムへの転向は、明治政治史の動向を側面からみるものとして興味深い。人物史としても思想史としても好適。
[江戸|明治|大正][思想家|教育家]
若林喜三郎 著
加賀百万石の領主であり、加賀藩の制度・文物万般にわたる完成者であった松雲公前田綱紀は、世に名君と呼ばれている。しかしその治績が模範的であればあるほど、封建政治の矛盾をはらんでいる。本書は藩政史料を厳密に調査し、社会経済史的立場から、彼の幾多の業績に検討を加え、そこに彫りの深い封建領主像を描き出した。
[江戸][大名|文化人]
洞富雄 著
北辺急を告げる際、身を挺して蝦夷および樺太を探検し、ついに間宮海峡を発見してシベリア大陸に渡り、世界地理学史上に不滅の名を残す。彼はこの輝しい前半生に反し、その後半生は“シーボルト事件”摘発の発頭人となり、さらに幕府の隠密として活躍した。新しい史料を基礎に、当時の世界情勢を背景として、その生涯を描く。
[江戸][その他]
石井孝 著
安政期幕政改革の最良の息子。機略縦横、横井小楠の「公共の政」理論にみちびかれ、幕府・諸藩の障壁を撤し、改革勢力の全国的連合に全精力をもやしつづける海舟。しかもついにその夢を実現できなかった彼はけだし不遇の政治家というべきだろう。このような視角から、幕末・維新期におけるもろもろの政治コースのなかで海舟の演じた役割を探る。
[江戸|明治][政治家|武人・軍人]
西山松之助 著
江戸荒事歌舞伎の源流初代市川団十郎より、明治中期の団・菊・左時代を飾った九代目団十郎までの成田屋歴代の芸道精進のあとと、その演劇界における位置を、厳密な史料批判を基礎にまとめた好篇。豊富な引例とエピソードとによって興味深く説き、思わず読みつづけさせる。新装版にあたって、現代に至る十・十一・十二代目の章を増補し一層の充実を期した。
[江戸|明治|大正|昭和][文化人]
河竹繁俊 著
歌舞伎の狂言作家として、名人小団次をはじめ、いわゆる団・菊・左らの名優を対象に世話狂言・時代狂言・活歴劇・散切狂言・舞踊劇にわたり三万余種の作品をのこした黙阿弥は、江戸演劇の大問屋と評された。本書はその生涯・人物・主要作品の梗概を興趣深く語り、さながら近代日本演劇の鳥瞰図の観を呈する。歌舞伎研究必携の書である。
[江戸|明治][文化人]
亀井高孝 著
伊勢白子の船頭光太夫は、露領の北海小島に漂着してつぶさに辛酸をなめ、国都ペテルブルグに至り、女帝に拝謁を許され、日露国交開始の橋渡しとして漸く11年後に送還された。著者はこの数奇な運命児を単に漂泊中の足跡をたどって追究するだけでなく、わが鎖国下の国際情勢を緻密に分析しつつ、ダイナミックに描き出した。
[江戸][その他]
平尾道雄 著
明治維新の先覚者として推称される土佐藩主山内容堂は、他面では詩酒奔放の行状で世の非難をも受けた。しかし混迷する維新前後の舞台に立って革新的役割を負った容堂は、優れた知性と情熱の持主であるとともに、封建大名という宿命的な地位から、時代に悩む赤裸々な一人間でもあった。見事な史料駆使による人物追求の正伝。
[江戸|明治][政治家|大名]
武部敏夫 著
幕府再三の要請により、やむなく公武合体の犠牲となって将軍家茂に降嫁し、程なく家茂没して未亡人となる。さらに幕府滅亡の期に及んでは最も辛苦をきわめ、死を決して夫家の救助につくす。皇女たるの節義を二つながらに固く守って苦悶懊悩する悲劇の生涯、幕末史を彩る数奇、薄命を克明に描く力篇。
[江戸][天皇・皇族|女性]
堀勇雄 著
儒学者・兵学者として素行の名は周く知られ、またその崇拝者も決して少なくない。しかし封建治下の素行の教学は果してどのようなものであったか、また山鹿流兵学の本質はどうであろうか。これらの歴史的評価は未だ充分なされたとはいえない。本書は著者多年の学殖を駆使し、素行の学問と、その人格に鋭いメスを加えた詳伝。
[江戸][学者]
岡田章雄 著
クルスの旗印を高く掲げて原の故城に立籠る一揆勢四万の指導者、天の使と仰がれキリシタンの妖童として怖れられた少年四郎時貞。国際色豊かな島原の乱の全貌を、豊富な史料と明快な行文に描きつつ、その人物像を鮮かに浮彫した異色の伝記であり、島原一揆の顚末を知る上にも好個のもの。正に一幅の好絵巻というべきである。
[江戸][文化人]
井上義巳 著
江戸後期、折衷学派の儒者。病身の生涯ながら、豊後国(大分県)日田に私塾咸宜園を開設、50余年にわたり、門弟2,900余名を育成するとともに、大村益次郎・高野長英ら、幕末の逸材を輩出した大教育者であり、詩人としても名高い。本書は、その教育の実態と特色とを中心に、新史料を駆使して生涯を詳述した、著者多年にわたる研究成果の結晶である。
[江戸][学者|文化人]
芳即正 著
薩摩藩天保財政改革の立役者調所広郷の初めての正式伝記。隠居島津重豪側近説や文政10年改革主任任命説等々を否定、幾多の新見解を盛る。身を挺して巨額の藩債を整理し健全財政を確立、迫り来る英仏両国の開国要求に対処する等、多彩な調所改革の全容を網羅。幕末維新史上の薩藩活躍のなぞを解明した労作。維新史に関心を有する人すべての必読書。
[江戸][武人・軍人]
谷口澄夫 著
明敏な素質とひたむきな学問に裏付された理想をもって岡山藩の基礎をきずいた池田光政は、世に名君と称せられる。その逸話や俗説を巧みにおりまぜながらも、多年にわたり岡山藩の藩政史研究に研鑽を積む著者が、自筆日記などの新史料を駆使して、藩政全般から、光政の業績とその典型的人間像とを、史上に正しく位置づけた名君伝。
[江戸][大名]