第171回
「やばい」の新しい意味

 NHKが主催する全国高校放送コンテストという、高校や専門学校などを対象とした学内放送のコンテストがある。今年も7月下旬に全国大会が行われているので、各部門の優勝校はすでに決まっているはずである。
 今年の春先にそのコンテストにエントリーする予定だという関西の高校から電話があった。「やばい」という語の語源について、話をして欲しいというのである。ラジオドキュメント部門に出品する作品を制作していて、話の内容を録音して番組で使いたいのだと言う。電話とはいえコンテスト用となると責任重大で、かなり緊張してしまった。
 そのとき話をした「やばい」の語源とは、以下のような内容である。
 「やばい」はもともと「やば」という語があって、それから生まれた語である。「やば」は「法に触れたり危険であったりして、具合の悪いこと。不都合なこと。あぶないこと。」(『日本国語大辞典 第2版』)といった意味の語である。
 十返舎一九の『東海道中膝栗毛』(1802~09)には「おどれら、やばなことはたらきくさるな」(六編上)という用例がある。
 あぶないことをなぜ「やば」というのかよくわからないのだが、のちに「やばい」という形容詞も生まれる。前後関係は不明ながら、明治時代の隠語辞典を見ると、てきや・盗人などが官憲のことを「やば」と呼んでいたらしく、また、そのような世界の人が官憲などの追及がきびしくて身辺が危ういときにも「やばい」と言っていたらしい。それがのちに一般化したと考えるのが妥当と思われる。
 ここまでは、高校生の取材に対して答えた内容である。
 だが、国語辞典としては、「やばい」には語源以上に大きな問題がある。と言うのは、従来この語は良くないことや望まないことに対して使われていたのだが、最近「このカレー美味しい、やばいよ」などというプラスの評価で使う言い方が現れたからである。
 この意味の扱いは、今のところ辞書によってもまちまちである。大きく分けると以下の3つになる。
1、現象として紹介しているもの
2、特に注記もせず新しい意味として認めているもの
3、まだその意味を認めていないもの
 この、「やばい」の新しい意味をどのように扱っているかで、読者の辞書に対する評価も分かれるかもしれない。筆者は、よほど親しい相手でなければ使わないようにしているのだが、皆さんはいかがであろうか。 
【追記】
NHK主催の第60回全国高校放送コンテストの決勝大会は、今年の7月23日(火)~25日(木)に東京で開催され、上記の関西の高等学校はラジオドキュメント部門で、みごと入選を果たしたようです。おめでとうございます。

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