第245回
「なにげに」

 「なにげにあの人のことを食事に誘ってみたいんだけど」という文章を見かけたり聞いたりしたとき、皆さんはどう感じるだろうか。「なにげに」っていったいどういう意味? 俗語っぽくてなんだかやだな! など、反応はさまざまかもしれない。だが、この「なにげに」はじわじわと広まりつつあるのである。
 まず「なにげに」の意味を確認しておこう。文法的に説明すると形容詞「なにげない」の「ない」を取って、形容動詞活用語尾である「に」を付けて副詞化した語である。意味は「なにげなく」とほとんど同じで、はっきりした考えや意図がなくて行動するさまを表す。ところが最近は「あいつってさ、なにげにすごくない」のように、思いのほか、わりあいといった、「なにげない」にはなかった意味で使われることもある。
 そもそもこの語がいつごろから使われるようになったのかは不明だが、『大辞泉』には「昭和60年代の初めかと思われる。」とある。
 同様の語に「さりげない」から派生した「さりげに」がある。「さりげに」も形容詞の「さりげない」の「ない」を取り、形容動詞活用語尾「に」を付けて副詞化した語である。たとえば「学生時代の友人と会うので、さりげにおしゃれをする」のように使う。
 「なにげに」はじわじわと広まりつつあると書いたが、文化庁が毎年行っている「国語に関する世論調査」でもそれが裏付けられる。というのも2003(平成15)年と2011(平成23)年の2回にわたってその広まり具合が調査され、2003年では、「なにげに」を使うと答えた人が23.5%、使わないと答えた人が75.7%だったのに対して、8年後には、使う28.9、使わない70.3%と、使うと答えた人がわずかながら増えている。
 使うと答えた人の数はまだあまり多くはないが、意味はわかるという人ならさらにいそうである。
 国語辞典の扱いはまちまちだが、最近改定されたものでは、見出し語「なにげない」の中で、「なにげに」は誤用であると解説しているものと、誤用あるいは俗語ではあると断った上で「なにげに」を見出し語として立てているものとに分かれる。趨勢(すうせい)としては、新しい辞書では肯定派か否定派かは別にして、何らかの形で「なにげに」に言及しているものが増えつつあると言えそうだ。
 ちなみに似た意味の「さりげに」は「なにげに」ほどは目立たない語なのか、この語が見出し語として載せられているのは現時点では、『大辞泉』『広辞苑』と限られた辞書だけである。文化庁には「さりげに」の調査も望みたいところだ。

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