最近はビジネスパーソンを対象とした「研修型プロジェクト」の指導を引き受ける機会も増えました。これはビジネスリサーチを実践する研修なのですが、そんなとき驚かされるのは、プロジェクト構想力、つまり問題を設定する力や企画力がかなり弱いという点です。
彼らの能力が低いというわけではありません。与えられた問題を解決するという基準で見れば、きわめて優秀な人たちです。ただ、企画や仕事について、基本的な調査ができない。言い換えるなら、関連分野の基礎となる知識をどうやって得たらいいかわからないという人が、かなりいるのです。
もっとも、この手の人を指導するのは簡単です。百科事典を調べさせるのです。ところが、そう説明すると、たいてい参加者たちは「なぜ?」といわんばかりの顔つきになります。なかには「もっと新しい知識を得ないと仕事になりません」と言ってくるビジネスマンすらいます。もちろん、最新の情報を得るため、専門書を調べたり市場で情報収集することは大切です。ただ、専門書や最新の報告書は、各分野の定説や通説の理解を前提に書いてあります。その分野について何の知識もない人間が、いきなり読んで理解できる代物ではないのです。市場調査についても同じです。業界の通説を知らないで、有効な情報収集などできるはずがありません。
だからこそ、百科事典を調べて各分野の定説や通説を得ておく必要があるのです。そもそも「専門家が、それぞれの分野の事柄についての定説を、だれでもわかるような簡潔な文章で紹介する」のが百科事典です。ビジネスリサーチの第一歩として、これほど有効なツールはないのです。ちなみに、百科事典が有効なツールであることは研究者や学生にとっても同じことです。実際、私が指導する「社会調査法」という授業では、必ず最初は百科事典を調べることから始めさせています。
ところで百科事典にはもっと大切な“効用”があります。読み方によっては新発想の源にもなる、ということです。その読み方とは、説明文の中に出てきた関連項目や関心のわいた言葉をどんどん調べていく「つるべ読み」のことです。必要な言葉の情報だけを調べる“検索”に対し、“探索”と位置づけるべき読み方です。これを実行すれば、関連する情報を大量に得ることができます。そして、情報をより多く得ることが、よりよい企画の発想や問題設定に直結するのです。
たとえば「クリスマス」の由来に関しては、たいていの人は知っている。しかし、改めて調べると、本来キリストの生誕祭は1月6日に行っていたことや、冬至を祝う異教徒にキリスト教をひろめるため、クリスマスも冬至に近い12月25日に変更したことなどがわかってきます。一見、無駄な知識のようにも見えますが、クリスマスに向けて、あるいはお正月に向けてのキャンペーンや新商品開発を考えるときには、これらの情報が新発想の元になるかもしれません。つまり、多くの情報があれば、それぞれの情報が刺激しあって、今までなかったようなアイデアや構想が生まれやすくなるのです。いわば「量は質を生む」といったところでしょうか。
加えて“探索読み”は、複数の辞典を対象に行ったほうが効果的であることはいうまでもありません。ただ、それはひどく時間と場所と労力がかかる作業です。だからこそ、代表的な辞事典が一括検索できるジャパンナレッジはありがたいですね。今後も、このサイトで検索できるコンテンツをどんどん増やしてほしいものです。単なる検索サイトではなく“探索”を可能にする“Archive to be edited”への成長を期待します。