昆虫綱鱗翅(りんし)目アゲハチョウ科に属するチョウ。ギフチョウ属Luehdorfiaは、既知種4種を含む東アジア特産の原始的なチョウで、そのうちギフチョウは日本の特産種。本州のみに産し、北海道、四国、九州には分布しない。本州では西は山口県、北は太平洋岸では東京都西部の多摩丘陵、日本海側では秋田県南端部に達する。近似種ヒメギフチョウL. puziloiと本種は一般にすみ分けて生息し、その分布境界線はルエドルフィア・ラインとよばれているが、地域によっては両種の混生がみられ、現在までの調査では長野県北安曇(きたあずみ)郡の一部、信越国境の斑尾(まだらお)山、黒岩山、山形県最上(もがみ)川中流域に混生地がある。東京都、神奈川県、京阪神周辺では主として生息地の環境破壊によって多くの産地で絶滅した。はねの開張50~55ミリメートル程度で、アゲハチョウ科としては小形。はねの地色は黄色で、縦に黒の縞(しま)模様があり、後ろばねには赤色、橙(だいだい)色、青藍(せいらん)色の斑紋(はんもん)があり美しい。この段だら模様からダンダラチョウの別名もある。年1回の発生で、暖地では3月下旬から4月下旬(最盛期4月上旬ごろ)、分布の北限に近い地域(たとえば山形県)や標高の高い場所では4月下旬から5月下旬(最盛期5月上旬ごろ)に出現し、その最盛期はその地域のサクラの開花期にほぼ一致する。年に一度春だけにその姿を現す生物をスプリング・エフェメラル(春のはかない命)というが、チョウでは本種がその代表的なものである。幼虫の食草はカンアオイ類であるが、地域によって自生するカンアオイの種類が異なるため、必然的に場所により食草の種類は相違する場合が多い。同一地域に複数のカンアオイの種類が混生する場合でも、好適な食草はそのなかの1種にすぎないことが普通である。ある地域で好適な食草となっているカンアオイが、ほかの産地では食草とならないケースもある。ウスバサイシンはヒメギフチョウの食草であるが、場所によってはギフチョウがこれを食草とする場合も知られている。母チョウは食草の新芽裏面に数卵を並べて産み付ける。孵化(ふか)した幼虫は若齢期に葉裏に固まって生活するが、終齢が近づくと分散し単独生活に移る。晩春に蛹(さなぎ)となり、翌春まで蛹の状態で過ごす。