ヨーロッパ連合(EU)の政治統合の深化、意思決定の迅速化、行政組織の効率化などを進めるため、従来のニース条約にかわって結ばれたEUの基本条約。2007年12月にリスボンのジェロニモス修道院で加盟国代表が署名したため、こうよばれる。発効は2009年12月。正式名称はTreaty of Lisbon amending the Treaty on European Union and the Treaty establishing the European Community, signed at Lisbon, 13 December 2007(ヨーロッパ連合(EU)条約およびヨーロッパ共同体(EC)設立条約を修正するリスボン条約)で、「EU新基本条約」「改革条約」とよばれることもある。リスボン条約では、EUの政治統合を進めるため、EU大統領とよばれるヨーロッパ理事会常任議長ポストを新設したほか、EU外相に相当する外務・安全保障政策上級代表ポストを設けた。また、行政機構をスリム化するため、EUの行政府であるヨーロッパ委員会の委員(閣僚に相当)数を削減した。EU加盟国が21世紀に入って10か国以上増え、全体の意思決定が遅れる弊害がでていたため、従来、全会一致が原則であった移民、文化などの多くの分野に、加盟国の55%以上が賛成し同時に賛成国の人口がEU全体の65%以上であれば可決とする「二重多数決制」を適用した。
EUは21世紀に入って、既存条約を統合し、EUの旗・歌なども定めた憲法条約の締結を目ざしたが、2005年にフランスとオランダが国民投票で否決したため、憲法色を排除し、既存のEU条約・EC条約を修正したリスボン条約を結んだ。従来、EUの最高意思決定機関であるヨーロッパ理事会の議長は、加盟国首脳が半年交代の持ち回りで務めてきたが、安定感や存在感に欠けるため、リスボン条約では任期2年半の常任議長(再選は1回のみ可能)を設け、初代常任議長にベルギー首相を務めたバン・ロンプイHerman Van Rompuy(1947― )が就任した。常任議長はアメリカ大統領のような強大な権限をもたないが、「EUの顔」として加盟国の意見をまとめ対外発信する役割を担う。また、EU外務省に相当する対外活動庁を新設し、外交担当部門を一本化した。このほか立法、予算、国際条約承認に関するヨーロッパ議会の権限を強化し、EUの政策領域として、テロ対策、温暖化対策などを追加した。
[矢野 武]