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2008年01月

JKボイス-セミナーレポート:ジャパンナレッジ 「どうなるこれからの図書館」
~生き残りのカギは“想像力”と“編集力”~PART3

登紀子 Y バゼルさん
(ときこ やまもと ばぜる)
ハワイ大学マノア校日本研究専門司書
去る2007年11月7日、第9回図書館総合展にて行われたネットアドバンス主催のパネルディスカッション。そのアフターレポートもついに最終回。
3人目は、ハワイ大学からお越しいただいた登紀子Yバゼルさんです。
動画や画像を駆使した立体的な構成で、海外図書館と、そこで働くライブラリアンの現状を紹介していただきました。日本の図書館でも十分参考となる話題が数多く語られています。
2007年11月7日(水)
会場:パシフィコ横浜(神奈川県)
講師:大串夏身(昭和女子大学教授)
       井上真琴(同志社大学職員・講師)
       登紀子Yバゼル(ハワイ大学マノア校日本研究専門司書)
主催:株式会社ネットアドバンス
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海外図書館の実情 ハワイ大学の場合

 今回は、アメリカの図書館員の実情を中心に、撮影してきたビデオなどをご覧いただきながらお話していきたいと思います。

 私の勤めておりますハワイ大学は、ハワイ群島に分散し、全て合わせると10キャンパスになります。学生は全部で5万人ほどですが、そのうちの2万人が、私の所属しているマノア校(オアフ島、州都ホノルル)に通っています。各キャンパスが離れているため、テレビを使った遠隔講義など、いろいろな形態のユニークな授業が行われています。
 大学図書館は、それぞれのキャンパスにありますが、中心となっているのは、マノア校で、図書館員(ライブラリアン)も56名おります。図書館員は、教授と同じ地位におかれており、5年以上勤続した人が審査を経て、終身雇用を保証されるテニュア(tenure)制が採用されています。
 私自身も授業をいくつか担当していますが、その中に、日本の研究をする学生のための必修講義があります。そこでは研究調査の方法を教えていて、井上(真琴)さんの本は、私のクラスの教科書として採用させていただいております。

 さて、全米大学研究図書館協会(ACRL:Association of College & Research Libraries)に所属している大学は、毎年利用統計の提出が義務付けられています。ここで、1999年と2004年の統計を比較してみましょう。
 まず貸し出し件数ですが、1999年は84,904,000件、2004年は93,810,000件と5年間で10パーセントアップしています。ところが、レファレンスの回数は、1999年では24,307,000件、2004年では18,554,000件と24パーセントダウンしています。毎年レファレンスの回数が落ちているという現状が続いております。
 これは、レファレンスの必要性が無くなってきた、ということなのでしょうか? そうではない、と私は思います。
 先ほどの井上さんのお話にもあったのですが、アメリカの場合も、レファレンスの回数こそ少なくなってきているのですが、その内容は大きく変わってきているのです。
 たしかにウォークインで「この本はどこにありますか?」という、簡単なレファレンスは少なくなってきています。けれども、実際に図書館員にアポイントメントをとって、コンサルテーションするという形式のものは、多くなってきています。多様な質問、内容の深さから、ひとつひとつのレファレンスサービスには、非常に時間がかかってきています。これからは、レファレンスにかかった時間の統計もとっていただきたいくらいですね。

ライブラリアンの仕事

 次に、実際に私の同僚を紹介しながら、現在の図書館員がどんな仕事をしているかを見ていただきましょう。

 その前に、みなさんは図書館員というと、どのようなイメージをお持ちでしょうか? Googleなどで画像検索をかけてみますと、女性の場合は、メガネをかけて、髪の毛をお饅頭のように引っ詰めた感じが多いようです。口に指をあてて「しっ!」と、静かにしなさいというポーズも多いですね。男性の場合ですと、学者風の人がデスクに座っている、というイメージが強いようです。
 これは何を意味するのでしょう? おそらく図書館員は、図書館の規則を行使する人、またはゲートキーパーとして入ってくる利用者を監視している人、というイメージが強いからではないか、と思います。

 これは、あくまで伝統的なイメージであって、私の同僚も含めて、現在の図書館員とは、かなりかけ離れたものがあります。
 それでは、アメリカの図書館員が、レファレンスに限らず、どんな仕事をしているのか、そして、どんな意見をもっているのかを、ご紹介していきましょう。

 最初の同僚は、Vicky Lebbin。彼女は、1992年に図書館情報学の修士号を、1997年にはコミュニケーションの修士号も取得しています。図書館員になって15年。専門は情報リテラシーです。
 次は、Dave Brier。彼も1992年に図書館情報学の修士号を取っています。図書館員にとって、この学位は必須なのです。彼は2002年に政治学の修士号を取得して、現在博士課程におります。職歴は14年。専門は情報技術と図書館教育です。
 もうひとりは、Susan Johnson。彼女は2000年に図書館情報学の修士号を取り、現在コミュニケーションの博士課程におります。職歴は7年。専門は図書館教育です。彼女は、利用者から素晴らしいレファレンスサービスを提供すると定評のある優秀な図書館員です。

 まず、実際のレファレンスですが、図書館に入ると、デスクがあって、そこに“INFORMATION & REFERENCE”という看板が掲げられています。
 普通、図書館員は1週間に5-10時間ほどデスクでのレファレンスを担当しています。これを各員がローテーションで行っていくのです。
 デスクには、ありとあらゆる質問が寄せられてきます。ここでは、利用者である学生と実際に接触できる大変良い機会でもあります。利用者がもっと複雑なレファレンスサービスを必要とする時は、図書館員と直接面談アポイントをとって別室で相談を受けることになります。現在は、このケースがメインになってきていますね。
 利用者個々人と実際にコミュニケーションしながら、そのニーズに応え、いっしょに調査書を書き上げていくような過程をとっていきます。各質問ごとにアプローチの方法を示していかなければならないので、かなりの時間を要します。

 先ほどのVickyは、情報リテラシーの授業を受け持っているのですが、その中で新入生のための図書館オリエンテーションを行っています。
 新入生たちは、ネット上のバーチャルな世界では、情報を交換したり、自分の意見を述べたり、かなり雄弁なはずなのですが、さすがに今年(2007年)の9月に入学したばかりですので、クラスの発表にまだ慣れていません。アメリカ人といえども面と向かっては喋れないシャイな学生も多いのです。
 以前から、その点に気づいていたVickyは、今学期から彼らにクイズ番組のような回答用のデバイスを配ってみたのです。画面上でいろいろな質問を出して、それに対して学生たちが手元のデバイスを操作することによって回答するというわけです。その結果は、すぐに統計が出されるので、回答できた人数が、どの程度なのかも即時に分かります。このインタラクティブなシステムのおかげで、学生たちにも参加意識が生まれて、図書館の利用の仕方の憶えも早いそうです。
 このように図書館員は、自分たちの授業をかなり自由にデザインする権限が与えられており、それぞれに面白い工夫をしているのです。

図書館の将来と必要なもの

 次に、先ほどの3人の同僚に3つの質問をしてみました。

  • 1:図書館の将来は? 明るいでしょうか? 暗いでしょうか?
  • 2:今までの経験を通して、これからの図書館員にはどのようなスキルが必要だと思いますか?
  • 3:何があったらあなたの仕事がよりよく遂行されますか?

 まず、最初の質問「図書館の将来は? 明るいでしょうか? 暗いでしょうか?」。
 Vicky Lebbinは、「図書館の将来は明るいです」と、断言しています。彼女にとって、今の図書館には様々な可能性があって、自分が得意とする能力を活かしていける場なのだそうです。だからこそ、彼女は、「明るい」と言い切れるのだそうです。
 Susan Johnsonも同様です。今、世界にはデジタル化の波が広がっており、図書館には、その新しい電子リソースを創造したり、管理したり、結び付けたりする様々な可能性が存在しています。その中における、自分たち図書館員の役目も、どんどん変わってきていて、それが彼女にとってはエキサイティングなものなのだそうです。自分のアイデアひとつで、いろいろなことが出来る予感がしている、と彼女は語っています。
 Dave Brierは、将来が明るいとか暗いとかではなく、図書館の可能性は別の次元にある、と語っています。例えば、サービスも伝統的な紙媒体から電子媒体に移行しています。それが良いとか悪いとかは、図書館員ではなく、あくまで利用者が判断することなのです。図書館員は、変わりゆく媒体に、的確に対応し、利用者にとって使いやすいサービスを構築する義務があるのです。彼にとって、その仕事は、やり甲斐があり非常にエキサイティングだそうです。

 2番目の質問は、「今までの経験を通して、これからの図書館員にはどのようなスキルが必要だと思いますか?」です。
 Vickyは、的確に意思疎通の出来る、コミュニケーション能力が大事だと言っています。利用者の相談を受けている時も、相手が何を求めていて、自分がそれに対して何を提供できるかを伝えるのには、やはりコミュニケーションが必要です。また、自分の頭の中にあるアイデアを形にしていくのもコミュニケーションの力です。 Susanも、人と人とを結びつけたり、人とリソースを結びつけたり出来る能力が必要と言っています。彼女はこれを“People Skill”と呼んでいます。やはり利用者あっての図書館ですから、図書館にはどんなものがあるのか、どんなサービスがあるのかを理解してもらえるスキルはなくてはならないものでしょう。
 Daveは、印刷物だけで表現、伝達するだけではなく多様なメディアを使う能力が必要でしょう、と語っています。今後は、You Tubeなどの人気が示すように、ビデオやマルチメディアを使っての意思伝達スキルがますます必要になるでしょう。ハワイ大学では、遠隔教育が不可欠であり、実践されていますが、彼はヴァーチャルライブラリのサービスの必要性もますます増大すると予想しています。
 3人に共通しているのは、形態の変化はありますが、いずれも図書館員はコミュニケーションスキルを必要としている、という点ですね。

 最後の質問は「何があったらあなたの仕事がよりよく遂行されますか?」です。ここで、図書館員としての本音の部分が出てきますので、興味深いものがあります。
 Vickyは、スタッフの増強を希望しています。彼女は、アイデアをいろいろ持っているので、それを実行していきたいのだけれど、どうしても身一つなので、様々な業務もこなしていかなければならない。スタッフが増えてくれれば、アイデアの実行に時間を割くことも出来るのに……ということでした。
 Susanも、アイデアはいっぱいあるので、それを技術的にサポートしてくれるスタッフを増やしてほしいと言っています。
 Daveの場合は、もっとストレートで、「オレに自由をくれ!」でした。
 自分の才能を活かし、興味のあることを追求する「自由」がもう少し欲しい。往々にして管理職は興味やプロジェクトを追求することにストップをかける。「自由」をもらえることで、興味を追求できることは、自分にとって意義があり、また、図書館にとっても有益なことだと思う。このへんは、自分本位でなかなかにアメリカ的であります。
 3人に共通しているのは、アイデア実行のための時間がほしいということと、そのための方策を求めている点でしょうか。

求められる新たなスキル

 2006年の夏に北米地域研究学司書を対象に、「これからトレーニングが必要と思われる分野は何でしょうか?」というアンケートを取ったことがあるのですが、以下が、その順位です。

  • 1:電子リソース構築分野
  • 2:補助金の獲得関連(申請の書き方など)
  • 3:ライセンス交渉、契約書作成等の法律関連分野
  • 4:電子化(技術関係)
  • 5:著作権(コピーライト)等の法律関連分野
  • 6:図書館・プロジェクト資金募集関連(fundraising)
  • 7:利用者教育
  • 8:メタデータの目録(カタログ関連)
  • 9:印刷媒体以外の蔵書構築関係
  • 10:蔵書構築に利用できる新しいツール等
  • 11:検索の新しいツール

 トラディショナルな蔵書構築や利用者教育などもあるのですが、電子化技術、特に電子リソースの構築に関して、トレーニングが必要である、という結果が出ています。
 また、ライセンス交渉や著作権(コピーライト)といった法的な分野、プロジェクトを立ち上げるための資金収集のためのスキルも必要とされてきています。

 今まで、図書館員に求められていたものと明らかに違う分野のものが続々入ってきています。これも、これからの図書館員の仕事が多角化してきていることの証明と言えると思います。