「ジャパンナレッジ」の構想自体は、1990年代の半ばには、すでにお聞きしていました。小学館で電子ブックに「日本大百科全書(ニッポニカ)」を搭載されるという発表があったので、索引家協会の方で、どのようにデジタル化し、索引などを作っていくのかを詳しくお話を伺ったことがあったのです。その時点で、このようなパッケージが次の段階ではインターネットへ移行していくという展開は予想出来ました。
すでに、アメリカなど海外では、大学で学生一人にID、パスワードを与えて、学内、学外で自在にネットワーク上のデータベースを使わせるというシステムが進行していました。
当時の日本図書館学会でもインターネットを図書館におけるレファレンスで如何に利用出来るかについて討論されていた頃でもあります。
そのため、「ジャパンナレッジ」の可能性というものには大変興味を持っていました。
それから早や十数年。残念ながら、「ジャパンナレッジ」を有効活用しているのは、端末数や回線数の問題もあるとは思いますが、規模が大きく体力のある総合大学が中心、というのが現実です。
そもそも大学というものは、学生の自主的な学習というものをベースに成り立っています。講義が90分あるのならば、そのための予習復習には倍から3倍の時間をかけるのが基本です。
その時間を保証、提供するのが大学図書館の役目なのだと思います。大学図書館は、学生の自主的な学習を援助することに、もっと積極的に乗り出していかなければなりません。
しかし、実際に大学図書館を利用している学生の数はきわめて少ない状態です。その根底には、そもそも「どう調べて良いか分からない」という問題が横たわっているのだと思います。
先進的な大学図書館では、そのホームページ上に調査のための指針となるパスファインダーなどを用意しています。卒論やレポートなどのテーマの実例を挙げて、どのような文献を用いて調べていくかを解説した非常に具体的なものです。そこでは、まず最初にテーマとなる言葉の概念、人物や事例について辞書や事典を参照することを推奨しています。このような場合、すでにデジタル体系化されている「ジャパンナレッジ」は頼もしい存在です。
パスファインダーを設けて、学生に調べ方の案内をしている大学図書館は、まだまだ少ない。図書館利用を有効にガイダンス出来ないでいる大学もたくさんあると思います。
ここで提案したいのが、「ジャパンナレッジ」の調べ方マニュアルです。実際に「ジャパンナレッジ」を使った調査法を数例挙げていただき、それを基に各図書館でカリキュラムに合わせて、カスタマイズさせるのです。これを「ジャパンナレッジ」自体とパックで展開していただければ、この大学間格差を少しでも埋められるかもしれません。
図書館のサービス改善も不可欠なのですが、それ以前に、日本人の資料を調べる力自体の向上が必要なのかもしれません。
2005年7月に「文字・活字文化振興法」(脚注)が成立し、法律を提案した議員連盟が法に基づく「施策の展開」を発表しましたが、その中にも、教員養成課程へ「図書館科」や「読書科」の導入が挙げられています。これは歓迎すべきことで、先生方が、まず図書館利用や調べ方について勉強していなければ、生徒への指導などできないからです。
これから、高等学校や中学校の図書館でも司書教諭と図書館司書を増やしていく例は多くなってくると思います。このような状況から、「ジャパンナレッジ」を「調べ学習」のツールとして展開することも可能だと思います。
教育機関がオンラインに対して最も危惧しているのは、有害サイトの存在でしょう。それらへのフィルター処置が前提ですが、ニッポニカにある「関連サイト」は、厳選されたものばかりですから喜ばれると思います。
さらに前述したように、ここでも調べ方の実例は必要だと思います。
指針とすべきは「学習指導要領」でしょう。ご存知のとおり、教育課程や教科書編集の基準となるものですが、例えば、そこには「細かな事象を網羅的に羅列したり高度な事項・事柄に深入りしたりしないこと」とあります。この一節に限らず、実際どう行えば良いのか、教育現場は常に悩みを抱えているのだと思います。
これは一例ですが、「環境問題」というテーマがあるとしたら、「ジャパンナレッジ」で実際にこの言葉を引いた場合、各事典では、どう記されているのか、関連サイトへはどう誘導されていくのか、など実作業に基づいて解説してあげられれば、非常に効果的なはずです。
中学校、高等学校の図書館で、「ジャパンナレッジ」を使った調べ方を学んだ生徒たちは、必ず、大学や社会に出てからも、それを必要とすると思います。これは、「ジャパンナレッジ」自体の普及はもちろん、日本人の調べる力を向上させることにも繋がると思います。
豊かな文字・活字文化のための施策を総合的に推進するための法律。平成17年7月29日法律第91号。近年、国民の活字離れが進み、また読解力や文章表現力が急速に低下しているため、こうした傾向に歯止めをかけることを目的に、与野党286名の国会議員からなる活字文化議員連盟において法案がまとめられ、2005年(平成17)7月に成立した。
同法は、活字などの文字を用いて表現されたもの(文章)を読んだり書いたり出版する活動、または出版物などの文化的所産を「文字・活字文化」と定義している。そして、この文字・活字文化の恵沢をすべての国民が生涯にわたり平等に享受できる環境を整備すること、国語が日本文化の基盤であることに配慮すること、学校教育で言語力を高めていくことを基本理念とし、国や地方自治体はこの理念にのっとり、文字・活字文化の振興に関する施策を総合的に策定し、実施する責務を有することを規定している。
活字文化議員連盟は、具体的な施策を「法施行に伴う施策の展開」としてまとめ、地域における振興(0歳児に絵本を贈る運動である「ブックスタート」の普及による子育て支援、本の読み語り支援、読書アドバイザーの育成、移動図書館の普及・拡充、公共図書館の計画的な設置等)、学校教育における施策(読書指導の充実、小規模校への司書教諭の配置、図書整備費への支援、新聞を使った教育活動の充実等)、出版活動への支援(文字・活字にかかわる著作物再販制度の維持、学術的価値を有する著作物の振興・普及、翻訳機会の少ない国々の著作物の翻訳、世界各地で開催されるブックフェア等国際文化交流の支援)などを推進するよう求めている。なお、同法で読書週間初日の10月27日を「文字・活字文化の日」として制定した。