「清少納言ったら、中宮様のお覚えのめでたいことを
ここだけの話よ、などと言いながら、彼女はさも得意げに、ことばに節もつけるように、最初の聞き手にささやいたにちがいない。そんな話がまわりまわって、斉信の耳に入ったときには、相当毒が入って、ひどくいやな女としての清女像が出来上がっていたかもしれない。
そして、最後は、斉信大立腹の情報が清女の耳に入ってきたのだ。
「なんで、あいつを一人前の人間だと思って、ほめたりしたんだろう、って斉信様はくやしがり、
どんなこきおろしなのか、想像するだけでも恥ずかしい気がしたが、清女は聞き流すことにした。
もともと「すずろなるそらごと言」いい加減な作り話なのだ。いまに、ほんとうのことがわかって、ご機嫌を直してくださるわ。彼女はそう思って、そんな情報を持ってきた人には、ただ微笑だけを返しておいた。
もちろん、内心はこたえていた。斉信といえば、清女の一目も二目もおく人。顔も頭もピカ一、センスは抜群、絵から抜け出たような男と、見とれるときさえある。しかも、けんらんたる学識の持ち主、その
だが、あえて、清女はがまんして、時を待つことにした。事実無根のことだし、いがみあい、争いあう自分の姿は美的ではないと思う。
斉信の憎しみはエスカレートしていくばかりだった。
まあ、ずいぶん、私も憎まれたものだわ。「袖の几帳」っていうのは恐れ入るわ。
そう思うと、清女は何やらそこに、すねた男の甘えのようなものを感じて、ふっとおかしくさえなった。
こちらも、ものも言わず目も合わさずそのままやり過ごしていて、日が経った。
そして二月も終わる頃の、雨が降りしきり、退屈な日……。その日は宮中は
「やっぱり、清少納言と絶交してると、なんだか物足りなくて、さびしいよ。なんか言ってやろうかなんて、斉信様がおっしゃってるそうよ」
どこから聞いてきたのか、女房たちがそんな話を耳に入れるのを、「まさか、そんなことあるはずがないわ」と、清女は軽くあしらっておいた。
心の中には、チラと楽しい思い出も通りすぎた。退屈な夜など、以前は遠慮もない口をたたき合いながら、
雨の一日、彼女は自室にこもり、夜になって参上すると、中宮様はもうおやすみになっていた。中宮様とお話しできない夜なんて、つまらなすぎる、とは思ったが、そのまま、
「だれそれさん、いらっしゃいますか」
と、いやに派手に呼ぶ声がする。よく聞けば、自分を呼ぶ声に清女は気づき、若い女房に応対させてみると、なんと、斉信からの直々の手紙というではないか。しかも、お使いの