大学図書館で行う図書館リテラシー教育について、勤務する中央大学図書館の事例を、リテラシー教育の歴史、ジャパンナレッジの導入、昨今の学生事情を中心にお話します。ジャパンナレッジに特化した話ではありませんが、ご了承ください。
大学図書館のリテラシー教育は、レファレンス系の職員が担当することが多いようです。私自身は20年ほど、レファレンスサービスを担当していて、まだ「図書館利用教育」と呼ばれていた時代から、「リテラシー教育」となった時代までを経験しています。この期間のことを、3期に分けてお話ししようと思います。
中央大学では、OPAC(図書館目録データベース)をCHOISといい、その講習会を1986年頃から始めました。パソコンを扱ったこともない学生が大半の時代だったので、講習会が必須でした。初年度は、学生向け講習会を上司と2人で企画し、教員向けも翌年から始めました。
地味な貼り紙をして、PRをしただけでした。学生が集まるかなあと、ハラハラ待っていたのですが、案の定、1人も来ませんでした。
そんなことをしても誰も来ないだろうと冷たい目で見られる中、強引に始めた手前、意地でも参加者ゼロというわけにはいかない。そこで、そのあたりにいる学生に片っ端から「受けませんか?」と声をかけてまわりました。ようやく、Noの言えない気の弱い学生を1人捕まえて、講師2人、受講者1人という状況でスタートしました。それでもめげずに、せっせとそのへんにいる人を捕まえては、続けていました。
すると、回を重ねるうちに少しずつ参加人数が増えていきました。参加した学生に「どこで、講習会のことを知りましたか?」と尋ねると、ほとんどが友人に薦められたとの答えでした。私は大学の中で何かしようと思ったら、口コミが何よりも大切と思っています。
スタートから6年くらい経ったころには、800名くらい参加するようになりました。1学年は5000名なので、800名という人数は、自主的に参加してくることを考えると、良い成績ではないかと思います。
さて、講習会で何を教えていたのかというと、もちろん、OPACが中心なのですが、実際には、図書館で本を探すコツでした。
特に、NDC(日本十進分類法)は丁寧に教えました。私自身が大学4年生の時に、図書館学を勉強していた友人からNDCを教えてもらい、非常に感動した経験がありました。 複雑な世の中を10分類でスパッと切ってしまうんです。なんて大胆な考え方だろう。その感動を学生にも伝えよう、というのが根底にありました。
というわけで、OPAC講習会と銘打ちながら、実は、図書館の有効な利用法が本当のテーマでした。もう少し頑張れば1000名達成かと思われた時期に、OPACのバージョンアップがあり、新システムは、ユーザーフレンドリーなインターフェイスになったということで、図書館主体の自主参加だった講習会は中止になりました。
その一方で、教員からの要請で行うゼミ指導はだんだん申し込みが増えてきました。その頃の講習会の内容は、OPACと冊子体の雑誌記事索引、新聞記事データベースなどを教えて、そしてふだん学生が入れない閉架書庫の案内でしたが、やはりこちらでもNDCの説明を丁寧にやりました。
OPACの操作方法を教えるだけでは、「ああ、そうですか」で、終わってしまいます。どうせなら「えー? そうだったの!?」という何かの発見をおみやげにしてあげないとダメだと思ったわけです。
教員が申し込むゼミ指導では、本当のターゲットは実は学生ではありません。教員なのです。教員が興味を持つ話をしなければダメなんです。先生が評価してくださって、学生に図書館利用を勧めてくれないかぎり学生の積極的図書館利用につながりません。最初は退屈そうにしている教員が、NDCのあたりから急に興味を示し、やがて学生を差し置いて自分から質問する先生まで現れます。NDCをきちんと理解している教員は、当時も今も多くはありません。しかし、きちんと説明すれば、どんなに有用かということは、たちどころに理解するようです。「分類ってひらめきの宝島!」なのです。
そのうち、学内に「教員にもタメになる図書館のCHOIS講習会」と宣伝してくださる先生も現れ、どんどん人気が出てきました。やがて、定員オーバーでお断りしなければならないまでになり、何ゼミかまとめて、50~60人ずつぐらいで、やりたいと逆に申し入れるほどになりました。2000年からは、まず経済学部の1年生全員約1000人に、授業に組み込んで実施していただけるようになったのです。
やがて、他の学部でも、新入生に対しての授業1コマをいただくようになりました。内容はOPAC、MAGAZINE PLUS(雑誌・論文情報データベース)、日経テレコン、の3点セット。1コマだいたい20人~100人ずつにまとめて、1人1台のパソコンで実習します。図書館員1名が講師。学生20人に対して1人の割合で、大学院生をインストラクターとして配備しました。
並行してもう1コマ、別の時間に図書館ツアーを実施しました。ツアーも2~5ゼミくらいをまとめ、まず院生1名が30分講義し、その後、1ゼミごとに1名の院生が付いて、図書館内巡りを30分行います。
院生には、事前に4時間のインストラクター&ツアコン養成講座を受講してもらいます。最近の私立大学の図書館は人員削減で要員確保が難しいのです。そこで、「少ないスタッフで多くに手を引く」工夫が必要です。しかも、とにかく質の維持が大事で、「参加したけどつまらなかった」という噂がたてば、あっという間に客が去るのは、第1期の時に経験済みなので、納得してもらえる講習会となるように、手抜きは禁物です。
本学の講習会は、最近ジャパンナレッジが登場し、第3期に向かい始めております。昨年よりメニューにジャパンナレッジを加え、OPAC、CiNii(サイニイ:国立情報学研究所 論文情報ナビゲータ)、日経テレコンの4点セットとしました。
また、それまで実習させて、教えて90分というやり方だったのですが、実習も講義も簡略化し、60分間ですべてを終えるようにし、残りの30分間を演習問題の実施にあてるようにしました。最後の30分間は、講師とインストラクターで学生1人1人に声をかけ、分かっていないところを丁寧に指導するようにしました。
高校までに受けてきた情報教育の違いで学生間に相当なレベル差があります。上級者から初心者までいる教室でどう教える?と考えた結果、「みなさん全部」から「あなたの場合」への転換です。
演習問題を解かせ、終わってから回答を配ります。演習問題に取り組ませることで、習ったことの定着を図るとともに、学生ごとに情報検索をめぐる知識レベルが相当に違うので、個別指導して、その人なりに新しいこと、役に立つことを持って帰らせることを狙っています。
And、or、notの論理演算式が理解できていない学生にはそこから教えるし、スラスラできる学生にはキーワードを選択する際の発想法、連想法などを教えます。要するに、個別対応ということです。1ゼミに1名の割合で院生インストラクターを配置して、質問を待つのではなく、積極的に声かけするようにお願いします。超特急で説明を終えて、自習させるスタイルに変えてから、他のサイトを見て遊んだりする学生が皆無になりました。
最後に感想を書かせるのですが、「説明が早過ぎてついていくのが大変だったが、インストラクターが親切に教えてくれたのでよく分かった」というパターンの感想が一番多いです。他にも「眠かったのに忙し過ぎて寝る間がなかった」という感想も出てきます。
それまで90分で教えていたことを、ジャパンナレッジが増えたにも関わらず60分に短縮したわけですから、講師側には相当戸惑いがみられました。60分以内に終えて、演習問題に移るというスタイルが、初年度は守れない担当者も出ました。
2年目はこの点を強く意識統一して、何が何でも30分は演習問題にあてることを望みました。その分、講義内容は厳選。重要ポイントのみ強調してしゃべるなどメリハリを付けます。わずかな時間もムダにできない、講師側にもきつい講習会なのです。
受講者数については、昨年度で2217名の参加。今年度はさらに増える予定です【資料1】。こちらは参加ゼミ数でまとめたグラフです【資料2】。受講者数ごとの変遷だとこうなっております【資料3】。同時に並行して行っている図書館ツアーにつきましては、昨年度で1580人の参加となっております【資料4】。ゼミ数【資料5】、参加者数【資料6】は年々増え続けております。
本当はジャパンナレッジだけで1コマ使うなど、遊びながら教えられたらいいと思います。OPACだって日経テレコンだって、90分まるまる欲しいところです。ですが、多くの学生を抱え、少ないスタッフで対応する場合、理想どおりにはいきません。
1コマ90分で教えるには内容が盛りだくさん過ぎですが、新入生に対しては、OPACの基本検索を理解し、図書館がさまざまなデータベースを用意していて、それらを使えば、GoogleやYahoo!とは、ひと味違った検索ができることを強く印象づけられればいいと思っております。
講習会後の感想も必ず書かせて、まとめています。
「今までGoogleやYahoo!しか使ってなかったけど、これだけ便利な検索エンジンがあるとは知らなかった。これから使います」という感想がありました。ジャパンナレッジを検索エンジンだと勘違いするんです。Google世代と言われておりますが、基本的なことを知らない学生が多いように感じています。
2年間分で感想が4000人分溜まりました。来年やれば、6000人分になります。まだ分析ができていませんが、200人分ほど抽出してカウントしてみたところ、およそ85%が好意的回答を寄せています。
みなさん、けっこうしっかり書いてくれています。「ジャパンナレッジは使えそう」とか、「レポートを作成する時は、Wikipediaではなくジャパンナレッジを利用すべきだと思った」といった感想もあります。
「最初に見た時は、Wikipediaみたいだと思った」という感想もよく出てきます。
「GoogleやYahoo!はコンビニのようなもの。便利だから、普段はどんどん使っても良いけれど、こだわりの品を買う時は、専門店に行くように、レポートや論文を書く時は、コンビニでは良い点数はもらえない。ジャパンナレッジのようにしっかり編集がかかったデータベースを使わなくちゃね」と言うと、大半の学生は「なるほど」と思ってくれるようです。コンビニよりも「専門店(ジャパンナレッジ、etc)で自分を差別化する!」のがオススメと言うわけです。
講習会の効果がどのような形で出ているか、定かでないのが辛いところです。1つの指標はアクセスログです。ネットアドバンスさんから教えていただいた昨年のログ統計によりますと、本校はベスト10には入っているそうです。本格導入1年目としては、まあまあの成績かと思っております。今年で2年目。ログがどう出るのか、ハラハラしています。
昨年から演習問題をやらせるようになって、いくつか驚いたことがあります。CiNiiで検索させたあと、「適当な1件を選んで記入しなさい」という問題があるのですが、ほとんどの学生が、検索結果のトップを選びます。ほぼ全員に近いです。短時間なのでゆっくり考えている暇はない、ということもあります。しかし、こうも全員が同じ答えを書いてくると不気味です。上位に表示されるものほど重要、という刷り込みがあるのではと危惧しています。この点は学生にも強く注意しています。Googleに従うのではなく、自分の頭で考えろ、と突っ込みます。
次に、キーワードの選び方です。「インターネットと選挙」というキーワードを与えますと、かなりの学生が「インターネットと選挙」とそのまま入力してしまうんです。「インターネットand選挙」と発想しないのです。
「アメリカのロースクールに関する記事を探しなさい」となると、「アメリカのロースクール」だし、もっとひどいのは、「アメリカのロースクールに関する記事」まで入力してしまいます。Google世代といっても、論理演算すら理解していない学生が大半なのです。
最初は自分で問題に立ち向かわせて、頃合いを見ながら、(アメリカor米国)and(ロースクールor法科大学院)、というような検索式をたてることを教え、緻密に考えて検索することが、その他大勢から脱け出す検索力アップにつながることを実感させます。
ジャパンナレッジの検索については、見出しのみ、見出し+キーワード、全文の違いを教えます。見出しを全文に切り替えてやらないとできない問題も用意しています。
OPACでは、完全一致検索と中間一致を教えます。CiNiiでは、論理演算子の使い方、新聞データベースでは検索範囲に気をつけるという問題を出します。1データベースにつき1つの重点項目で、全体合わせて基本的検索力養成をカバーするわけです。
まず問題に向かわせ、いったん学生を躓かせてから、答え合わせという形で教え込んでいきます。1コマ90分ですから、覚えることが多過ぎて、相当ハードだと思います。でも一方で、演習問題を10分でできてしまう凄くデキる学生もいるわけです。だから、最後の30分が個別対応なのです。学生のレベルに合わせて、10分で終わる学生だって、教えることはたくさんあるわけです。現状より引き上げてあげることを目指しています。
ネット時代のキーワードは検索力とパーソナリゼーションと言われます。検索力を少しでもつけさせようと、個別に、「君に必要なことを教えるよ」というスタンスをとるように努めています。キーワードは「個別対応」と思っています。
「パソコンは苦手だが、いろんなデータベースがあって、便利なことが分かって良かった」
というような感想から、「最初は、たかが検索くらい講習会を受けなくても、と考えていましたが、キーワードの書き方(and、or)次第で、目的の資料に効率良くたどりつけることを実感しました」といった感想などがたくさん出てきます。
「90分で情報力がガラリと一変する!」をめざしていますが、90分では限界がありますし、学生もすぐに忘れてしまうかもしれません。そこで、データベースごとに詳細なマニュアルを作って配布します。必要な時に読んでね、というわけです。あとは、先生がふさわしい宿題を出してくれさえすれば、定着が図れるのですが。
その他、中央大学には、端末周辺に授業実施中の午後1時から7時まで毎日、本学図書館情報学専攻の学生を「CHOISアドバイザー」として常駐させています。「分からないことが出てきたら、この人たちに聞いてね」と講習会では伝えておきます。CHOISアドバイザーというのは、80年代にアメリカの図書館で、カード目録の横にカード目録を検索するためのヘルパーをおいていました。あれをまねた発想です。1992年のスタート以来、学生のみならず、先生方の間でも評判が良いようです。
ここまでお話したとおり、本学の講習会は、ジャパンナレッジでこう遊ぼうというレベルには、まだまだ至っておりません。しかし、多くの学生に、「便利だから使ってね」というメッセージは届けられていると思っています。
なぜ私たちはこうしたリテラシー教育を行うのでしょうか?
ひとつは、これをきっかけに、図書館に来てほしいということがあります。
もうひとつは、これからの時代を生き抜くためには、検索は必須だから、ぜひスキルを身につけてほしい、という気持ちもあります。
大学図書館においては、やがて全てが電子化され、誰も図書館に来なくなると主張する先生もいらっしゃる昨今です。ですが、将来はともかく、目の前の学生を見ていれば、とりあえずやらなければならないことがたくさんあるように思われます。
先ほどのインターネットと選挙の例でも、「インターネットand選挙」なんて考えてなくても、サーチエンジンが適当に答えを出してくれますが、大学生がサーチエンジンばかりを頼って自分の頭で考えることを放棄して、はたしてそれで良いものでしょうか。
データベース講習会の話ばかりでしたが、実際は場所としての図書館、モノとしての本のリテラシーも重要です。
先ほど紹介した事例でも、本学では1年生1000人以上に図書館ツアーを行っているのですが、本学の閉架書庫はおよそ60万冊の蔵書が並んでおります。壮観な様子をみて、これを使わないと損だ、という気にさせたい。
もちろん、インターネット上にははるかに多くの情報が流れていますが、やはりバーチャルとリアルは違います。1冊の本には、著者、編集者、校正した人、装丁した人、デザイナー、印刷所、さまざまな人……そして、ひょっとしたら司書など……いろんな人の思いが詰まっています。そんな1冊を手に取って、そこから、自分の頭で何かをつかみとりましょう、というような読み方の指導は、やはりリアルな本を見せながらでないとできないと思うのです。ブラウズして探す奥深さを実感させよう、です。
最近、ツアーに参加した学生から、書架の間で「ハリーポッターの世界みたい!」という感想が出て、私の方がそのセンスにびっくりしました。「実は図書館の閉架書庫には、妖精・妖怪が棲んでいるんだよ」と返すと、「わあ!」と、歓声があがりました。学生はまだそんなノリがあるんですね。場所としての図書館に連れてきて、モノとしての本に触らせるということも絶対に必要だと実感するわけです。
ツアーを引率する人の力量が問われるわけですが、いずれは50%程度の学生が参加できるようにしていきたいと考えております。
本学のリテラシー教育は、この分野の先進大学でやっていることに比べれば初歩的です。いずれはもっと進化したいのですが、大学全体の調整もあり、道は平坦ではありません。
けれども、その限られた状況の中でも、頑張れば、いろいろできると思っています。
先ほど、教えているのは、ジャパンナレッジ、OPAC、CiNii、日経テレコンの4点セットと申しましたが、実は、本当に教えているのは次の4つです。
昔から図書館員が学生に教え続けたことなのです。
この4つは、上手に教えれば、感動を呼べる内容です。短い時間では難しいです。でも、何か1つでも、学生の心に直球が届く言葉、バシッ!とストライクが決まる言葉を狙いすまして投げることができれば、メッセージは届けられるはずです。「感動を呼ぶ」というのがキーワードだと思っています。
感動というと大げさに聞こえますが、「あ、そうか!」程度の気付き、その程度で良いのです。その気付きが「ネットだけでなく、図書館を使えば学びは断然おもしろい!」ということに繋がっていくと良いかなと、思っています。それが、e-ラーニングではなくて、人間がやる意味だと思います。90分で何ができるか、というと、ストライクを何本取れるか、という図書館員の腕にかかっているわけです。
とりとめのない話になってしまいました。ジャパンナレッジに特化していなくてタイトルと違う!とお叱りを受けそうですが、やはり講習会のスタートをジャパンナレッジから行うことで、学生の興味をぐっと引きつけられていると感じています。
レポートを書く時には「とりあえずGoogle」の雑なサーチをするよりも、ジャパンナレッジなど、質の高いデータベースで検索する方が絶対に良いというメッセージを、大半の学生が素直に受け取ってくれます。情報は整理整頓された場所から選び出すものです。
ジャパンナレッジって、本当に便利なんです。ですが、それも全てネットアドバンスさんが、ジャパンナレッジの品質保証をしてくださること、これが大前提でして、今後ともますます充実したものにしていただきたいというお願いを最後に述べさせていただきたいと思います。
ご静聴どうもありがとうございました。