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2009年02月

JKボイス-セミナーレポート:ジャパンナレッジ eBook/電子情報の徹底使いこなし~利用率向上のための具体的施策~
電子コンテンツを身近にする~お金を払うならムダなく使いつくそう~

飯野勝則さん
(いいの かつのり)
佛教大学図書館 専門員
電子コンテンツの限られた予算を如何に有効に使うか? 佛教大学図書館では、ポータルサイト上に各電子ブックへの独自ナビゲートシステムを構築するなど、様々な工夫を実行しています。そのご苦労と成果をお聞きしましょう。
第10回図書館総合展
2008年11月26日(水)
会場:パシフィコ横浜(神奈川県)

電子ブックの「入り口」の多様化を目指す

 今回はアカデミックなところから少し離れまして、図書館の現場で働いている者として、費用対効果に的を絞って話をさせていただきたく思っています。特に、システム面からどのように利用者に使ってもらう工夫ができるか、この点を中心に佛教大学での試みを紹介したいと考えております。
 やはり、みなさんが興味をお持ちになるのは、電子ジャーナルや電子ブックといった電子コンテンツにどのようにアクセスさせるか、という、まさにこの点ではないでしょうか。
 まず、OPAC(Online Public Access Catalog)から電子コンテンツにアクセスできる環境の提供。さらには外部の横断検索システムの利用、こういった手段がシステム面からは考えられます。資料1
 しかし、これにもやはり問題点があります。まずOPACというものは、元々が、伝統的な書誌カタログを紹介するために生まれたシステムです。書誌カタログというものは、目の前にない現物を見ることなく、それが「どういった図書」なのかを紹介するものです。そのためにその図書の特徴を捉えたメタデータを提供する役割を持っています。そのようなOPACですから、果たして電子ブックやデータベースなど、URLをクリックするだけで「目の前に現物を見られる」ものに対して、充分に対応できるのか、はなはだ疑問です。そもそも充分に対応させるべきなのかも分かりません。そういった用途はあるべきOPACの姿から離れているかもしれません。つまり、OPACは「目の前に現物を見られる」コンテンツに対して、メタデータの縛りなどから、必然的に限界が出てきたと考えられます。
 では、外部の横断検索システムはどうでしょうか。これには、2つの問題があると思っています。
 まず、「システム上の対応、非対応」の問題です。横断検索システムAが、ある電子コンテンツ供給サイトBを検索対象としてとりこむには、「AシステムがBサイトに対する検索技術を持っていること」と「BサイトがAシステムを受け容れるだけの対応技術を持っていること」の両面が必要です。当然一方だけが、その技術を有していて、他方はそのような技術を有していないことがあります。つまりシステムとサイトの両面に「対応、非対応」の問題は存在しているのです。これが一つ目の問題です。
 それから、Bサイトの中には、残念ながら「権利関係」や「価格体系」など技術以外の問題を理由にして、横断検索システムAの接続を認めないものも存在します。これが二つ目の問題です。
 となると、こういった面倒な問題を解決するためには、書誌的とか目録的な呪縛を離れたシステムが必要です。それでいてシステム的に大掛かりにならず、大学内だけで構築できるようなものが望ましいことになります。

佛教大学図書館における電子コンテンツへのアクセス方法

 かくして、電子コンテンツ専用の検索データベース。本学図書館では「データベース検索用データベース」、略して「DB検索用DB」と呼んでいるのですが、こういうものの構築が必要ではないか、と考えるに至りました。例えば、OPACで持つことのできない、独自のメタデータを利用可能にする。つまり、OPACには本来含まれないような内容……電子コンテンツの内容説明や、電子ブックのアブストラクト(概要)に含まれている単語などをインデックス化して、キーワードとして、検索できるようなシステムを勝手に作ってしまえ、と考えたわけです。とはいえ、OPACからのアクセスも一部コンテンツについては可能なので、結果的にはアクセス方法が多様化することになったのですが……。
 というわけで、現状、佛教大学では電子コンテンツに関して、概ね2つの方法でアクセスを提供しています。左側がOPACの画面、右側が図書館ポータルサイトの画面です。資料2
 ポータル側には、先ほどのDB検索用DB。つまり、電子コンテンツやデータベースが何かというものを検索するためのデータベースが用意されています。OPACでは検索できないようなメタデータを持っていますので、OPACでは見つけられない電子コンテンツに行き着けるかもしれません。今はこの2つのシステムをメインとして、電子コンテンツへのアクセスナビゲートをやっております。

 さて、こういったシステム的な試みを2007年の終わりごろから、積極的に進めてきた結果、いろいろなことが分かってきました。
 先ほどの井上真琴さんのお話の中に、東洋文庫の『甲子夜話』の話が出てきました。JapanKnowledgeの中に電子ブックとして東洋文庫が含まれている。さらには全文検索もできる。このことは、本学の学生さんでも、同じように知らない方が多かったですね。というよりも、知っている人はほとんどいなかった・・・というべきかも知れません。非常に似たような状況でした。
 とはいえ、このような便利なものがあるのに、使われていないというのはもったいないことです。最近まで、「どうしたらもっと使ってもらえるのかな」とか、「周知の仕方をどうしようかな」などと一人で考えあぐねていたのですが、こういったシステムを用意し、運用することで、少しずつ解決の道筋が見えてきたように思っております。資料3

 まず、この東洋文庫ですが、全部で700タイトルあります。これをOPACと先ほどのポータルサイトにあるDB検索用DBから、タイトルの1つ1つを検索できるようにしてみました。各タイトルそれぞれの「書誌」にURLリンクを作成し、そこをクリックすると直接該当の電子ブックを含むサイトなどにたどり着けるようにしました。
 さらにはDB検索用DBの特色を充分に生かすべく、OPACでは持つことのできない様々なキーワードを作成し、登録作業を行いました。具体的には、各タイトルに対するJapanKnowledgeの解説文を利用して、Yahoo!やGoogleが行っているような、検索のためのインデックス化を行いました。どういうことかと言いますと、JapanKnowledgeのこちらの画面上に、「『甲子夜話』の検索結果20冊」と出ています。その『甲子夜話』の文字の下のほうに、「著者は肥前平戸の藩士で……」と解説が書いてあります。こういったものもインデックス化して、キーワードとして検索できるような形を構築してみたのです。これによって、たとえば、「あの本、何と言ったかな。タイトルは思い出せないけど、確か肥前平戸の人が書いた本じゃなかったかな」というような場合、「肥前平戸」とキーワードを入れて検索すると、無事『甲子夜話』に当たるという、一種Yahoo!やGoogle的な検索ができるようになりました。
 結果として、当然のことながら、JapanKnowledgeの利用数はアップいたしました。どのくらいアップしたかと申しますと、2008年9月は昨年度比398パーセント、10月で昨年度比のほう344パーセントというような状況になっています。きわめて劇的な伸びだと思っております。

 さて、ここまでは東洋文庫という日本語の電子ブックを採りあげたのですが、実際には電子ブックの多くは外国語、特に英語のものが多いと思います。本学も英語の電子ブックを購入しております。
 外国語の電子ブック……これは実は本当に頭の痛い問題ですね。高いのに、買ってはみたものの、あまり使われていない。これは非常に大きな問題です。どうして使われないのか、いろいろな方に話を伺ってみると、結局、外国語の電子ブックというのは、とっつきにくい。つまり、ぱっとタイトルを見たところで、それが一体なんの本なのかが分からないので触りにくい、という根源的な問題に集約されることが分かってきました。
 となると、まず利用者がパッと飛びつきやすくなるような工夫が必要ではないかな、と考えまして「日本語」を最大限利用しようと思うようになりました。先ほどの独自のデータベース「DB検索用DB」に、電子ブックの内容を登録する際に、タイトルとか目次を、日本語翻訳してインデックス化して、検索できるようにしてみよう、と決心したわけです。資料4
 ただし、1つ1つ自分で翻訳していくのは大変です。電子ブックも数があります。実際、そんな暇も能力もありません。ですから、何らかの方策を考えるのが得策です。そこで、インターネット上などでオープンアクセスとして公開されている翻訳サイトの利用を思いつきました。ここにテキストを放り込んで日本語に変換し、それを検索キーワードにするという流れです。文章としてみた場合、皆さんもご存知のように、こういった機械翻訳はハッキリ言って、日本語になってはいません。読むに耐えないものが、ほとんどかもしれません。しかし、それでもかまわないのです。今回の場合には、翻訳した文章を「誰か」に見せるわけでもありませんし、利用者が翻訳した文章を直接読むわけではないのです。Yahoo! やGoogleなどの検索エンジンと同様に、あくまでもインデックス化されたキーワードとして、システムの内側に持っているだけですので、文章的に正しかろうが、正しくなかろうがあまり問題になりません。それよりも利便性の向上が優先されるでしょう。というわけで、翻訳には精度を求める必要はないと割り切って、この「思いつき」を実行してしまいました。

 実際のDB検索用DBでの動きを見てみましょう。例えば、検索窓に、カタカナで「ジェンダー」と入れて検索をしてみます。そうすると、ご覧のように、まず一番目に「Encyclopedia of Multicultural Psychology」という本が引っ掛かります。このタイトルには特に「ジェンダー」なんてカタカナ言葉は入っていません。それに該当する英語も入っていません。しかも書誌の詳細画面を見てみても、基本的なメタデータ以外は書かれていません。当然「ジェンダー」という言葉は影も形もない。しかし現物の電子ブックを開くと、これに対応する英語が、目次やアブストラクト的な箇所に、含まれているのだと思います。つまり、機械翻訳により日本語化した言葉をキーワードとして、システム内部に持たせることで、このような本を探せるようになったわけです。もちろん、カタカナ言葉以外の日本語、漢字交じりなどの言葉での検索も問題ありません。
 日本語によって外国語の電子ブックの存在を知らせるということは、やはり効果的だったようです。明らかに電子ブックの認知度は向上していると感じております。電子ブックの本格的導入は今年になってからのため、昨年との単純な比較はできませんが、アクセスの促進効果は確かに感じられております。

古い電子コンテンツのWebコンバートを実現

 本学での電子ブックや電子コンテンツについての取り組みのひとつに、「積極的リバイバル」があります。資料5とにかく買ったからには徹底的に使ってもらおう、という考えに立脚して行っています。古くても有用な電子コンテンツの復活および延命。簡単に言えば、CD-ROM版、DVD版で作成された電子コンテンツをWeb上で使える形にコンバートして使っていこうという試みです。
 JapanKnowledgeでは、八木書店さんの「日本近代文学館」というものが紹介されています。これは元々CD-ROMとかDVD-ROMで売られていたものを、Webで使えるようにし、機能を強化した電子コンテンツです。
 読売新聞さんでも、つい最近「ヨミダス歴史館」がリリースされました。DVD版のデータベースの中身を移植して、Web公開されると聞いています(2008年11月現在)。
 こういった動きというのは、ひとつの潮流ですが、本学が有用だと思われる古い電子コンテンツの全てがコンバートされるわけではありません。そこで、本学で強いニーズがあると思われる電子コンテンツについて、独自に出版社に許諾を求め、Webで利用できるようにコンバートすることにしました。

 たとえば、本学は、佛教大学というぐらいですので、当然「お経」なども強いニーズがあります。ですが、やはり一般の大学では、そこまでのニーズはない。従ってインターネット上のWeb版などで、こういった分野の「本格的」な電子コンテンツが出てくるとは思っていません。今後も望み薄です。でもCD-ROMやDVD-ROMには、良いコンテンツがあります。
 『正倉院事務所所蔵「聖語蔵経巻」』という商品があります。これは丸善さんから発売されているものなのですが、百枚以上のCD-ROMとDVD-ROMで供給されています。すばらしい「お経」のコンテンツであることは、疑いようがありません。しかし、ROMをまたいだタイトル検索もできず、コンテンツとして何が含まれているかが分かりにくい・・・・・・購入してきたものの、そんな状態でちょっと困っておりました。資料6
 しかも、これは高価なんですね。1セット百万円以上します。購入したのは良いのですが、なかなか使われない。お恥ずかしいのですが、年間のアクセス数が2回というような状況でした。これでは、費用対効果という点では問題です。しかしコンテンツとしては、非常に良い。利用者によっては、この中に含まれる経文が必要になる方がいるはずなんですね。
 そこで、存在を身近にするため、本学独自に各ROMの中に含まれるコンテンツのタイトルなどをまとめた、Web上の横断的なカタログを作成し、学内で検索できるようにしてみました。また丸善さんの許諾を得て、各コンテンツをイントラネット上で、Webブラウザで利用できるようにコンバートしました。さらにカタログから、このコンテンツに直接リンクをはることで、シームレスに利用ができる環境を整えてみました。
 当然ですが、このコンバートによって、非常に利用者数がアップいたしました。これは、丸善さんの協力がなければ、実現できなかったことで、本当にありがたいと思っています。

 この試みが成功したため、好評につき、第二弾ということで、『国会図書館昭和前期図書集成』という電子コンテンツをWeb版にコンバートしてみようと思い立ちました。資料7
 これも丸善さんの商品で、やはりDVD-ROMで供給されていたものです。正直、発売された当初はものすごく画期的な商品だったと思います。電子ブックとして、著作権に問題がない数百タイトルをDVD-ROMで供給する。しかも、モジュールのインストールが必要ではあるにせよ、横断的な検索システムも用意されていたわけですから。
 しかし、時代が過ぎてしまうと、今では「ちょっとどうなのかな?」という部分も、出てきています。検索がうまくいかない場合もありますし、Webベースのシステムではないために、使い勝手という点では、あまりよくありません。
 そこで、こちらも丸善さんに、ぜひ本学独自でWeb版にコンバートさせてくれませんか?とお願いしました。その結果、国会図書館さんとのやりとりをはじめとして、積極的にご対応いただくことができ、無事に許諾を頂くことができました。
 現段階では新たなタイトル検索のシステムの構築も終わっており、Web仕様へのコンバートも進んでいます。一応、近日学内公開ということになっております。

予算は限りある資源

 予算というのは実際、限りある資源ですので、有効な使い方をしなければなりません。「Webへのコンバートとか、お金があるからできるんじゃないのか?」と言われそうですが、実際にはWebへのコンバート用の予算は一円もありません。できる限りお金は圧縮する。しかし、利用者さんには良いシステムを提供してあげたいというところで、無駄を省くべく、いろいろな工夫をしております。先ほどのポータルサイトなども、新しく専用のサーバ機器を買ったりしてはおりません。これも本学図書館システムのベンダーであるNECさんの協力を得て、OPACサーバ上に寄生しながら運用しています。
 「電子図書館・リポジトリ・検索DB・コンバート後DBの共通化(infolib)」と書いてあります。資料8「共通化(infolib)」とは、これら数種類のデータベースが共通のプラットフォーム「infolib」を用いて、同一のサーバ上動作しているという意味です。従って、いくらデータベースを増やしても、保守費はすべて共通で、費用の追加はありません。これによって、ランニングコストは圧縮されるというわけです。
 さらに申し上げますと、ポータルサイト関係のデータ作成やWeb構築、さらにデータベースのコンバートなどは、すべて図書館内部で行っております。外注などはしておりません。私、飯野と派遣職員、Webデザイナーが協力して作っています。従って発生する費用は、人件費のみになります。外注すると色々な制約が出たり、更新の速度などに問題がおきたりしますが、内部ですのでそういった問題は生じません。確かに仕事の量は増えますが、こういった状況で工夫を行っていくと、自分のスキルも勝手に上がっていきます。考えようによっては、一石二鳥・三鳥というような状況ですので、むしろありがたいなあ・・・・・・と思っております。

 電子化というものはいろいろな形で進んでおります。そういった中で、かつては素晴らしい電子コンテンツだったものが急速に陳腐化していくという状況が確かに生じています。しかし、OSやコンピュータ環境の変化を受けて、高額な電子コンテンツが数年で使われなくなってしまう状況には、ちょっと抵抗があります。買ったからには、高い物なのですから、使い尽くしましょう。使えなくなったから除籍するというアクションに出るのではなく、出版社さんに相談するというアクションをとっていただきたいと思います。出版社さんも、場合によってはいろいろと相談に乗ってくれるはずです。
 逆に、出版社さんは、かつて売られていた商品、それをリバイバルすることで新しい商品に生まれ変わるのではないか、という視点を持っていただきたいと思います。作った商品が、再び新しい価値を生み出すというのは、すばらしいことだと思うのです。
 日本の図書館の中における電子コンテンツが、これからも一層、発展できるように、共に協力できれば幸いだと思っております。
 ご清聴ありがとうございました。