本日お話しをさせていただくのは、「情報資源を如何に扱うのか」という部分です。「情報資源」という言葉が指すものはいろいろありますが、一般的に図書館で使う場合には、いわゆる伝統的な冊子体つまり紙で作られた書物、あるいは、ジャパンナレッジのような電子リソース、電子コンテンツと言われるようなものと思っております。
近年、情報資源が非常に多様化してきたと感じております。これまで図書館が持っていた冊子体のものに比べて、いささか異常ともいうべき速さで電子コンテンツが普及してきています。
では、我々は、こういったコンテンツをどのように扱っていったら良いのでしょうか? ジャパンナレッジと合わせてどう扱うのか、私なりに考えて実験した結果をご報告させていただきます。
この世の中には、いろいろな信頼できる情報資源があります。【資料1】
最初に挙げられるのは、先ほども申し上げたような、従来型の情報資源、図書館所蔵の冊子体の図書や雑誌などです。
現在はこれらに、インターネット上のWebコンテンツの資源など、電子コンテンツの一部(すべての電子コンテンツが信頼できるものとは言えないため、あえて一部と申し上げます)が加わります。
インターネット上の資源には、まずデータベースや電子ジャーナルなど、商業ベースで提供する会社と契約することによって使える、いわゆる契約型の資源があります。そして誰でも使えるオープンアクセス型の資源の2種類があります。
それから、イントラネット上の資源。例えば、大学のネットワークの中だけで利用が可能な、ローカルサーバにインストールして利用する、買いきり契約型のデータベースがあります。また、大学が独自に作成し、その大学の中でのみ自由にアクセスが可能であるような、不完全なオープンアクセス型の資源もあります。その他、大学で購入して1つの端末にのみインストールするようなソフトウェアといった、スタンドアロン型の資源などがあります。
このように、現在、情報資源というのは非常に多岐に渡っており、様々な形態が混在しています。正直、図書館員ですら、ちゃんと把握ができていない、というような場合があるのではないでしょうか。実際、私自身も、現物のコンテンツを見て「あれ、こんなCD-ROMあったかな?」というような不可解さにとらわれることが、ままあります。
図書館員ですらも把握できないほど、情報資源が多岐に渡っているのですから、利用者が知らなくても当然です。知らなければ使えないわけですから、どのようにして、これらの情報資源を利用者の目に触れさせて、使ってもらうかというところが、最大の問題になってきます。【資料2】
一般の利用者は、OPAC(図書館の所蔵目録データベース)を利用すれば、冊子体の情報資源にはたどり着くことができます。OPACでも、スタンドアロン型やイントラネット型の電子資源であれば登録されている場合があります。
しかし、OPACからインターネット上の資源にたどり着けるかというと、まずそんなことはありえないでしょう。
図書館に置いてあるパソコンを使うために、来館する人もいます。つまり、インターネットで検索しようというわけですね。GoogleやYahoo!で検索を行い、情報を調べた気になってしまう。もちろんこれも情報調査という点では間違いではないのですが、それだけで終わってしまいます。さらに学生の中には、「Wikipediaで調べたら全部出てくるし、それでええやん」と思っている人もいます。
また、ネット環境というのはインターネットなのだから、家も大学もどこでも同じ、という思い込みもあって、大学で検索をせずに家だけで済ませてしまおうと思ってしまう人もいるわけですね。これでは、大学がわざわざ契約をして、ジャパンナレッジの購読をしているにも関わらず、ジャパンナレッジというものの存在すら知らないまま、インターネットだけの資源ですべてが終わってしまうというような、非常にもったいないことが起きてしまいます。さらに言えば、こういった場合、スタンドアロン型やイントラネット型の電子資源というものも目に触れることがないわけです。
これでは情報資源がたくさんあるのに、死蔵してしまうということになります。費用対効果という面から見れば、かなりの金額を費やしているのに、これは非常にまずい状況と言えますね。
利用者は知らないだけなのです。電子資源というのは非常に便利ですから、知ればファンになることは間違いありません。そういう意味では、利用者への積極的広報を如何に進めれば良いかというところに、すべての問題が帰結してくると言えるでしょう。【資料3】
図書館で提供できる情報資源は、冊子体もあれば電子コンテンツもあり、様々な形態に分散しています。これらの情報資源の存在を伝える方策を考えなければなりません。
GoogleやYahoo!などで検索をして情報を得ることに慣れ親しんでいる利用者が対象ですから、それに見合った方策を取る必要があります。多様化した情報資源の内容を横断的に、そして形態の区別なく周知できるようなポータルサイトが必要になる理由がここにあります。
これは、あくまでも積極的な広報の一部ですが、一方で、消極的な広報も平行して行わなければならないと考えています。消極的な広報とは、つまり、利用者に伝えなくて良いことは伝えなくて良いのではないかということです。【資料4】
例えば本学の場合、図書館のホームページやポータルサイトでは、Wikipediaの存在に無関心を装っています。これは、Wikipediaというものが図書館として扱う場合、情報資源として、その信頼性等に問題があるためです。
ただし、Wikipediaの存在を否定するものではありません。Wikipedia自体は、実験的な存在として、非常に高い価値を有していると思っています。ただ、積極的には何もしない、消極的な広報ということで、無関心を装っているわけです。利用者から、「なぜポータルサイトにWikipediaとか入らないのですか?」とか聞かれて初めて、お薦めしない理由を説明することにしています。
このようなことを考えると、情報資源というのは、ポータルサイト上で自然と取捨選択されることになります。しかし、図書館として明確な収書基準を持つ冊子体の場合と異なり、現段階では、データベースや電子コンテンツに関して、実態に見合った収書(提供)基準を持っていません。どのコンテンツが情報資源として正しいかと判断する基準については、残念ながら文書化されたものは何も持っていないのです。ですから、ポータルサイト上の資源は、感覚的に集め、提供しているとしか言えないのが現状です。
とはいえ、信頼できる情報資源へのアクセスを提供することは急務になっています。このような状況下ではありますが、とにかく利用者にとって選択の余地があり、多様性があって、効率的に利用できるポータルサイトというのを作らなければならないと考えたわけです。
代表的な図書館のポータル機能としては、国会図書館のDnavi(データベース・ナビゲーション・サービス)やPORTA(デジタルアーカイブポータル)があります。また、先ほども言ったように、ジャパンナレッジの「URLセレクト」なども素晴らしいパブリックなポータルサイトだと考えています。【資料5】
使った方はご理解いただけると思いますが、Dnaviはリンクが充実していて素晴らしい。PORTAは自由な検索ができます。なぜこれらが1つになっていないのか私には分かりませんが、この2つが統合されたら、より一層素晴らしいものになるのではないかと思っています。
しかし、両者は、素晴らしいパブリックなポータルサイトなのですが、各図書館が独自に契約利用しているスタンドアロン型やイントラネット型の情報資源は、当然ながら網羅していません。そこで、ローカルなものに目を向けたポータルサイトの必要性が出てくるわけです。
では、具体的にどうするのが一番良いのか、ジャパンナレッジを例にして考えてみたいと思います。
ジャパンナレッジは、階層化された信頼度の高いコンテンツを持っていると言えます。階層化されているとは、トップからは直接は見えないコンテンツがあるということです。
ジャパンナレッジには、電子ジャーナルでは「週刊エコノミスト」「会社四季報」などがあります。電子ブックは「東洋文庫」の700タイトルですね。その他、辞書・事典系コンテンツには素晴らしいものがあります。
特に、辞書・事典系の検索結果には非常に多様性があるんですね。1つの言葉(検索語)に対して複数の辞書・事典から答えが返ってくる。これは、とても重要なことです。
学生に、Wikipediaをなぜ薦めないのか、という説明をする時に、いちばん比較の対象として用いることができるのが、ジャパンナレッジのこの点なのです。つまり、複数のコンテンツから複数の答えが返ってくることで、学生に選択の余地、それから思考の余地を与えることができる。これが、ジャパンナレッジの最も優れた部分だと私は考えています。
例えば、Wikipediaでは、確かに、言葉(検索語)を入れると答えが返ってきます。ただ、中立性を維持することがモットーにはなっていますが、それでも学説的に見て「百科事典なのかな?」と納得しかねる結果の場合もあります。そういった点で比べてみると、複数の結果を、複数のコンテンツから返してくるというジャパンナレッジは、利用者自身が選択・検証する余地を自然に生み出します。この点がやはり素晴らしいと思います。
では、この価値あるコンテンツ群を利用者にどのようにアピールすればよいのでしょうか?利用者は知らないものは使えません。逆に、知ってもらえればファンになってもらえますが、それまでの道のりが非常に大変だということは明らかです。
そこで本学では、ジャパンナレッジを始めとする、契約している様々なデータベースの「階層」そのものを利用者に見せてあげたいと考えました。つまりジャパンナレッジという一番外側の表紙だけでなく、その中に含まれているコンテンツの「中身」を詳しく見せてあげたいと考えたのです。【資料6】
ジャパンナレッジというのは、いわば書誌的に言えば親書誌であり、ジャパンナレッジに含まれるコンテンツのそれぞれは、子書誌だとみなすことができます。そしてこの子書誌にあたるコンテンツの1つ1つに対して、ポータルサイトから、その「概要」について検索できる環境を提供できれば、より多くの人に中身を知ってもらえるのではないかと想像したわけです。
例えば「JK Who's Who」とは一体いかなるものなのか? 「週刊エコノミスト」はどんな雑誌なのか? タイトルだけでなく、内容についても情報提供することで、自然な形でこれらの電子コンテンツに誘導できる可能性は高くなります。
とりあえず、この方針に基づいて実験を行うことにしました。まず手始めに、本学の図書館のポータルサイト上に、各種データベースの概要について、フラットにキーワード検索できる機能を持たせてみました。つまり、階層下のデータベースに対する検索機能の提供です。さらに、ジャパンナレッジに搭載されている、たくさんのデータベースや事典・辞書、これをカテゴリ化して、他の電子コンテンツとシームレスに検索できる環境というのも同時に構築しました。【資料7】
あくまでローカル環境で作っておりますので、本学の中からしかアクセスできません。ですが、これにより本学で持っているDVDなどのイントラネット型の資源、外部のオープンアクセス型データベースサイトの中に含まれている小さなデータベース、といったものも横断的に検索できるようになっております。【資料8】
些細なことなのですが、ジャパンナレッジへの自動ログインというものも提供してみました。なぜかと言うと、「ログインする必要があったんですか?」という利用者が、存在していたからです。つまり、ログインの必要のないサイトでは検索するのですが、ログインから先には行けない、あるいは行こうとしない人がいたわけです。ログインとその先の検索というものが、結びつかないということなのでしょうか。
とはいえ、これはちょっとまずいなと思い、自動でログインすることの是非もありますが、こういった機能も実験的に提供してみることにしました。すると、意外だったのですが、リピーターのユーザーからもなかなか良い反応がありました。最近は、初めての人も意識せずに関門を通過できているような印象を受けており、一定の利用促進効果があるようにも思っております。
ただ、1つだけ問題がありました。自動ログインを提供したのは良いのですが、今度はログアウトを忘れる人が出てきてしまったのです。そこが現在の課題となっています。
結局、これらの試みを行った結果、ジャパンナレッジ本体の利用が前年度比237%という高い効率での誘導に成功いたしました。
私が今後のジャパンナレッジに期待していることを、ジャパンナレッジの「入り口」から考察してみたいと思います。【資料9】
入り口がトップページだけという概念を捨ててしまうと、ジャパンナレッジはとても素晴らしいものになるのではないかと思っています。つまり、「東洋文庫」や辞書類を電子ブックとして捉えた場合、これらに対して、外部から直接リンクが張れて、そのコンテンツページから直接ログアウトができるとしたら、非常に利用率が上がるだろうと考えております。
そして、やがて出現するであろうGoogle的な日本語契約型データベースの横断検索サイトに対応ということも考えていただきたいのです。現在、電子ジャーナルや電子データベースに関して、横断検索をするようなサイトが山のように出てきています。日本語の契約データベースに関して言うならば、充分な水準で横断検索できるサイトは今のところまだないと思います。その時代が到来した時に、複数の横断検索サイトと契約して、それらからジャパンナレッジに導くことができれば、ジャパンナレッジの価値というのはすさまじく上がるのではないかと思っています。
もうひとつ、逆の考え方もあって、入り口がこのトップページというのは譲れないというのであれば、今のようにトップページから日本国内の契約型のデータベースを統合的に網羅できるような横断検索機能を持たせてほしいのです。【資料10】
つまり、ジャパンナレッジに「ローカル」(機関)ごとの契約型データベースの状況をみて、検索対象のデータベースを自由に登録したり、削除したりできるような機能を搭載していただければ、私が勝手に外部でヘンなものを作る必要がなくなるわけです(笑)。
これが実現すれば、誰もがジャパンナレッジを最初の入り口として考えてくれるようになると私は思っています。つまり、誰もがまずジャパンナレッジのサイトに行って、そこから複数の契約型のサイトに行ってもらうという図式ができるわけです。
すでに、URLセレクトといったいろいろな良いサイトが発掘されていますし、そこに各大学が契約している別の電子データベースへの入り口を作ってもらえれば、それで十分こと足ります。あとは、我々が持っているイントラネット型やスタンドアロン型の情報資源も登録できるようになれば、それに越したことはありませんね。これが実現すれば、ジャパンナレッジは、契約型データベース界のYahoo!になれると、私は確信しています。
本当にとりとめのない発表で申し訳ありませんでした。本学での実験を通じて、ジャパンナレッジの使い方、それから有料データベースに関するポータル化ということを私なりに考えてみました。
先ほど、Wikipediaの話をしましたが、未来にいたっても、やはり本物の百科事典というのは消えないと思います。図書館員や利用者が信頼して使えるような、しっかりとしたデータベースとして、ジャパンナレッジが今後も発展していただければ嬉しい限りです。