日本大百科全書(ニッポニカ)

ダブルケア
だぶるけあ

狭義では、育児と介護を同時期に担うことで、育児と介護の両方の責任や負担が重なること、またそうした状態にあることをさすことば。広義では、家族や親族をはじめとする親密な関係における、複数のケア責任や負担が重なること、またそうした状態をさす。
 晩婚化と高齢化の同時進行によって、ダブルケアを経験する人が増えている。育児をしながら介護している人、または複数のケア責任や負担が重なっている人をダブルケアラーという。いいかえれば、ダブルケアラーとは、母(父)、娘(息子)、稼ぎ主、ケアワーカー、自分、という多重の役割を担い、異なるニーズを同時に満たすことを要求されるような状況にある人々である。
 ダブルケアは、狭義と広義の意味で使われており、育児と介護だけではなく、多重ケアやケアの複合化を象徴することばとして解釈されている。たとえば、介護をしながら孫の面倒をみるケース(介護と孫支援の同時進行)、精神的な病気を抱えている家族のケアをしながら子育てをするケース、障害をもつ子どもを育てながら、障害をもたない兄弟(姉妹)も育てるケース等があげられる。
 ダブルケアということばは、少子高齢化時代の東アジアにおける新しい社会的リスクとして、2012年(平成24)に横浜国立大学の相馬直子(そうまなおこ)(1973― )と英国ブリストル大学の山下順子(1974― )によって概念化された。両者の研究によって、(1)介護・子育ての縦割り行政のはざまで、ダブルケアラーの孤立や困難な実態があること、(2)ダブルケア人口が一定数いること、(3)世帯構成、就業の有無、親の要介護度、子育ての状況、介護および子育てサービスの利用状況、夫婦関係や親子関係、友人や近隣ネットワークの有無などによって、さまざまなダブルケアパターンがあること、(4)ケアの多様化のなかで、ケア責任・負担・ニーズが複合化していること、などが明らかになった。
 その背景には、第一に、人口動態の変化がある。晩婚化・晩産化・高齢化が同時に進行し、育児と介護というライフイベントの重複可能性が高まっている。第二に、女性の就業率が高まり、育児や介護などの多重ケアと仕事を両立することが困難な実態がある。第三に、兄弟(姉妹)数が減り、地域関係も薄れ、介護や子育てを身近にサポートしてくれるネットワークが弱体化し、孤立化しやすくなっている。第四に、介護制度と子育て支援制度が縦割りで、ダブルケアラーにとって制度的に非効率な面があり、複合化するケア課題に、柔軟かつスピーディーに対応できないなど、高齢者・児童・障害者と対象別に制度化されてきた近代社会政策の限界が顕在化していることがあげられる。
 ダブルケアによって雇用機会が失われたり、ダブルケアと仕事の両立が困難な現状は、「生活困窮ダブルケアラー」の増加に直結し、ダブルケアが貧困リスクとなる。また、ダブルケアのために第2子をあきらめるという少子化のリスク要因にもなっている。
 ダブルケア調査研究は、大学・非営利セクター・行政・民間企業と多元的な主体が連携して実施され、研究のみならず、地域でのダブルケア支援(ダブルケアカフェの開催等)や、ダブルケアサポーター養成、保育所・高齢者施設の入所要件の見直しにもつながり、ダブルケアサポートの取組みが全国各地で広がっている。
 政府も2016年4月に「育児と介護のダブルケアの実態に関する調査」を公表し、政府統計の再分析からダブルケア当事者が25万人いるという推計結果が明らかになった。しかし政府統計では介護の定義が身体的ケアに狭く限定されており、現状の多様化する介護やダブルケアの実態を十分に把握できていないという問題がある。
 2025年には日本の人口構成上でもっとも数の多い団塊世代が全員、75歳以上の後期高齢者になる。そして団塊ジュニア世代が高齢期を迎える2040年には、団塊ジュニア世代の介護と、団塊ジュニアの子どもが親世代になり子育てをする時期が重なる。ダブルケアの社会的認知とともに、ダブルケアが負担とはならず、ダブルケアをしながら働くことがあたりまえとなる社会づくりが求められる。
[相馬直子]