第106回
「×」の話

 日本語の文章では、文字以外の記号(符号)に何らかの意味をもたせて使うことが時々ある。今回はそういった記号のひとつ、「×」を取り上げてみたい。
 「×」はもとより、同じように使われる「○」「△」ももちろん文字ではないのだが、まだ少数派ながら見出し語を設けて解説している国語辞典が出始めている。また、漢和辞典でもたとえば『現代漢語例解辞典 第2版』(小学館)では、「非漢字」という扱いでこれらの記号を解説している。
 『現代漢語例解辞典』では、「×」の読みは「ばつ」と「ぺけ」のふたつが示されている。「ばつ」と読むのは、「罰(ばつ)」、または「罰点(ばってん)」からとある。もうひとつの「ぺけ」はあまり馴染みがないかもしれないが、「関西などで『ぺけ』とも称する」と書かれている。中国語の「不可」からという説や、マレー語からという説があるらしい。
 また、「×」の使い方として、「悪い評価を示す印として「○」と対をなす。」と書かれているが、テストの採点の時に採点者が付ける、正解は○、不正解は×、半正解は△の記号がこれに当たる。
 ちなみに、早稲田大学教授の笹原宏之氏によれば、答案用紙の採点に使われる○×△の記号は、日本と、同じ漢字圏である中国や韓国、ベトナムなどとでは、意味や使われる記号そのものがかなり違うらしい。万国共通だと思って使うととんだ誤解を招くこともあるようだ(『漢字の現在 リアルな文字生活と日本語』2011年三省堂)。この笹原氏の著書は書名を「漢字の現在」としながら、漢字ではない記号にまで視野に入れ、なぜ各国でそうした違いが生じたのか文字学の観点からするどく考察していて実に画期的である。日本語は、漢字、平仮名、片仮名だけでなく、記号までも文字として取り込んでしまう実に懐の深い言語なので、よくぞ文字以外の記号まで取り上げてくれたと思う。

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