第291回
「寝巻」と「寝間着」

 夜寝るときに着る物をなんと言っているだろうか。大方はパジャマ、ネグリジェかもしれない。だがそのことではなく「ねまき」の話である。
 パジャマに押されて「ねまき」はやや古めかしい感じのことばになってしまったが、これを漢字で書くときは何と書いているだろうか。調査をしたわけではないが、「寝間着」のほうが多いのではないか。ワープロソフトでも最初に変換されるのはほとんどが「寝間着」である。新聞などでも「寝間着」と表記するようにしている。
 だか、この表記は当て字で、「寝巻」が本来の表記だったと思われる。室町時代の国語辞書『運歩色葉集(うんぽいろはしゅう)』にも「寐巻 ネマキ」とある。「寐(び)」は、ねる、ねむるの意である。
 「ねまき」の語源はよくわからないのだが、江戸時代の国語辞書『俚言集覧(りげんしゅうらん)』に「寝纏の義」とあるように、寝るときに体に巻きつける衣類という意味があったのかもしれない。
 「寝間着」のほうは比較的新しい表記で、おそらく「寝間(=寝室)」で着用する衣類という意識で生まれたものであろう。古い用例はあまり見られずほとんどが明治以降のものである。
 たとえば、樋口一葉の『にごりえ』(1895年)の中にも、「これは此子の寝間着の袷(あわせ)、はらがけと三尺(さんじゃく)だけ貰って行まする」とある。「袷」は裏地のついている衣服のことで、貧しさゆえ就寝時に着る物はこれしかなかったのかもしれない。
 「寝巻」と「寝間着」の使い分けは厳密にはないと思われるが、「寝巻」は一般に浴衣(ゆかた)の形式の和服のものをいい、「寝間着」のほうはもっと広く室内着のようなものも含めて呼んでいるかもしれない。
 さらに表記に関して細かなことを言えば、「寝巻」だと語の構成は「ネ・マキ」だが、「寝間着」では、「ネマ・キ」になってしまう。また、「寝間着」の読みは「ネマギ」になる方が自然かもしれない。
 ただしそのようなことは重箱の隅をようじでほじくるようなことで、「寝間着」はよくできた当て字だと思う。

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