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2009年01月

JKボイス-セミナーレポート:ジャパンナレッジ eBook/電子情報の徹底使いこなし~利用率向上のための具体的施策~
イェール大学図書館における電子ブックのユーセッジとユーザビリティー

中村 治子さん
(なかむら はるこ)
イェール大学
日本語図書ライブラリアン
電子ブック先進国である米国でも、当然のことながら、その数は増加の一途をたどっています。学生の利用率を向上させるため、イェール大学では如何なる調査を実施し、それらを実際の利用環境に反映させているのでしょうか?
第10回図書館総合展
2008年11月26日(水)
会場:パシフィコ横浜(神奈川県)

イェール大学における電子ブックの利用状況

 みなさんもご存じのように、アメリカの大学図書館が提供する電子ブックの数は、年々確実に増加しています。私どもイェール大学でも、NetLibrary、ebrary、ProQuest、Knovel、Yale University Pressなどの商業ベースのプロバイダから購入する電子ブックもございますし、大学内でデジタル化される資料などもコレクションに加えております。資料1

 当館での電子ブックの数は2005年1月の時点で約50万冊だったのが、その3年後には、契約しているパッケージ購入などから約2倍の84万冊に増加いたしました。資料2
 これにあたり、本学では利用者の間でどのように電子ブックが使用されているか、特に何が電子ブックの利用の向上につながるか、または利用を妨げる要因は何かを知ることが最近の課題になっています。この問題は、電子ブックのアクセスの改善、ユーザビリティと利用者のニーズの理解を深めること――ユーセッジと言っていますが――それに深く関わってきています。

 ユーセッジというのは、「使用率」などと定義されておりますが、どのような頻度で電子ブックが利用されているかということです。また、ユーザビリティは、どのくらい簡単に電子ブックにアクセスができ、利用しやすいかということです。資料3

 アメリカでは現在、電子ブックの使用率の統計と動向はとても人気のあるトピックです。これらの統計は、電子ブックの使用率が、利用者の電子ブック認識と、電子ブックのアクセスの問題に大きく関わっていることを表示しております。資料4

 これが、Springer が行った電子ブックの使用率の統計です。資料5
 ここでも、電子ブック使用率の一番の問題は、「電子ブックが提供されているという認識がない」との回答があります。eburaryとSpringerの調査は、何が電子ブックの使用を促進するか、また妨げるかを明確にしています。
 本学では、これらの調査結果をふまえ、電子ブックの認識や検索能力、アクセスの簡易化など、問題の解決に努めています。たとえば、電子ブックの目録を改善することや、電子ブックの件名と出版社のリストを作成し、提供しています。NetLibraryやSpringer など、多数の電子ブックのプロバイダは、アルファベット順のリストも提供しています。そして本学が電子ブックのアクセス改善のためにいちばん関心を向けているのは、インターフェイスのユーザビリティに注意を向けていることです。

イェール大学のユーザビリティ向上への取り組み

 本学では、多数のインターフェイスから、電子ブックへのアクセスが可能になっています。電子ブックの多数のアクセスは、使用率の改善につながりますが、同時に、種類の異なるインターフェイスは利用者の混乱の元になってもいます。現在、総合図書館で使われているOPAC、法律学部の図書館のOPAC、ebrary、NetLibrary、Googleのインターフェイスがあります。

 図書館では、資料の検索機能を向上するため、メインのOPAC以外に、Library2.0の機能をサポートする新しいタイプのOPACを加える企画があり、効果的なインターフェイスを作成するための議論と調査が盛んに行われています。
 その調査のひとつに、電子ブックのユーザビリティを測定し、簡易で迅速な方法で電子ブックの提供を目指すための調査が行われました。
 調査は、医学生と看護学生を対象に、構想中のインターフェイスから電子ブックを効果的に検索できるかということを測定しました。詳細な結果は省きますが、この調査とほかの議論などから、インターフェイスのユーザビリティを向上する具体的な改善方法が提案されたので、それをご紹介します。ただし、これらの提案は図書館資料全体のもので、必ずしも電子ブックだけに当てはめるものではなく、また、現在の技術で現実化が可能でないものも含まれています。

 まず、検索のインターフェイスで理解したいのは、利用者がどのような検索方法を望んでいるか、ということです。
 私たちが発見したのは、多くの利用者が、Googleなどの人気のあるサーチエンジンに、情報の探し方や見方などが影響されているということです。たとえばインターフェイスは混乱のない一律のもので、Googleのように簡単なものを好んでいます。また、情報を探す方法は、特定の文型やサイトアドレスの入力ではなく、サーチエンジンから検索して情報を取り出しています。インターフェイスは、探したい情報がどこでも検索可能で、使用するにあたって障害が少ないこと。ユーザー各自のワークフローに取り込みができること。それから、特定のハードウェアの環境からの自立ということが望まれています。

 LibXという機能は、特定のコードをプラグインとしてインストールすれば、インターネットエクスプローラなどのプラットフォームの上で、当館のOPACやワールドキャットを検索できます。たとえば、JapanKnowledgeを見ていて「栄華物語の研究」という書籍を図書館のOPACで検索したい場合、タイトルや著者をコピーして、そのままLibXで検索することができますし、この「栄華物語」という言葉をコピーして、Google Scholarで検索できるようになっています。
 そのほかにも、言葉を入力している間に単語を提案するJSON(Java Script Object Notation)という機能や、綴り間違いの自動修正など、検索をサポートする機能が提案されています。

 また、ほかのユーザーが資料に関連のある単語を登録するタギングという機能があります。これは、特定の地域にあったタギングが利用者の間で有効な情報になるという特典があります。たとえば、イェール大学内で教授がタグした図書などは、後に生徒たちの研究にとって、とても役立つ情報になります。
 そして、トピックモデリングという新しい種類のテキストマイニングの技術では、電子資料のメタデータやテキストから関連のあるトピックを摘出して、検索した言葉に関係のある資料を提案します。本学では、ミシガン大学とカリフォルニアアーバイン校と共同で科研費をいただいて、この技術を使って、資料の検索に役に立てるプロジェクトを進めています。

 また、インターフェイスの詳細検索では、改良された限定検索が可能で、書籍だけではなく、全文、画像、音声、データセットなどすべてのフォーマットを多言語で検索できる機能が望まれているようです。米国議会図書館が構築中のワールドデジタルライブラリのインターフェイスでは、資料のフォーマットをどんな言葉でも検索でき、また、その資料を多言語で提供できるようメタデータの作成を心がけているようです。

 次は、検索結果の表示についてです。この表示にはどんな要素を含めれば良いか、これも利用者の検索結果の見方を考慮しています。
 たとえば、Googleなどの検索画面は、企業などの宣伝が右側にあるので、利用者は右側に位置する情報を無視しがちになります。ですので、重要な情報は左の画面に表示するとされています。

 この書籍は重要か、正確か、などの付加価値のあるメタデータが提供されれば、利用者が資料を見分ける手助けになります。
 また、電子ブックの文献情報が、RefWorksなどの文献情報管理ツールに接続されていることも重要だという調査結果が出ています。
 検索結果後の提案は、ユーザーをより適切な資料に導くためにとても重要です。まず、検索結果の画面にどの資料が、またどのように検索されたかが表示されていれば、利用のさらなる検索の手助けになります。そして、ファセットナビゲーションは、検索資料のトピックモデリングやLCSH(米国議会図書館件名標目表)などのメタデータなどを、時間・場所・トピック・言語などのグループに分類して、さらに精密な検索を援助する機能です。本学では、これらの機能の改善を重視しています。

 ほかの検索提案としては、新着図書のRSSフィードです。これはもういくつかの大学では実現していると思いますが、その図書の貸し出しや統計の表示、これはAmazonに類似している機能ですが、関連書籍の購入統計を使っています。そして、学術引用の図表の視覚化のような機能から、利用者のより良い検索を援助することが可能となってきています。

電子ブックをより有効に利用できる環境へ

 電子ブックの優れた点は、全文検索や多角的で携帯性のあるアクセスを提供できるところです。
 本学では、電子ブックの使用率増加に向けてアクセスの改善、およびユーザビリティの向上に努めていきます。向上させる方法として、多数使えるアクセスポイントを提供して、利用者が検索方法や検索結果を観察する心理を学び、良質なメタデータとその付加価値な情報の提供を促進しています。

 最後になりますが、私は、アメリカの大学で日本研究関連の資料の提供をしている立場から、日本研究者のための電子資料のデータベースを作成したり、研究者の方から日本の電子資料の問い合わせをよく受けます。
 そこで感じていることは、学生が研究をするテーマを決定する際に、簡易に入手できる資料の有無、強いて言えば、電子資料があるかないかで決定されやすいということです。もちろん、これは間違った研究テーマの決定方法ですが、現実はそのような傾向になっていると思います。その状況の中で、今後もっと日本の資料が電子化されることを期待しています。また、日本の電子資料の使用率の統計、また、電子資料の保存技術向上も期待しています。アメリカでは、PorticoやLOCKSSなどのコンソーシアムが盛んになっていますが、そういうことにつながることを希望しています。