第235回
なぜか歌詞によく使われる「風の○」とは?

 日本のフォークグループ、アリスが1978年にヒットさせた「ジョニーの子守唄」という曲をご記憶だろうか。また、1970年に渚ゆう子が歌って大ヒットした「京都の恋」という曲はいかがであろうか。さらに古い話で恐縮なのだが、1951年に津村謙が歌って大ヒットした「上海帰りのリル」という曲は。
 ここでひとつ問題である。この3曲の歌詞の中に今回話題にしたいことばが共通して出てくるのだが、何かおわかりだろうか。
 答えは、「風の噂(うわさ)」である。「京都の恋」にいたっては歌い出しに使われているので、私と同世代か少し上の世代の方なら、そういえばカラオケでそう歌っていたという方も大勢いらっしゃることであろう。
 ところが、残念なことにこの「風の噂」も、誤用だと言われていることばなのである。では何が正しいのかというと「風の便り」である。
 だが、歌謡曲の歌詞にこれほど使われているということは、「風の噂」はかなり広まっていると思わざるを得ない。歌謡曲だけではない、今年亡くなった作家の渡辺淳一氏も『風の噂』という小説まで書いている。本来の言い方「風の便り」が忘れ去られてしまったのではないかと危惧(きぐ)されるほどである。
 「噂」は「風評、風説、風聞」といった意味で、風が伝えてくる話という意味があるので「風の噂」は重言だから間違いだという説明をする人もいる。確かに原則論からすればその通りなのかもしれない。だが、これだけ実例を突きつけられてしまうと、見出し語として辞書に登録するのにはまだ抵抗があるものの、もはや誤用と切り捨てることなどできないのではないかと思えてくるのである。

 以下蛇足ながら、歌謡曲ではなぜか影の薄い「風の便り」だが、これもいいことばなので忘れないでほしいと思うのである。
 「風の便り」は、風が伝え手となって何かを知らせてくれる、あるいは風そのものが使者であるというのが本来の意味。それがやがて、どこから伝わってきたともわからないうわさ、だれが伝えたとも言えないような話という意味になる。いかがであろう、どこかで使ってみたくなることばではないだろうか。

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