第16回
「やんごとない」はもともとの意味が復活しているのか?

 『源氏物語』の有名な冒頭部分に、「いとやむごとなききはにはあらぬがすぐれて時めき給ふありけり」(桐壺)と出てくる、「やんごとない」の話である。『源氏物語』のこの「やんごとない(やむごとなき)」はもちろん高貴であるという意味である。
 「やんごとない」は元来は「止む事無し」で、それが一語になった語である。打ち捨てておくことができない、よんどころないというのが元の意味で、その打ち捨てておけない事情によってさまざまな意味に広がっていった。
 ただ、現在はもっぱら「高貴である」の意味で使われることが多く、「やんごとない生まれ」とか「やんごとないお方」という使い方をする。そのため一般の国語辞典も、その意味だけを載せているものが多い。
 ところが最近「やんごとない事情(用事)で欠席する」などといった使い方をしばしば目にするようになった。この意味の語には「よんどころない」があり、大方は「やんごとない」は誤りで「よんどころない」が正しいと感じるのではないだろうか。だが、前にも書いたように「やんごとない」の原義は「よんどころない」で、「やんごとない用」といった古典例も多数存在する。とすると、この「やんごとない事情」を間違いであると一刀両断のもとに切り捨ててしまっていいのであろうか。意味が復活しつつあるのなら、現代語の国語辞典にもその意味を載せるべきかどうか、そろそろ検討する時期に来ているのかもしれない。

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