(さごろもものがたり)
源頼国の娘の禖子内親王宣旨(ばいしないしんのうせんじ)
光り輝く美貌の貴公子の悲恋を描いた王朝物語の秀作
〈いろいろに重ねては着じ人知れず思ひそめてし夜の狭衣〉と、主人公の狭衣の君は、従妹の源氏の宮への思慕の情を歌にするが、思いは拒絶される。以後、さまざまな女性と恋をするが、付き合う女性たちは皆身を破滅させ、狭衣の君の憂愁だけが深まっていく。悲恋を描いた平安後期の物語。『源氏物語』の影響が色濃く、その趣向を発展・高揚させたとの高い評価を得ている。
[平安時代(1077~81年ごろ成立)][物語]
《校注・訳者/注解》 小町谷照彦 後藤祥子
(えいがものがたり)
作者未詳
藤原道長の栄華を中心に、平安時代を編年体で記す歴史物語
宇多天皇(887年~897年在位)から堀河天皇(1087年~1107年在位)まで15代、約200年間の仮名文の編年史。権勢をふるった藤原道長のエピソードをはじめ、宮中の権力争いや貴族の生活、思想を、年代を追って描く。全40巻で、初めの30巻を正編、あとの10巻を続編とよび、正編の作者を女流歌人・赤染衛門(あかぞめえもん)とする説などがあるが正続ともに作者未詳。
[平安時代(正編1028~34年ごろ成立、続編1092~1107年ごろ成立)][物語(歴史物語)]
《校注・訳者/注解》 山中 裕 秋山 虔 池田尚隆 福長 進
(おおかがみ)
作者未詳
摂関家藤原氏の隆盛を描く人間ドラマ、傑出した歴史物語
道長の栄華を中心に、平安時代の出来事を、二老人の昔語りを歴史好きの若侍が批評する形で描いた紀伝体の歴史物語。虚構を交えながら逸話の積み重ねでつづる。文徳天皇の850年から後一条天皇の1025年まで、14代176年間の歴史を描いた。『大鏡』で用いられた、問答、座談形式の歴史叙述はその後の『今鏡』『水鏡』『増鏡』にも用いられ、これらを称して「鏡物(かがみもの)」という。
[平安時代(1086~1123年ごろ成立)][物語(歴史物語)]
《校注・訳者/注解》 橘 健二 加藤静子
(すみよしものがたり)
作者未詳
継母の執拗な妨害をかいくぐって掴み取る女の幸せ
『枕草子』や『源氏物語』の中でも、名がふれられている有名な物語で、原型は平安時代に成立か。原作は散逸し、現在残っているものは、鎌倉時代初期の改作と言われる。主人公は、中納言の姫君。継母は継子である中納言の姫君に求婚した四位少将を、自分の娘の夫にしようと企み、姫君の結婚を執拗に妨害する。最後は、長谷寺観音の霊験のおかげでハッピーエンド。
[平安時代~鎌倉時代初期][物語]
《校注・訳者/注解》 三角洋一
(とりかえばやものがたり)
作者未詳
男装の姫君と女装の若君の波瀾万丈な宮廷生活を描く
権大納言に瓜二つの異母兄妹がいたが、兄は内気で人見知り。妹は外向的で活発。そんな二人を見て、父の権大納言は「とりかへばや」(二人を取り替えたいなあ)と思い、若君を娘、姫君を息子として育ててしまう――。性別が入れ替わった異母兄妹の数奇な運命を描いた物語。同性愛、ジェンダーの違和感など、今日的なテーマも描かれる。平安末期に成立したとされるが、作者は未詳。
[平安時代末期][物語]
《校注・訳者/注解》 石埜敬子
(まつらのみやものがたり)
藤原定家
日本と中国を舞台にした藤原定家の構想広大な実験的小説
主人公の弁少将氏忠は、皇女との恋に破れ、失意の中、遣唐副使として唐に渡る。そこで、2人の貴女(皇帝の妹や后)と恋に落ち、さらには内乱に巻き込まれ、后の頼みで合戦に討って出ることに……。合戦シーンは、軍記物が流布する前に描かれたもので、当時としては珍しい。『無名草子』の記事により、作者は藤原定家と言われている。鎌倉時代初期に成立か。
[鎌倉時代初期][物語]
《校注・訳者/注解》 樋口芳麻呂
(むろまちものがたりそうししゅう)
作者未詳
おとぎ話の原形――中世の庶民を魅了した不思議で妖しい絵物語
南北朝時代から江戸時代初期にかけて、平易な散文体の読み物が多くつくられ、「室町物語」や「室町物語草子」、「近古小説」、「御伽草子(おとぎぞうし)」などとよばれる。今日のおとぎ話や昔話の原型となった作品も多い。『文正草子(ぶんしょうそうし)』、『猿源氏草紙』、『ものくさ太郎』、『和泉式部』、『一寸法師』、『浦島の太郎』、『熊野本地絵巻(くまのほんじえまき)』など、13編をおさめる。
[南北朝時代前期~江戸時代初期][物語(御伽草子・短編物語)]
《校注・訳者/注解》 大島建彦 渡 浩一