第226回
「~したあげく」どうなるのか?

 みなさんは以下の文章を読んでどのように感じるだろうか。

 「思いっきり陽気で派手で華やか好みの女の子が、猛勉強のあげくハーバード・ロウ・スクールに入学、弁護士をめざす。」(中野翠『クロワッサン』2002年)

 いかがであろうか。「あげく」という語の使い方に違和感を覚えた方が大勢いらっしゃるのではないかと思う。
 「あげく」は「……したあげく(に)」の形で、結果として次のことが生じたということを強調した言い方で、従来よくない結果になる場合に言うことが多いとされてきた。実際、国語辞典の中でもそのような指摘をしているものも少なくない。そのため、この例文のような成功事例の場合はふさわしい使い方ではないと感じられるのであろう。だが、最近このような使い方がしばしば見られるようになってきているのである。
 「あげく(挙句)」とは、もともとは連歌、連句の最後の七七の句のことで、それが「結局のところ」「その結果として」という意味に転じたものである。『日本国語大辞典 第2版』(『日国』)によれば、本来の「挙句」は「一巻の終わりの最後の句であるので、物静かで穏やかに、少し祝言の内容を含むのがよいとされ」、この段階では好ましくない結果を予感させる要素は存在しない。
 「あげく」が「結局のところ」の意味に転じるのは、『日国』によると連歌が最盛期となる室町期のようで、その意味での以後の用例は、程度の差はあるが好ましくない結果か、中立的な結果となる場合が多く、成功事例と言えるものは見られない。つまり本来の「挙句」に込められていた祝言的な要素は、「あげく(に)」に転じるうちに、あまり時をおかず失われてしまったのかもしれない。
 冒頭に引用した成功事例のような場合は、無理に「あげく」を使わず、「結果」や「すえ」を使ったほうが、すわりがよさそうだ。
〔本稿は、国語研究所とLago言語研究所が開発したNINJAL-LWP for BCCWJを利用しました。〕

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