現在私は、同志社大学で「学術情報利用教育論」という科目を担当しており、その中の1コマで百科事典の利用法と“作り”の話をしています。今日はそこから、ジャパンナレッジの活用法をお話します。
まず、「百科事典の活用法」と「事典で関係をあぶりだす」ということが、とても重要になります。それから「発想するために百科事典類を道具として使えるか」ということをお話しさせていただきます。
授業でジャパンナレッジの百科事典の使い方について説明すると、不思議なほど、学生にウケるのです。近頃の学生は、国語辞典や英和辞典は知っているのですが、百科事典をあまり知らないようです。大きな百科事典を置いている家庭が少ないのか、あまり見たことがないらしく、「こんな物があるんだ」という新鮮な驚きを受けています。
もう1つ、「新書マップ」というサイトを紹介すると、「おお!」という、驚きの声が出ます。
これは、なぜでしょうか?
例えば同志社大学の場合、新書は「岩波新書コーナー」や「講談社現代新書コーナー」といったぐあいに、シリーズごとに置いています。それが、新書マップを見ると、一度に同じ主題のものが画面に出てくると言って驚くのです。これは実は、きわめて図書館的な試みと言えます。
課題で、「思春期ダイエット」を調査するとします。自分が入力した「思春期ダイエット」が、どのような事項と関わっているのかが、新書書影の画像で表示されると「おおー」っと学生が声を出します。
ですから、新書マップで「思春期」と「ダイエット」で検索すると、「カウンセリング」とか「拒食と過食」と表示されるだけでとても勉強になり、「良いサイトを教えてもらいました」と学生からも、また聴講にこられた先生からもよく言われます。
これは、1つのヒントだと思います。まず事項の鳥瞰図が分かる。いろいろな新書のシリーズがあるけれど、「肥満」に関してはこんなふうに、「ダイエット」に関してはこんなふうに、パッと固めて新書が表示されるということ。これは、分類して書架に並べているのとまったく同じことだと言えます。ただ、実際の新書コーナーはそのような形になってはいないので、新書マップで見やすく表示されると、とても役に立ったと言われるわけです。
ジャパンナレッジで百科事典の使い方を学生に教える時は、「見出し」「見出し+キーワード」「全文検索」で引くという、それぞれの引き方をとても意識してます。
例えば、「樋口一葉」を学生に調べさせると、「樋口一葉」と入力して検索を実行し、説明が表示されます。
これだけですと、「樋口一葉」を単なる「樋口一葉」として理解するだけで終わってしまいます。「樋口一葉」が、他にどのような関係があるのかというのをチェックするために、「見出し+キーワード」で検索させてみます。そうすると、ジャパンナレッジ編集部で付けたインデックスにヒットし、『たけくらべ』や『にごりえ』などの他、「日本文学」というところでもヒットしているので、近代日本文学の位置づけの中で、「樋口一葉」の説明があるんだな、というのを理解させることができます【資料1】。
さらに、「全文検索」を行うと、本当にたくさんの項目がヒットしてきます【資料2】。
例えば、「井上ひさし」という作家の説明の記述文章の中でも、「樋口一葉」が出てきます。それから、「井原西鶴」の説明文章の中にも、「樋口一葉」の説明が出てきます。
なぜその項目が検索されたのか、学生に予想させます。例えば「貨幣」という項目がヒットしたのか? これは、5000円札ということで大抵答えられます。「北村透谷はなぜだろう?」「井原西鶴は?」というように、順番に予想して突き詰めていきます。
すると、「井原西鶴の文章が、例えば樋口一葉の文章に影響があるのでは」という答えも出てきます。そこで実際に「井原西鶴」を検索すると、解説文の中に「樋口一葉」が出てきます。「樋口一葉も『大つごもり』、『たけくらべ』に西鶴調を生かした」と書かれているわけですね【資料3】。
ここで、私が何かレポートを書けと言われたら、「井原西鶴の樋口一葉への影響」という観点の切り口から、テーマが1つ作れるな、と思うわけです。実際に樋口一葉と井原西鶴で雑誌記事索引データベースを検索したら、やはりそういう研究はありました。検索結果からレポートの切り口が見つけられるということになります。
自分が調べている事象がどのようなものと関係があるのかということをきちんと分かるために、百科事典の全文検索やキーワード検索で調べていくといった利用法を覚えて欲しいのです。レポートのテーマを設定する時でも、このような「視点の持ち込み」が一番大切なのです。どのような切り口にするか? そのために、百科事典を自由に使えるようにしましょう、ということを教えています。
もう1つ事例を紹介しましょう。
学生に「外食産業」という課題でレポートを書かせたことがあります。これは同時に、学生がどのように辞典を活用するかということの点検でもあるのです。その時の内容というのが、みなさんにお配りしている『「ジャパンナレッジ」を使ったレポート作成法』という資料です。
例えば、「外食産業」もいろいろな切り口があります。ジャパンナレッジを使えば、その切り口が、たくさん見つけられますよ、ということを授業では教えています。
「全文検索」で「外食産業」を検索すると、たくさんヒットしてきます。
検索結果から私が最初にいいな、と思ったのは、「食品トレーサビリティー」でした。この項目には、食材の安全性を求めて、どこで製造されたものかを追えるようなシステムを作らなければならない、という話題が出ていました。最近とても問題になっているテーマですので、外食産業と食品トレーサビリティーという視点も、この瞬間に見えてくるなと思うわけです。
他の項目を見てみると、さらにいろいろな興味深い項目が見つかります。「食育」という視点でもいけるな、とか、外食産業でいちばん使われている肉類が「鶏肉」なのだということも分かります。
また、肝心の「外食産業」を検索してみますと、「市場規模の増大」や「大手商業資本の参入」「高級化と多様化」の他に、「中食(なかしょく)産業」というのが目に付きます。「中食」とは最近の流行りだそうで、買って帰って、家で食べることだそうです。「外食」から「中食」へという面白い切り口も、この検索結果から見つけることができました。
また、ジャパンナレッジがセレクトした「URLセレクト」を順に見るだけでも役に立ちます。外食に関してどのような統計や関連組織があるのか。また国立国会図書館が公開しているサイト「テーマ別調べ方案内・外食産業について調べるには」へも自然と導かれます。検索エンジンのみでたどり着くのが難しい情報に対しても、ジャパンナレッジからはスムーズにリンクできるようになっているのです。これらURLは、百科事典執筆スタッフの推薦や様々なポータルに出ているものを実際にチェックしながら、最適なものをリンクしてくれています。このような作業を行っているスタッフの多くは、元司書の方たちで構成されております。
「日本国語大辞典」も「日国オンライン」としてデータベース化されましたので、もう一歩突っこんで、国語辞典のお話しもいたしましょう。
私が教えている大学の2年生の課題に、美容としてのダイエットがいつ日本で成立したのかを、それぞれの考えでまとめて発表するというものがありました。
私のところに訪ねてきた学生に、「どのように調べてみましたか?」と聞いてみたところ、「『広辞苑』を初版から全部めくっていきました」という答えが返ってきました。三版までは、すべて体調維持のための食事制限だと書かれているのが、四版目からは「美容」という二文字が突然入ってくると言うのです。この学生は、国語辞典を単に言葉の意味を調べるためだけに使ったのではなく、「言葉の戸籍簿」として使ったということが分かります。
この学生は、いつの時点から「広辞苑」に出てきたのかを調べることによって、ダイエットという言葉が市民権を得たのか分かるのではないだろうか、という仮説を立てたわけです。私は、「『日本国語大辞典』も調べておきなさい」とアドバイスしておきました。なぜなら、「日本国語大辞典」には用例が豊富に書いてあるからです。
これは、大辞典編集部が、一番初期の使用例はもちろん、主要な時代の用例を探して、掲載しているのです。それを見ると、「ダイエット」については、「太りすぎ防止のために、美容のためにする食事制限」と、健康と美容の両面から書いてある解説文になっています。どこで「ダイエット」という言葉が使われたのかという最初期の事例としては、中島梓さんの『にんげん動物園』という小説から抜粋してあります。
これを確かめるために小学館に行きました。「日本国語大辞典」の編集長にお願いして、あの国語辞典がどのように作られているのか、用例のために作られた短冊を全部見せてもらいました【資料4】。編集部では100万枚以上ある短冊をすべてチェックしながら、どれが妥当であるのか、という取捨選択をされているのだそうです。このような調査分析から、日本における「ダイエット」という言葉を使った文学作品や記事の中では、中島梓さんの『にんげん動物園』という作品が最初期であろうということが確定されたわけです。
学生の一番の悩みどころは、何かテーマを与えられたら、どのようにそれを設定すればいいのか? トピックの選択や漠然とした情報探しはどうすればいいのか? フォーカスをどのように絞っていくのか? といったことでしょう。
このような時、百科事典はとても役に立ちます。それが分かっているかいないかで、レファレンスブックの使い方というのは、ものすごく変わっていきます。
これまで述べたことを復習いたしますと、私たちも普段、世の中のいろいろなものを見ながら、事項と事項の関係性を無意識のうちに見ているのではないでしょうか。
例えばある人をみて、趣味の世界ではゴルフのグループにいて、会社ではこんな仕事をしている、といった具合です。また、ある人の持っている名刺フォルダーを見せてもらえれば、どのような人脈を持っているかが分かりますね。呼ばれて参加した結婚式の披露宴の席次表を見れば、新郎新婦の人づき合いの中で自分がどのような位置づけにあるか、その深さ浅さが分かります。このように、関係性は、至るところに見えているのです。これが学術ならば、百科事典を見ればよく分かるというわけです。
図書館の場合もまさにこの関連付けが当てはまります。分類付けをして、数字を付けて、これは人類学、これは哲学というように、一冊だけならば普通の本なのですが、図書館流のやり方で分類を付けたり、件名を付けたりしているので、それぞれ本同士の関係性が見えてくるのです。
Webの世界ではどうなっているのかというと、検索エンジンを使っても、量が多過ぎて情報が見えにくい、ということが多々あります。この状況を何とかしたいと思い立ち、国立情報学研究所の高野明彦先生などは、「Webcat Plus」や、先ほどの「新書マップ」を作られたわけです。 インデックスを付けて、キーワードを付けて、全文でも引けて、ほどよい長さに入っていて、これはまさに、百科事典の発想だと思います。
Googleのエリック・シュミットCEOは、「みなさんはGoogleを検索エンジンとおっしゃいますが、作っている僕たちが最終的に目指しているのは、情報集めの検索ではなくて、情報の意味を本当に理解できるようなサービスなのです」と言っています。
情報の意味を理解するためには、事物の関係性があぶり出されてくるようなシステムを作っていかなければならないでしょう。
そろそろまとめに入らせていただきます。
ジャパンナレッジを、従来通りの使い方で、斯界の権威がまとめた定説を理解するという手段もあります。
しかし、オンラインとして使う限りは、調べる事象の関係性が分かるような使い方をしていきたいものです。あるいは、先ほどの「樋口一葉」のように、発想を紡ぐ道具として使うことが大事なのではないかと考えています。
それらを理解していただくために、単に事象を調べるのではなく、どのように百科事典を読んでいけばいいのかを妹尾堅一郎氏も以前の「JK Voice」で書かれています。検索ではなく、“探索”することがビジネスには必須です
発想を紡ぐための道具としてジャパンナレッジを使っていただければ、もっともっとみなさんの認識の網の目は深まり、発想が豊かになるはずなのです。