日本大百科全書(ニッポニカ)

無償労働
むしょうろうどう
unpaid work 英語

お金が支払われない労働。アンペイドワークともいう。無償労働の典型は家事労働であり、働いているにもかかわらず、市場では評価されない「見えない」労働である。無償労働に対することばは有償労働(ペイドワークpaid work)である。有償労働の典型は雇用労働であり、物を生産したり、サービスを提供したりして、それに対する対価としてお金(賃金)が支払われる労働である。
 1975年以降の国際的な議論において、男性が有償労働、女性が無償労働という固定的な性別役割分業の是正が必要であるという共通の認識が形成され、女性の見えない労働を再評価しようという動きが出てきた。また、開発途上国の社会や開発に対する女性の貢献をどのように評価するのかということも問題となった。
 1995年に国連主催の第4回世界女性会議で採択された「行動綱領」(「北京(ペキン)行動綱領」と称される)は、無償労働を、(1)経済活動とみなされながら過小評価されるか、不十分な記録しかなされていない無償労働(自家消費用の食料およびサービスの生産、自営業内部の家族従事者の労働など)と、(2)家庭内および地域社会の無償労働(子供や高齢者の世話など)の二つの領域の労働と解している。
 この「行動綱領」には、無償労働の貨幣評価に関する研究および経験についての情報交換を促進すべきことが盛り込まれており、それを受けて日本では、経済企画庁(当時。現、内閣府)が1991年(平成3)の調査を基に無償労働を試算し、1997年に「あなたの家事の値段はおいくらですか?」と題する「無償労働の貨幣評価についての報告」を公表した。そこでは、(1)家事(炊事、掃除、洗濯、縫い物・編物、家庭雑事)、(2)介護・看護、(3)育児、(4)買い物、(5)社会的活動(ボランティア、献血、婦人活動、消費者運動、住民運動など)を無償労働として取り上げている。そして、機会費用法(無償労働をしている時間を、もし外で働いていたと仮定すれば、いくら稼げたかを考え、その額を計算する方法)によって、専業主婦の無償労働を平均で年間276万円(1991年時点の数値。2011年の平均は年間304万円)と試算した。試算は、専業主婦だけではなく、有業有配偶、独身女性等の無償労働についても行っているが、専業主婦の無償労働に焦点をあてた報道がなされたため、無償労働の貨幣評価は、「専業主婦の価値」についての評価であるとの誤解を強める結果となった。
 無償労働の貨幣評価は、女性が無償労働を担いがちな現状において、無償であるために見えない活動を量的に表して見えるようにすることによって、「社会のコスト」として意識させることを可能にする。これにより、男女間での無償労働の公平な分担や固定的性別役割分業の見直しにつながっていく。
[神尾真知子]