第169回
「潔(いさぎよ)い」は「いさぎ良い」ではない

 「純潔」「潔白」などの「潔」は、訓読みをすると「いさぎよい」である。送り仮名は「潔い」で「潔よい」ではない。ところが、この「いさぎよい」の「よい」を「良い」と考えて、「潔よい」と送り仮名を付けたり、「いさぎ良い」だと思ったりしている人がかなり増えているようなのだ。
 「いさぎよい」は語源のはっきりしない語なのだが、「いさ・きよい」なのではないかという説が有力である。『日本国語大辞典 第2版』に掲載された語源説を見ると、「いさ」は「いた(甚)」「いさみ(勇)」「いや(弥)」などと諸説あるようだ。また、「きよし」の方は「清し」でほぼ一致している。「いさ」は諸説あるものの、「いた(甚)」「いさみ(勇)」「いや(弥)」ともに強調する意味をもった語と考えてよいであろう。原義はとても清らかであるということになろうか。「いさぎ(いさき)・よい」などと考える説はひとつも存在しない。
 にもかかわらず、「よい」で切れて、これを「良い」だと思っている人がかなり増えているのである。この誤解から、「身の引き方がいさぎ(が)いい」のように「いさぎ(が)いい」という言い方が生まれた。しかもそれだけではなく、「いい(良)」だから、反対の「悪い」もあるだろうと、「身の引き方がいさぎ(が)悪い」のように「いさぎ(が)悪い」という言い方まで生まれてしまったのである。
 インターネットで検索すると、この誤用がかなりヒットする。このままでは、何で辞書に「いさぎ」という語が載っていないのかと、編集部に文句を言ってくる人まで出てくるかもしれない。
 間違ったことば遣いであっても、大勢の人が使うようになればそれもスタンダードになってしまうことは、多くの事例がある。ことばとはそれほどか弱い(はかない?)ものなのだ。たとえば同じ形容詞の「とんでもない」は、「ない」は「たいそう~だ」という意味で、「とんでも」が「無い」という意味ではない。にもかかわらず、「とんでもあり(ござい)ません」という誤用から生まれた言い方が慣用になってしまっている。
 「潔い」がそうならないためにも、「いさぎよい」と言うときは、心の中で「いさ・ぎよい」で切れるんだと意識する必要があるのかもしれない。

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