第232回
「チンする」のような語は江戸からあった!

 以下の語の意味をご存じだろうか?

 「愚痴(ぐち)る」「事故(じこ)る」「告(こく)る」「きょどる」「サボる」「パニクる」「タクる」「ディスる」「チンする」「お茶する」

 いずれも先日文化庁が発表した2013(平成25)年度の「国語に関する世論調査」で、意味の広まり具合の調査が行なわれた語である。これらは「~る」「~する」を伴って動詞化した語だが、世代によって聞いたことがあるかどうか、あるいは実際に使うかどうかの差はかなり大きいのではないか。
 かくいう私はというと、「ディスる」などは最近になって知った語であった。だが、さすがと言うべきか、新語に強い『大辞泉』にはすでに載っている。意味は「否定する。批判する。けなす。」とある。
 「ディス」は英語「ディスリスペクト(けなすこと、否定すること)」からで、『プログレッシブ英和辞典』によると、英語の俗語でも dis は見くびる、さげすむという意味で使われるらしい。だが、文化庁の調査でもこの語を聞いたことがないという人が73.7%もいるのである。使う場所をわきまえるべきことばだと言えそうだ。
 このように「~る」「~する」の形で動詞を作るのは、比較的新しい造語法のように感じられるかもしれないが、実はそのようなことはない。江戸時代に、すでにこのようなことば遊びに近い感覚で新語が造られているのである。
 『日本国語大辞典』にも、以下のようなことばが江戸時代の用例付きで載っている。

「けんび(剣菱)る」:伊丹産の銘酒である剣菱を飲む。
「じぐ(地口)る」:地口を言う。しゃれを言う。
「しゃじく(車軸)る 」:(大雨が降ることを「車軸を流す」というところから)大雨が降る。
「ちわ(痴話)る」:男女がいちゃつく。
「ちゃづ(茶漬)る」:茶漬飯を食べる。

 「けんびる」のように、固有名詞まで動詞化させてしまうものまである。そういえば私と同世代だが、元巨人のピッチャー江川卓氏が巨人に入団する際におきた一連の騒動を、「江川る」と言っていた。これなども同じ造語法である。
 茶漬けを食べるという意味の「ちゃづる 」も面白い。お茶漬けで有名な食品メーカーとは縁もゆかりもないのだが、ちょっと広めてみたいことばである。

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