第38回
「御の字」は意味が変わってしまったのか?

 「大工調べ」という落語に、
 「あのな一両二分と八百の所へ八百もってってグズグズ言おうてんじゃねえんだ。一両二分、親方の方を持って行くんじゃねえか。八百ばかりはおんの字だい」(柳亭左龍『使ってみたイキでイナセな江戸ことば』)という江戸弁の見本のような啖呵を切るところがある。
 大家に店賃(たなちん)のかたに道具箱をとられてしまって仕事ができないという与太郎に、大工の棟梁(とうりょう)が店賃の一両二分八百のうち持ち合わせの一両二分を渡して払わせようとすると、大家は八百足りないからと道具箱を返そうとしない。大家のあまりにも因業な態度に棟梁は腹を立て、大家にぽんぽんと威勢よく罵詈(ばり)雑言を浴びせるという場面である。
 この「御の字」だが、「出費が5千円で済めば御の字だ」のように、 「非常に結構なこと」、「極めて満足なこと」というのが本来の意味である。
 ところが近年、「いちおう納得できる」という誤った意味で使う人が増えてきているという。文化庁が発表した平成20(2008)年度の「国語に関する世論調査」でも、「大いにありがたい」で使う人が38.5パーセント、「いちおう、納得できる」で使う人が51.4パーセントという逆転した結果が出ている。
 このような調査結果が出たからと言って、現時点で間違った意味を辞書に登録するのは時期尚早であろう。 
 なお、「恩の字」という表記例も見かけるが、元来は「御」の字を付けたいほどの、という意味なので、これまた誤りである。

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