第221回
「おざなり」と「なおざり」

 「おざなり」と「なおざり」の違いがわからないのだが、どう区別すればいいのだろうかという質問を受けた。
 このふたつのことばの関係は、確かに不思議だ。順序が違うだけで、どちらも「お」と「ざ」と「な」と「り」の同じ4文字で成り立っているではないか。まるでアナグラムである。なんともまぎらわしい。
 漢字で書くと、「おざなり」は「御座形」、「なおざり」は「等閑」となる。おそらくどちらも当て字であろう。「なおざり」の方の「等閑」は「とうかん」と読むと、「なおざり」とほとんど同じ意味の漢語となる。
 「おざなり」はふつう、「いいかげんに物事をすること。その場のがれで誠意のないさま。まにあわせ。」という意味とされる。また、「なおざり」は、「深く心にとめないさま。本気でないさま。いいかげん。通りいっぺん。かりそめ。」などと説明される(『日本国語大辞典 第2版』)。
 これらの語釈からも分かるように、この2語は「いいかげん」という点で共通しているのだが、何かを行うとき「おざなり」は、その場のがれであまり真剣には取り組まないという意味を表すのに対して、「なおざり」はその物事にあまり注意を払わないという意味が強いように思われる。
 「おざなり」には江戸時代のものだが、こんな用例がわかりやすいのではないか。
 「お座なりに芸子調子を合はせてる」(雑俳『柳多留‐五八編』(1811年))
 芸者が酔客の歌に「ああ、こりゃこりゃ」などと、まったく心がこもらず適当に合いの手を入れているのであろう。
 「なおざり」には、このようなわかりやすい用例はあまりないのだが、たとえば、「どうも児供(こども)の時教育を等閑(なおざり)にしたものには困る事が多いもので」(永井荷風『地獄の花』1902年)のように使われる。教育をじゅうぶんにしなかったという意味である。
 要するに、「子どものしつけをおざなりにする」「子どものしつけをなおざりにする」はともに言えるのだが、意味が異なるのである。「しつけをおざなりにする」は、熱心ではないながらも、何らかのしつけはすることであり、「しつけをなおざりにする」は、しつけをすることをほったらかしにしてしないという意味になる。だから、「おざなりのしつけをする」とは言えても、「なおざりのしつけをする」とは言えないのである。
 ちょっと乱暴かもしれないが、「おざなり」=なげやり、「なおざり」=ほったらかし、ということになろうか。

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