現在、世界のインターネット利用人口は8億人を超えるといわれています。国内公共図書館においては、じつに70%の図書館がインターネットを利用しているという報告があります。しかしながら、利用方法の標準化やガイドライン作成が実施されている図書館はわずか2%程度であるというのも現実です。
インターネットは、たしかに「調べもの」の際に大変役立つ手段です。世界中の情報を入手することが容易になりました。しかしその一方、情報ヒエラルキーの消失、情報の信頼性が曖昧といった大きな問題点もあります。多くの人が情報に敏感になっている現在においては、図書館員もレファレンス技術を変化させないとインターネット時代に対応できないと私は思っています。これまでは、どちらかというと書籍を対象にして利用者とのつなぎ役をしていれば良かったレファレンスサービスですが、今後は、ネットワークの環境下を前提とした上で、リアルな書籍、インターネット上の情報、契約している商用データベースの情報も合わせて、複数のメディアを比較しつつ利用者に確かな情報を提示することが求められるでしょう。
すでにアメリカでは、複数メディアを利用してリサーチする学校教育が行われています。そのため学校を離れた後も図書館に通うビジネスマンがたくさんいて、ビジネス関係も含めた商用データベースを無料開放している公共図書館がふつうです。日本とは大きく異なり、リサーチが米国における図書館利用目的の大きな要素となっているのです。
日本の図書館もリサーチや調べものに対するサービスが盛んになりつつあります。レファレンスサービスも声高に叫ばれるのですが、図書館側で受けた調べものの質問と回答結果や調査の過程を記録データとしてデータベースに落とし込み、皆で共有化して使おうというのが最近はやりのレファレンスデータベースです。国立国会図書館の「レファレンス共同データベース事業」が2005年12月から一般の方にも公開されますが、こういったサービスの認知度が高まり利用者が増えていくことで、レファレンスへの関心がますます高まり、調査でのインターネット利用の有用性も定着していくのだろうと思います。
インターネット上での情報収集には、商用データベース検索や電子ジャーナルでの情報収集、そして、いわゆる検索エンジンにヒットする一般的なウェブサイト情報と2系統があります。
後者を利用する際に忘れてはいけないのは、総合的な検索エンジンが網羅しているウェブサイトは全体のごくわずかにしか過ぎないということです。ここでは、検索エンジンで検索できるウェブサイトを「表層ウェブ」、データベース内に保存される動的に生成されるデータベースを「深層ウェブ」と呼びますが、この深層ウェブは基本的に検索エンジンにはヒットしません。ですから、一般的なウェブサイトで情報収集するときには、自分が欲している目的のページを思い描きながら、ありそうな情報発信源サイトを探すことが大切です。近年では、利用者が深層ウェブに行きつきやすいように、重要な情報発信源サイトを集めたポータルサイト作りが大学図書館でのポイントになってきています。また、検索スキルは積み重ねで上達させることができますが、検索した結果の情報の正誤性・信頼性を判断できるか否かも、図書館員、利用者ともに課題になってくると考えています。
その点において「JapanKnowledge」には、私がこのデータベースを日頃から活用している大きな理由、そして長所があります。たとえば「道路」を『日本大百科全書』で検索すると、ページの右に「国土交通省道路地図」などの「関連サイト」が表示されます。これはジャパンナレッジ独自の方法で選定している関連項目で、ディレクトリ型検索エンジンでのリンク状況の調査、ドメイン名のチェック、有力ポータルサイト・パスファインダーの調査を、元司書などのスタッフが日々行っているそうです。
こういったウェブサービスが提供している知識を、知財・社会資本として保存しようという大きな動きが一方であります。世界的な国際機関では、ユネスコ「デジタル文化遺産保存憲章」(2003)、IIPC【International Internet Preservation Consortium】などがありますし、国立国会図書館では「WARP」という表層ウェブを保存する事業も進められています。図書館は、ウェブ情報をはじめとするデジタル情報についても、従来の印刷資料と同様に蓄積し、探しやすいようにアクセスの工夫を用意し、典拠性のある情報として利用できる環境と仕組みを整えなければならないわけです。
以上のように、これからの「調べもの」に対応するためには、次世代図書館としての「仕組み」をどう考え、どう利用していくかが肝心です。それには、利用する各メディアの特性を知り、情報の信頼性を見極め、評価する能力が必要となってきます。
しかしながらもっと大切なことは、いかなるメディアを使おうが、「調べる」という行為のモチベーションを高く持ち、情報そのものを読み解く力を身につけることです。それには、調べることに意識的になること、調べる喜びを知ることです。たとえ生活情報であっても、学術情報であっても、「調べもの」をする利用者に、きちんと応えていける図書館づくりがこれからの課題と考えています。