ジャパンナレッジのような統合されたデータベースがいちばん重宝する場面は、“専門外のこと”を調べるときです。私は近世史が専門なのですが、それ以外の分野で調べなければならないことなどが、実は非常に多いのです。 よくあるのが資料の売り込みです。「こういう貴重な資料があるのですが、買ってくれませんか?」というような電話がよくかかってきます。専門分野のことならそれがどの程度の価値をもつ資料なのかすぐにわかりますが、専門外のものはそうはいきません。電話を受けながら、実は目の前のコンピュータでジャパンナレッジにアクセスして応対したりしています(笑)。もちろん、館では図書資料やCD-ROM、DVDなどはかなり充実していますが、図書室が遠かったり、資料そのものが重いものであったりと、なかなか気軽に調べ物ができるというわけにはいきませんからね。
さて、私がジャパンナレッジのなかでいちばん注目しているコンテンツが平凡社の東洋文庫です。私の個人的な好みの問題もあると思うのですが、東洋文庫のデータベースは、大変な画期だと思います。東洋文庫は非常に有用な書物であるのにもかかわらず、750冊という膨大な冊数を目の前にして、それを個人的に記憶や記録に留めることは大変な労力と時間を取られてしまう作業です。その東洋文庫の全文を検索できるということは、そうした膨大な労力から開放されるわけですから。とくにこの東洋文庫は全文検索すると、思いがけない資料がヒットしたりします。探しているほんの1行の記述だったりもするのですが、そこから思いもよらない世界が開けたりすることもあるのです。惜しむらくは、今、ジャパンナレッジに搭載されているのは700冊弱。残りの50冊をできるだけはやく追加してほしいものです。
東洋文庫に私が最初に出合ったのは高校生のころ、マルコポーロの『東方見聞録』を夏休みの研究課題として選んだのが始まりです。もちろん研究員になってからも東洋文庫は貴重な資料として活用しています。たとえば、戦国期から田沼時代までの近世の社会相を知るうえで欠かすことのできない松浦静山の『甲子夜話(かっしやわ)』や幕末の対馬藩士である中川延良の『楽郊紀聞(らっこうきぶん)』などは、近世史を研究するうえで欠かせない史料です。
『楽郊紀聞』は東洋文庫に2冊入っているのですが、2冊でも通読するとけっこう時間がかかります。論文にも引用するため、必要だと思われる箇所に付箋を張ったりと、ジャパンナレッジを利用する以前は非常にアナログな作業を行っていました。以前、家紋について調べ物をしていたときに、「紋」と「対馬」というキーワードで東洋文庫の全文をAND検索してみました。すると42件の検索結果が出てきますが、これらがページ単位で読むことができるのが非常にありがたい。それらのページの前後を読むことで、当時の家紋に対する考え方などは大体把握できます。とにかくすべての書物に目を通さなくてはならなかった以前の日々を考えると、隔世の感があります。
最後に、私も研究に大きく関わり、当館の最多の収蔵品でもある「対馬宗家文書の世界」のページをぜひご覧ください。江戸時代の対馬や日朝関係に関する1万5000点におよぶ膨大な史料が当館には所蔵されています。昨今、北朝鮮との問題が大きくクローズアップされていますが、過去から続く日本と朝鮮の関係を細かく眺めると、現代の問題にも通底する背景が見え、大変興味深い発見があったりします。ぜひ、当館にお越しいただき、ご覧ください。