第336回
「共働き」と「共稼ぎ」

 「共働き」と「共稼ぎ」は、夫婦が揃って勤めに出て家計を支えるということで、意味的にはほぼ同じように使われる。だが、「共働き」は「共稼ぎ」の語感を嫌って使われるようになった語だと言われていて、新聞なども「なるべく『共働き』に言い換える」(時事通信社『用字用語ブック』)としている。「共稼ぎ」は「金を稼ぐ」という意味合いが強いため、そこが嫌われた理由であろうか。
 『日本国語大辞典』(『日国』)によれば、「共働き」の語が使われるようになったのは比較的新しく、昭和初年ころからのようである。『日国』の「共働き」項には、婦女界社編輯部編の『結婚心得帖』(1930年)の例がもっとも古い例として引用されている。ただ辞書の例文なので仕方の無いことではあるが、引用されているのは一部分だけなのだが、面白い例なので、その前後を含めて引用しておく。「共働き夫婦の心得(十一ケ条)」という中にある。

 「3 家事に手を貸せ、口出すな
 共働き─それは一種の戦時状態です。妻より先に帰宅したら時計を睨んで待ってゐる間に、火鉢の火位はおこしておくこと。それはしないで、口先ばかりで手伝はれたのぢゃ、いつか不平が爆発するのは知れきった話です。」

 いかがであろうか。現代の男性にも耳の痛い内容だと思う。
 語感が嫌われたと言われている「共稼ぎ」は、江戸時代から見られる語である。ただし、たとえば、『日国』で引用されている、

*浄瑠璃・夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)(1745)二「それより堺の南の棚で夫婦友かせぎの魚商売」

のように、現在のような夫婦が別々に働きに出ているのではなく、一緒に商売や農業などをしていて生計を立てているという例がほとんどである。
  「共稼ぎ」は、辞書によっては「『共働き』の古い言い方」(三省堂『現代新国語辞典』)などとしているものもあるくらいで、現代語の辞書ではやがて消えてしまう運命にあるのかもしれない。それはそれでちょっと寂しい気もする。

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会場 新宿NSビル 3階 3J会議室
参加費【一般】1,800円【学生・院生】1,200円 (会場費・予稿集代等を含む)
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