JKボイス お客様の声知識の泉へ
ジャパンナレッジを実際にご利用いただいているユーザーの方々に、その魅力や活用法をお聞きしました。
毎回さまざまなジャンルの方々にご登場いただく、インタビューコーナー。お仕事のことや、大好きな本や辞書、そしてジャパンナレッジにのぞむことなど、たっぷり語っていただきます。
2011年11月

“日本”を知るということ

山本博文さん
(やまもと ひろふみ)
1957年生まれ。東京大学文学部国史学科卒業、同大学院修士課程修了。文学博士。専攻は日本近世史。現在東京大学大学院情報学環・史料編纂所教授・社会情報研究資料センター長。91年『江戸のお留守居役の日記』で第40回エッセイスト・クラブ賞を受賞後、江戸に関する著書を多数刊行。近著は『徳川将軍15代~264年の血脈と抗争』(小学館新書)。
この20年で江戸に関する著書をなんと50冊以上! 日本近世史を研究されるかたわら、現代人に江戸時代をわかりやすくガイドしてくれる、山本博文先生。ご自身のお仕事はもちろん、日本史好きに役立つジャパンナレッジの使い方について、教えていただきました。

「東洋文庫」を全文検索できる強みと面白さ

 私のように、日本史を専門にやっている人間からすると、ジャパンナレッジは「宝の山」なんです。
 特に重宝しているのが「東洋文庫」。この中には、徳川慶喜の回顧録『昔夢会筆記 徳川慶喜公回想談』(渋沢栄一編、大久保利謙校訂)や、孝明天皇時代の禁裏の生活を記した『幕末の宮廷』(下橋敬長述、羽倉敬尚注・解説)、有職故実の古典『貞丈雑記』(伊勢貞丈著、島田勇雄校注)など、江戸に関する貴重な文献がたくさんあって、研究者ならば一度は手に取るという本が多い。もちろん、重要な本は手元にあって、大事なところには付箋が貼ってあります。でも付箋も増えていきますから、いざ探そうと思った時に時間がかかってしまう(笑)。そんな時はジャパンナレッジを使います。キーワードで検索すれば、引きたかった箇所にすぐにたどり着くことができます。
 当然、新しい発見もあります。「大奥」について調べていたのですが、試しにジャパンナレッジの「東洋文庫」で「お局」の単語を検索してみたんです。いちばん多く引っかかったのが、なぜか『アラビアン・ナイト』。女主人のことを、「お局さま」と訳していたんですね。こういうことは、検索してみて初めてわかることです。
 「東洋文庫」の中から、みなさんに一つおすすめするとしたら、『甲子夜話』(松浦静山著、中村幸彦・中野三敏校訂)でしょう。肥前国平戸藩主だった松浦静山が、大名などの逸話や市中の風習を綴ったエッセイなのですが、正巻100巻、続巻100巻、第三篇78巻という大著です。これが東洋文庫には、正6巻、続篇8巻、三篇6巻の計20巻にまとめられています。
 たとえば、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康の性格をあらわすものとして、昔の概説に載っていた「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」という歌がありますよね。あの歌の初出はどこかというと、この『甲子夜話』なんです。これもジャパンナレッジで引くと、すぐに該当箇所を探すことができます。

 先日のことですが、長野県の辰野町小野と塩尻市北小野の両地域にまたがる「憑(たのめ)の里」というところに講演に行ってきました。ここは、冷戦時のベルリンのような複雑な区割りになっていて、小野というひとつの里だったものが、領地争いに巻き込まれ、天正19(1591)年、豊臣秀吉の政策により二分されてしまったところなんです。以来、行政区域は二つに分かれたまま、里としては1つという不思議な状況が続いているんです。この里には中学校が1校だけあるんですが、その名も「塩尻市辰野町中学校組合立両小野中学校」(笑)。
 こういう場所ですから、講演には下調べをして行かないといけないと思ったのですが、「たのめの里」は「ニッポニカ」にも「国史大辞典」にも載っていません。そこでジャパンナレッジの「日本歴史地名大系」の全文検索を利用すると、歴史的経緯などちゃんとありました。講演で披露して、喜ばれたのは言うまでもありません。

歴史学の魅力は「確実な根拠」の存在

 私は長く、東京大学史料編纂所に勤務しています。ここはもともと編年史の編纂をするため、明治時代に政府の肝いりで作られた組織です。それが後に東京大学に移管されたのですが、そうした性格上、日本史の多くの史料がここに収蔵されています。日本は、文字史料がたくさん残された国ですから、その数は膨大なものになります。たとえば私は、近世編年史だけでなく、薩摩島津家を担当し、そこに残された史料の読解と整理にあたっています。
 かつて、編年史を担当しているある研究室が、このままのペースで作業を続けたら、何年後に終了するかを計算したそうです。答えを聞いて驚きました。800年かかるというんですから(笑)。
 それでも誰かが後世に残していかなければなりません。大げさですが、これが私たちの使命なのでしょう。近年は、活字の史料集を補完するものとして、編年史料のデータベース化を進めています。

 歴史学の魅力は、史料という「確実な根拠」に行き当たることができることです。ドストエフスキー好きだった私が、大学に入った時に、文学ではなく、歴史を選択したのもそんな理由がありました。そして、豊臣時代から江戸を研究していくことになるのですが、この時期はまさに、日本の“原型”ができた時代です。この時代をよりよく知ることは、自分にとって、“現代”を感じ取る作業でもあるのです。近世の史料をあたっていくと、そこに日本人の特性があらわれてくる、といったらいいでしょうか。
 ジャパンナレッジのユーザーのみなさんには、「東京大学史料編纂所」のホームページ(http://www.hi.u-tokyo.ac.jp/index-j.html)も、ぜひのぞいていただきたいですね。この中の「データベース検索」でも、さまざまなものが検索できます。ジャパンナレッジで検索したものを、こちらでも検索してみると、さらに新しい発見が見つかるかも知れません。
 事典というものは、一つあたったらそれで終わり、というものではありません。さまざまな事典を丁寧にあたっていくことで、知識も思考も深まっていきます。また、検索すればするほど、自分なりのやりかたも見つかってきます。

 

ジャパンナレッジにのぞむこと

 江戸を研究する一人としては、ジャパンナレッジのラインナップに系譜集の『寛永諸家系図伝』や『寛政重修諸家譜』を入れてほしいですね。これでぐっと研究が楽になります。 もう一つは、思想家の本。古今東西の思想家の主立った本が入れば、言うことありません。こうした知的遺産を後世に遺す役割もぜひ担っていただきたいですね。
2011_11_book.jpg徳川将軍15代 264年の血脈と抗争

756円(税込)
慶長8年(1603)、徳川家康が征夷大将軍となってから、慶喜による大政奉還まで、15代・264年にわたって続いた徳川幕府。しかし、長男が父親から将軍職を継承したケースは、わずか3例にすぎず、その血脈は6回も変わっている。徳川将軍家の継承は、何度となく大きな危機に見舞われているのである。そしてその裏では、血脈と利害が幾重にも絡み合い、権力をめぐる抗争が繰り返されていた!