はじめて「ジャパンナレッジ」の存在を知ったのは、3年前(2004年)の電子書籍系の総合展だったと思います。翌2005年の4月には導入させていただきました。
当時はネット上の事典や辞書のサービスというものを、図書館の誰も理解しておりませんでした。ゆえに予算獲得は困難が予想されておりました。そこで、一計を案じて、以前出版されていた「ニッポニカURLセレクト」にインターネットサービスが付属しているという名目で、半ば強引に導入したと記憶しております。
当時から、図書館の電子出版対応は急務と考えておりましたので、「ジャパンナレッジ」は、兎にも角にも導入しておきたいコンテンツだったのです。
効果はレファレンスにおいて覿面でした。公共図書館は、様々な方々が利用されます。同時に様々な本に対する質問も受けることになります。そこで「ジャパンナレッジ」は大いに役立ってくれました。
当館には「東洋文庫」を全冊揃えており、勉強や趣味で利用される方が意外に多いのです。これに対するレファレンスは、なかなか大変な作業だったのです。700冊近くある本の中から、「日本の落語」について知りたいと言われても、すぐには探せません。その点、「ジャパンナレッジ」を使えば、全文検索や「OR」や「NOT」の詳細検索が使えますから、膨大な冊数の中から、何巻の何ページまで具体的に調べることができます。
また、「児童文学とは何か?」という質問を受けたことがありました。「ジャパンナレッジ」で「児童文学」と検索すると、「日本大百科全書」では、概説はもちろん、児童文学の時代ごとの移り変わりまで言及されています。また文中に登場する作家についても関連項目があって、詳しく調べられます。おかげさまで、かなり詳しい回答を返すことができました。
欲を言えば、漢文を充実してくださると、さらに嬉しいですね。書道や漢詩を趣味にされている方々が、課題にされている文章を持参されて、出典や詳しい意味を知りたい、という質問が舞い込んでくることが意外に多いのです。例えば「新釈漢文大系」(明治書院)が「東洋文庫」のように検索できれば、大変便利ですね。
レファレンス以外でも、事典や辞書のような膨大なコンテンツをコンパクトにまとめてくれる「ジャパンナレッジ」は、公立図書館としては、物理的にも経済的にも大変助かっています。例えば、墨田区には現在、5箇所の図書館があるのですが、「日本国語大辞典」全13巻を備えているのは、わずかに2館ほどです。価格やスペースの問題で断念せざるを得なかったのですが、「日国オンライン」を導入できれば全館で「日本国語大辞典」を利用することができるようになります。
ただ、ここで公共図書館ならではの課題もあります。
ご存知のとおり、利用者の方々に「ジャパンナレッジ」を使っていただく場合、セキュリティを考えると図書館システムとは別個の専用のインターネット環境が必要になります。
常時接続されているIP(Internet Protocol)アドレス固定型は、利用者の方々に対しては大変利用しやすく、館としても管理しやすいのですが、使用料が割高になります。5館全体ともなると、現在の限られた予算の中では、採用はかなり困難なのが実情です。
私どもは、公共図書館ですから、どんな方にでも門戸を開いていますので、そのパソコンを調べ物以外の公序良俗に反する用途で使用される事への対策や、画面をプリントしたい方への対応、また利用時間の管理なども必要になってきます。例えば30分と規定したとしても、それを守らずに、長時間使用する方もいらっしゃるかもしれませんし、逆に30分という時間内で肝心の調べ物が終るのかという懸念もあります。
さらに、お子さんやお年寄りに「ジャパンナレッジ」やパソコン自体の使い方もアシストしなければならない場合も出てくると思います。その際も限られた人員で対処しなければなりません。
以上のような理由もあり、当図書館内部でもインターネットを利用したサービスに関しては慎重にならざるを得ず、どうしても腰が重い部分があるのです。
ゆえに、せっかくの「ジャパンナレッジ」もレファレンス用にスタッフが使用しているだけで、利用者の方々には使っていただけていないのが現状です。
このような利用環境の問題点を早期に解消して、内容的に抜群な「ジャパンナレッジ」を多くの方に利用していただきたいと思っています。
少し、違う視点からの話になりますが、子どもたちが多くの本と出会う機会と環境をつくるため、昨年度から公共図書館と学校図書館を連携させるシステムを構築中です。これは、公共図書館と学校図書館を専用回線で結び、公共図書館の書誌データを利用して学校図書館の蔵書をデータベース化する事業です。これによって、学校図書館での蔵書管理が容易になるばかりでなく、学校からも図書館の蔵書を検索することも可能になります。2007年度中には墨田区立の小・中学校の3分の1の学校に導入されます。
セキュリティ面など様々な検討課題があり、まだ夢の段階ですが、将来このシステムの回線を利用できれば、「ジャパンナレッジ」を中学生のみなさんの調べ物学習や、先生方の授業支援などにも活用していただける可能性はあると思います。
各地でも新しい図書館計画が動き始めているようです。デジタルコンテンツは、図書館にとって避けては通れないものです。図書館におけるネット環境の改善にいっそう努力していきたいと思います。