第364回
「絆(きずな)」は深まるものか?

 毎年年末になると、財団法人日本漢字能力検定協会が発表する「今年の漢字」が話題になる。旧聞に属することだが、2011年のそれは「絆」であった。この年は3月11日に東日本大震災があり、家族や仲間などとの「絆」が再確認されたことが選定の理由であった。
 そして、日本漢字能力検定協会が「絆」が表す2011年という年について総括した文章の中に、以下のような部分がある。

 「SNSをはじめとするソーシャルメディアを通じて新たな人との『絆』が生まれ、旧知の人との『絆』が深まった。」

 これを読んで、ひょっとすると違和感を覚えたというかたがいらっしゃるかもしれない。そのかたはおそらく、「絆」は「深まる」「深める」ものではなく、「強まる」「強める」が正しいとお考えになっているのではないだろうか。なぜそのようなことをいうのかというと、国語辞典でそれについて触れているものはないのだが、インターネットを見ると、「絆が深まる」「絆を深める」を誤用だとしているものが見受けられるからである。
 「絆」という語は、今でこそ人と人との断つことのできない結びつきの意味で使われているが、もともとは馬、犬、鷹(たか)などの動物をつなぎとめる綱のことである。
 『日本国語大辞典』によれば、鎌倉時代の辞書『名語記(みょうごき)』(1275年)には以下のような記述がある。

 「きづなといへる、つな、如何。きづなは紲とかけり。くびつなの心也。頸綱也」

 「きずな」の「き」は不明ながら、「ずな(づな)」は「つな(綱)」と理解されていたことがわかる用例である。
 そのため、現代仮名遣いのよりどころとされる「現代仮名遣い」(1986年内閣告示)でも、

 「次のような語については、現代語の意識では一般に二語に分解しにくいもの等として、それぞれ「じ」「ず」を用いて書くことを本則とし、「せかいぢゅう」「いなづま」のように「ぢ」「づ」を用いて書くこともできるものとする。」

として、「きずな(絆)」もその例に挙げている。つまり「きづな」と書くことも許容されるというわけである。
 「絆が深まる」「絆を深める」を誤用だとしている人の中には、「つな(綱)」と関わりのある語なので、「深まる(深める)」ではなく「強まる(強める)」が正しい結びつきだと説明する人もいる。
 確かにそうなのかもしれないが、現代語としては語源意識も薄れてしまい、そうした中で「絆が深まる」「絆を深める」という言い方が生まれたものと考えられる。
 実際、国立国語研究所のコーパス(大規模な言語資料データベース)を見ると、「強まる(強める)」よりも圧倒的に「絆が深まる」「絆を深める」の例の方が多い。
 小型の国語辞典の中でも『三省堂国語辞典』は「絆が深まる」の、『新明解国語辞典』は「絆を深める」の例を載せている。「絆が深まる」と「絆を深める」は、もはや誤用とは言えないと思われる。

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