第207回
「憮然たる顔」ってどんな顔?

 「憮然(ぶぜん)たる面持ちで席を立つ」という文章を読んだとき、みなさんはどのような情景を思い浮かべるだろうか。
(1)腹を立てて、蹴立てるように席を立つ
(2)がっかりして、呆然(ぼうぜん)とした様子で席を立つ
本来の意味はというと、(2)である。
 ところが、最近は(1)だと思っている人も多く、文化庁が発表した2007年(平成19年)度の「国語に関する世論調査」でも、本来の意味である「失望してぼんやりとしている様子」で使う人が17.1パーセント、従来なかった意味の「腹を立てている様子」で使う人が70.8パーセントと逆転した結果になっている。
 「憮然」の「憮」という漢字は、「憮然」以外にはほとんど熟語として使われることはないのだが、がっかりするさまや、驚きいぶかるさまといった意味である。
 だが、最近の国語辞典の中には「憮然」の新しい意味の広がりを受けて、たとえば『精選版日本国語大辞典』(2006年)のように、「不機嫌なさま。不興なさま」という意味を載せるものも出てきている。『精選版』は、ちょっとわかりにくい例だが、松本清張の「関は憮然としてたばこをすった」(『濁った陽』1960)という用例を根拠にしている。この用例は『精選版』の親版に当たる『日本国語大辞典 第2版』(2000~01)のときにはなかったもので、『精選版』で新たに採用したことによって意味も加わったのである。
 なぜ「憮然」の意味が変化したのか、詳しい理由はよくわからない。可能性としては、「ぶぜん」の「ぶ」という音が、不機嫌な様子を表す「ぶすっと」などの「ぶ」と関連があるように受け止められたからかもしれない。
 いずれにしても、「憮然」の新しい意味を載せる辞書は今後も増えていくものと思われる。

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