第71回
「ありがとう」の語源

 「ありがとう」の語源はポルトガル語の「オブリガード」から来ているという説が巷(ちまた)でけっこう話題になっているのをご存じだろうか。その逆で「ありがとう」が「オブリガード」になったという説もあるらしい。いずれにしても「アリガート」と「オブリガード」はよく似ているというのが根拠のようだ。日本人がポルトガルに行くと、しばしばそのように言われるらしい。
 だが、「ありがとう」は、形容詞「ありがたい」の連用形「ありがたく」がウ音便化した語で、ポルトガル語が日本に伝わる前から使われてきたれっきとした日本語である。ただし、日本にポルトガル船が来港し、日本人がポルトガル語と接触するようになった16世紀後半は、感謝の意味を表すことばは「ありがとう」ではなく「かたじけない」が主流であったと考えられているのだが。「ありがとう」が広まるのは江戸時代になってかららしい。
 確かに日本語の中にはカステラ、タバコ、パンなどのようにポルトガル語から取り入れられた語も少なくない。だが何となく音が似ているということだけで判断したら、映画「マイ・ビッグ・ファット・ウェディング」に出てくる、世界の言語は日本語も含めてすべてギリシア語が語源であると主張するお父さんと同じになってしまう。
 日本語を母語として使っている限りは、「こんにちは」「こんばんは」「さようなら」「おはよう」といったCMで話題になった“魔法のことば”くらいは、外国人にもちゃんと語源が説明できるようにしておきたいものだと思う。

キーワード:

さらに悩ましい国語辞典
―辞書編集者を惑わす日本語の不思議!―

日本最大の辞書『日本国語大辞典』の編集者はまだまだ悩んでいる! 辞書で定義しずらい言葉の悩み辞書にした「悩ましい国語辞典」の第2弾。
そんたく【忖度】[名]「忖」も「度」もはかるという意味。他人の心を推し量ることで「なにか配慮をする」の意味はない。/しんしゃく【斟酌】配慮までする意味なら「忖度」でなく、「斟酌」の方がしっくりする。この語「手加減する」と意味は変化し続け、今、忖度で起きている現象が斟酌でも起きている……

悩ましい国語辞典
―辞書編集者だけが知っていることばの深層―

「日本国語大辞典」の編集担当者を惑わすことばの不思議スリリングに揺れる日本語の深さ! 面白さ満載!
「うがった見方」は「疑ってかかるような見方」ではない/「悲喜こもごも」を合格発表の描写で使うのは誤り/「まじ! 」は、江戸時代の小説に使用例がある/スコップとシャベルはどちらが大きいか?西日本と東日本では違う/「谷」を「や」と呼ぶのは音読みでも訓読みでもない方言/「あばよ」の語源は幼児語の「アバアバ」

ジャパンナレッジとは

ジャパンナレッジは約1500冊以上(総額550万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る