第216回
「物議」は、どうなるのか?

「大臣の発言が物議(ぶつぎ)を醸(かも)した」などというときの、「物議を醸す」だが、これもまた本来なかった言い方が広まりつつあることばである。どのようなものかというと、「物議を醸し出す」「物議を呼ぶ」という言い方である。みなさんはいかがだろうか。「物議」とは世の人々の議論という意味だが、「物議を醸す」の形で世間の議論を引き起こすという意味になる。
 文化庁が発表した2011(平成23)年度の「国語に関する世論調査」では、「物議を醸す」を使う人が58.0パーセント、「物議を呼ぶ」を使う人が21.7パーセントという結果が出ている。すべての世代にわたって「物議を醸す」を使うという人の割合のほうが多いのだが、10代は「物議を醸す」42.3パーセント、「物議を呼ぶ」 26.9 パーセントと両者の差がやや縮まりつつある。
 「物議を醸し出す」の調査はないのだが、インターネットで検索するとけっこう引っかかるので、この言い方も着実に増えているものと思われる。
 「醸す」は、麹(こうじ)を発酵させて、酒・醤油などをつくる、すなわち醸造するという意味で、そこから転じて、「物議を醸す」のような、ある状態・雰囲気などを生みだすという意味になった。
 「醸し出す」は、ある気分や感じなどをそれとなく作り出すという意味で、「楽しい雰囲気を醸し出す」のように「雰囲気」とともに使われることが多い。
 「物議を呼ぶ」はおそらく「論議を呼ぶ」との混同であろう。
 なお、『日本国語大辞典 第2版』によれば、「物議を起こす」という言い方もあったことがわかる。たとえば、正岡子規の以下のような用例がある。

 「いかがはしき店の記事にてありしため俄(にわか)かに世間の物議を起し」(『病牀六尺』1902年)

 「物議を起こす」は、正岡子規以外の用例もけっこう見つかっているので、「物議」は「醸す」とだけ結びついているわけではないことがわかる。「物議を呼ぶ」「物議を醸し出す」は本来なかった言い方だが、それを誤用だと断定する根拠は希薄なのかもしれない。

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