使用者が労働契約(雇用契約)を将来に向かって一方的に解約すること。解雇は多くの場合、労働者に対して経済的・精神的不利益をもたらす。そのため、使用者が行う解雇に対しては、労働法上さまざまな規制(解雇規制)が行われている。このような解雇規制は諸外国においてもみられるが、類型化すると、手続規制、特別規制および一般規制という三つに区分することができる。
手続規制とは、使用者が解雇を行う際の手続を定めるものであり、日本では解雇予告制度がこれに相当する。労働基準法(昭和22年法律第49号。以下、労基法)第20条は、解雇の対象となった労働者に再就職活動のための余裕を与えることなどを目的として、30日前に予告を行うことを使用者に求めている。使用者がこの予告をしない場合、あるいは30日に満たない日数での予告を行った場合には、使用者は労働者に対し、足りない日数分について解雇予告手当(金額は労基法12条が定める平均賃金)を支払わなければならない(同法20条1項、2項)。
一方、この解雇予告制度は、①天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合、および②労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合(いわゆる懲戒解雇が可能である場合)などには、適用が除外される(同法20条1項但書、21条)。この場合には、使用者は予告(もしくは解雇予告手当の支払い)を行うことなく労働者を解雇すること(即時解雇)が可能となる。ただし、使用者が①または②に基づいて即時解雇を行おうする場合には、これらの事由に関して行政官庁(労働基準監督署長)の認定を受ける必要がある(同法20条3項)。
なお、諸外国の手続規制のなかには、解雇は書面により行うことを求める例がみられるが、日本では解雇ないしその予告は口頭によっても可能である。ただし、労働者は解雇理由に関する証明書を使用者に請求することができ(同法22条)、この場合には使用者は遅滞なくこれを交付しなければならない。
特別規制とは、特定の時期における解雇、あるいは特定の理由に基づく解雇を禁止するものである。
このうち前者については、日本では、労基法第19条により、①労働者が業務上負傷しまたは疾病に罹患(りかん)したため休業している期間中とその後30日間、および②女性労働者が産前産後休業(労基法65条)を取得している期間中とその後30日間については、使用者が解雇を行うことは原則として禁止されている。この規定は、これらの期間中は再就職活動を行うことが困難であることから、解雇を禁止することにより、労働者が安心して休業できるようにすることを目的としたものである。例外的に、これらの期間中に使用者が解雇をなしうるのは、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合(前述の即時解雇の場合と同様、ここでも行政官庁の認定を要する〈同法20条3項〉)、およびとくに①に関して、労働者が療養開始後3年を経過しても治癒しない場合において、打切補償(平均賃金の1200日分〈同法81条〉)が支払われた場合に限られる(同法19条1項但書)。
一方、後者(特定の理由に基づく解雇)については、日本では、労働者の国籍・信条・社会的身分を理由とした解雇(同法3条)、性別を理由とした解雇(男女雇用機会均等法6条4号)、女性労働者の婚姻・妊娠・出産・産前産後休業の請求を理由とした解雇(同法9条2項、3項)、労働組合員であることを理由とした解雇(労働組合法7条1号)などといった差別的な解雇や、労働者が労働基準監督署などに対し労基法違反の事実を申告したことを理由とする解雇(労基法104条2項)、育児休業・介護休業の取得・申し出を理由とした解雇(育児・介護休業法10条、16条)、公益通報を行ったことを理由とする解雇(公益通報者保護法3条)などといった報復的な解雇が、それぞれ禁止されている。
一般規制とは、使用者が労働者に対して行う解雇全般に対し正当な理由を要求するなどといった形で規制を行うものである。前述の特別規制は適用対象となる解雇が限定されているが、一般規制は基本的にすべての解雇に対して適用される点に特徴があり、日本では、労働契約法(平成19年法律第128号。以下、労契法)第16条が定める解雇権濫用法理がこれに相当する。
労契法第16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定している。この解雇権濫用法理は、もともとは1975年(昭和50)4月の日本食塩製造事件の最高裁判決(最高裁判所昭和50年4月25日判決、民集29巻4号456頁)によって確立したものであり、2000年代初頭までは、判例上のルール(判例法理)として適用されていた。しかし、2003年(平成15)6月の労基法改正の際に、解雇権濫用法理は同法の第18条の2(当時)として上記の形で立法化(明文化)され、さらに2007年11月に労契法が制定された際に同法の第16条に移行し、現在に至っている。日本では、企業における正(規)社員は、通常は長期雇用を前提として雇用されており、解雇された場合に被る不利益は甚大となることから、この労契法第16条(解雇権濫用法理)による一般規制が果たす役割は、解雇規制のなかでもとくに重要なものとなっている。
労契法第16条は、前述のとおりすべての解雇に対して適用されるが、同法理のもとで解雇が有効とされるためには、当該解雇にまずは「客観的に合理的な理由」(以下、合理的理由)が認められなければならない。日本では、解雇の理由は、通常、企業の就業規則のなかで規定されており(労基法89条3号)、それらは大きくは、健康状態の悪化や能力不足、業務命令違反などのような労働者側に起因する理由と、使用者側に起因する経営上の理由に分かれる。そして、これらについて、労契法第16条にいう合理的理由と認められるためには、単に就業規則上の解雇理由に該当する事実があるだけでは足りず、それが雇用を終了させてもやむを得ない程度のものであることを要する。また、解雇に合理的理由が認められたとしても、労契法第16条のもとで解雇が有効と認められるためには、さらにそれが社会通念上相当なものと認められなければならない。この判断にあたっては、労働者の情状(反省の有無など)や、同種事案における他の労働者に対する処分と比べて均衡を欠いていないか、労働者に弁明の機会を与えるなど解雇の手続が適正に行われたかといった点が、考慮されることになる。
ところで、解雇のうち、使用者側の経営上の理由に基づくものを一般に整理解雇とよぶが、労契法第16条(解雇権濫用法理)のもとで整理解雇が有効か否かの判断に関しては、裁判例の蓄積によって整理解雇法理と称される判例法理が別途形成されている。それによれば、このような判断は、①人員削減の必要性が存在するか、②使用者が解雇を回避するための努力を尽くしているか、③解雇対象者の人選基準が合理的であるか、④使用者が労働者や労働組合に対して十分な説明・協議を行ったかという、四つの観点を総合的に考慮して行われることとなっている。
諸外国においては、解雇が解雇規制に違反する場合であっても、解雇自体は法的には有効であり、雇用は終了することを前提に、労働者に対する法的救済として使用者による損害賠償(補償金)の支払いを規定する例が多くみられる。これに対し、日本では、特別規制や一般規制(労契法16条)に違反する解雇は無効となり、従前の(無期)労働契約が将来に向かって存続することになる。そのため、この場合には、労働者は使用者を相手取り、労働契約上の地位にあることの確認と解雇されていた期間中支払われていなかった賃金(民法536条2項)の支払いを求めて、裁判所に対し民事訴訟を提起することが可能となる。
もっとも、労働者側が勝訴した場合であっても、その後に当該労働者が元の職場に復帰し解雇前と同様に就労することは、実際上は非常に困難である。現実には、解雇をめぐる紛争は和解などを通じて、労働者が退職することと引き換えに、使用者が解決金を支払うことにより終了するケースがほとんどとなっている。こうした実態などを背景に、とくに2000年代に入って以降、違法な解雇が行われた場合に、労働契約自体は終了させつつ、労働者が使用者に対して金銭補償を請求することを可能とする法制度(解雇の金銭解決制度)を新たに設けることの当否や、制度設計のあり方などについて議論が行われている。しかし、課題も多く、同制度はいまだ実現には至っていない。