視覚による錯覚のことで、明るさ、色、大きさ、長さ、形、方向、奥行、運動の錯視がある。錯覚の大部分は錯視である。錯視は、刺激を注意深く観察しても、またそれを熟知する人が観察しても明確に生じる。日常生活において、分量は小さくても、錯視と同様のずれや歪(ゆが)みを生じている場合が多いが、そのずれや歪みが顕著に生じる場合を錯視という。
錯視はなんら特殊な異常な現象でなく、正常な知覚である。錯視の研究は、知覚全般を支配する一般原理を探るための有効な手段と考えられている。
錯視を分類すると、幾何学的錯視、多義図形の錯視、逆理図形の錯視、月の錯視、対比錯視、運動の錯視、勾配(こうばい)の錯視、方向づけの錯視となる。
[今井省吾]
大きさ(長さ・面積)、方向、角度、曲線などの平面図形の幾何学的関係が、物差しや定規によって測った客観的関係と食い違って見られる錯視現象である。多くの錯視図形には、発見者や考案者の名がつけられている。この錯視を便宜的に分類すると次のとおりである。
(1)角度方向錯視 ポッゲンドルフPoggendorff図形では、斜線がずれ、ツェルネルZllner図形では、縦の平行線が互いに傾いて見られる。
(2)湾曲錯視 ブントWundt図形では、2本の平行線が湾曲して凹レンズ状に見える。
(3)大きさの錯視 ミュラー・リヤーMller-Lyer図形では、矢線に挟まれた直線の長さは同じであるが、外側矢線条件のほうが内側矢線条件に比べ著しく過大視される。ヘルムホルツHelmholtzの正方形では、横縞(よこじま)で等分割された正方形は縦に長い長方形に見え、縦縞で等分割された正方形はやや横に長い長方形に見える。円環対比図形では、円環内の中央の円は左右同じ大きさであるが、左の円のほうが過大視される。ジャストローJastrow図形では、上下同じであるが、下のほうが過大視される。ポンゾPonzo円筒では、三つの円筒の大きさは同じであるが、遠方の円筒のほうが手前の円筒よりも過大視される。
幾何学的錯視の規定条件や要因は多様であり、この錯視は予想以上に複雑な現象である。現在のところ、妥当な統一的説明理論は確立されていない。
[今井省吾]
同一図形で2種以上の見え方が可能なもの。図と地の反転図形(ルビンRubinの杯と顔)や、遠近の反転図形(ネッカーNeckerの立方体)などがある。
[今井省吾]
矛盾図形、不可能図形。ペンローズPenroseの三角形のように、二次元的平面上に示される奥行の特徴を部分的に見れば解釈可能だが、まとめて知覚されると全体的形態は三次元的に不可能なように見られる図形である。
[今井省吾]