同志社大学では、2000年前後から様々なデータベース等を導入してきました。そして、利用講習会を数多く開催することで、ようやく今、電子資料やデータベースの利用が学生の中に定着してきました。
今までの利用講習会は、データベースの紹介や操作の説明が中心でした。しかしこれからは、データベースや電子資料を使うと、どんなイイコトができるようになるのかを強調して、成功体験を語っていくようにしなければ、有効な利用法が浸透しないのではないかと考えています。
最初に、法政大学の例をご紹介いたしましょうか。【資料1】
法政大学では、たくさんの講習会を実施されています。2007年には5,775人の学生が講習会に参加、2008年の10月末の段階では5,043人が参加しているということで、このままいきますと、7,000人を超える受講生になるでしょうか。常に利用を浸透させていく努力を重ねておられることがよく分かりますね。
私の所属する同志社大学でも、利用教育担当者が熱心に講習会に取り組んでおります。特に大学の初年時(1年生)においては、2008年度は新入生約5,000人のうち3,500人が何らかの形で、データベースやOPAC(Online Public Access Catalog)の実習の講習会に参加している状況があって、関係者の努力が実ってきております。
現在、JapanKnowledgeの法人別アクセスランキングをみると、約500の契約機関のうち、法政大学も本学もベスト10に入っている状況です。【資料2】やはり地道な利用講習の実践、そして利用方法の「見える化」を進めることが、実際の利用増加につながることを認識していただきたいと思います。
さて、私どものところでもデータベース導入と並行して、eBookや電子コンテンツを入れていこうと、2000年頃、東京国際ブックフェアなどに出かけ、導入方法について各方面と相談しておりました。
現在、同志社大学で入れている電子コンテンツはこのようなものです。【資料3】
ただ、実際にどれだけ使われているかと言いますと、残念ながら英米文学のテキストは、数年前までは1年で十数件、現在は少し増えて100件単位くらいの利用となっております。「ラテン教父全集」や「ルター全集」に至っては、それより低い利用率です。契約金額から考えると、1回あたりの検索にかかったコストは驚嘆するような高い額です。コンテンツを導入する際には、もう少し内容的にも用途面でも、ターゲットを絞って選ばないといけない、とずいぶん前から提言しております。
2000年頃、東京国際ブックフェアに参りまして、工学部の使う本をぜひeブックにしてほしいと訴えました。なぜなら、同志社大学の利用を見ておりますと、工学部、理工学部の場合、定評のあるテキストが取り合いで使われているのです。複本をたくさん購入しており、それが試験前になると一斉に借り出されて、なくなってしまう。しかも、テキストは、7版、8版と、どんどん改訂されています。最近の版のテキストを借りられない学生が、初版とか2版のものを使ってレポートや試験に臨みます。先生方からは、そうした学生のレポートや試験答案が古い内容のデータを使って書かれているので、「うちの大学図書館は、工学系の新刊を買っていないのではないか?」「工学部教授会として申し入れた方が良いのでは?」というような話まで飛び出しました。そのようなこともあり、工学関連書のeBook化を渇望しておりました。何に絞って導入するか。これは大事です。
結局、eBookや電子コンテンツについては、図書館も利用者も出版社も、あまり理解が進んでいないのかもしれません。紙の出版物の単なる代替としか考えていないのではないか? 書庫狭隘化対策ぐらいしか考えてないのではないか? 電子コンテンツはどのような有効な使い方ができるのかを、常に意識している人は意外に少ないのかもしれないなと感じています。
実際にeBookはあまり有効に活用されていません。では、具体的にどのように使ってもらえば良いのか、使ってほしいのかという問題に突き当たります。
今、利用教育を進めていく上で最も大切なことは、実際に利用をし、学習に効果を発揮した体験事例をうまく学生に伝え、「こんな時に使いたい」「こんな場面で使いたい」とそのニーズを発掘することでしょう。
そこでeBookを使ったら、こんなに役に立ったという事例を蓄積することにしました。
いちばん興味深かったのは、評論家でもあり、作家でもある花田清輝の研究をしているという文学研究科の女子学生の例です。【資料4】
この学生は、花田が作品を執筆する際に、どんな本のどの部分を、どのように引用しているのかを典拠に遡って熱心に調べていました。
その中で彼女は、「武田信玄が芋虫を異常に恐れていた」という逸話を花田が『甲子夜話』から引用しているのを発見しました。そこで『甲子夜話』を全巻1行ずつ1文字ずつ丹念に点検していったというんですね。一週間から10日かけたのですが、ついぞ見つからなかった。万策尽きてレファレンスカウンターにやって来たわけです。「引用間違いかもしれないが、図書館だったらどう探されますか?」という質問を受けました。
『甲子夜話』ならば「東洋文庫」に収録されているのでは? JapanKnowledgeで検索したらすぐでしょう、と調べてみました。【資料5】
まず「東洋文庫」を開けて、全文検索で「信玄」と「虫」といった具合に入力すると、すぐに答えが出てまいりました。実際は、花田が引用しているのは『甲子夜話』ではなくて、『甲子夜話続篇』にある逸話だとわかるわけです。【資料6】【資料7】【資料8】
「ああ、こんな楽な方法があるんですか」と彼女は言います。目の前で便利な方法を覚えたら、次は「他の引用もこれで探せませんか?」となります。このように実際に体験してみて初めて、使い方が理解できるわけですね。全文検索ができることは珍しいことでもなんでもありません。が、実際に課題をもって体験すると、そのありがたさや利用効果が身に沁みてわかるんですね。
本学のOPACに『甲子夜話』は検索して出てきますが、決して、JapanKnowledgeの「東洋文庫」にリンクされていることはない。このためJapanKnowledgeに「甲子夜話」など全文検索できる「東洋文庫」の作品群が収められていることを知らないままであるという状況が続くわけです。【資料9】
次に先生も驚かれたという例をご紹介いたします。
新島襄が「同志社大学設立の旨意」というのを、著名な全国紙に載せたいということで、大隈重信等に依頼に行ったそうなのです。けれども、どの新聞にどのように掲載されたのか。これが判然としないままでした。ところが、徳富蘇峰の書簡に「読売もなんとか掲載してくれないか」というくだりがあったそうで、もしかして、と読売新聞を探しに来館された先生がおられました。読売新聞の当時の現物をめくって探そうとされます。図書館に現物が製本されて揃っている事実もすごいのですが、「そんなことしなくても、これで見ましょうよ」と明治の読売新聞データベースをいっしょに検索すると、ちゃんと出てまいりました。読売新聞は、当時付録を付けておりまして、そこに「同志社大学設立の旨意」が掲載されていることが初めて昨年分かったのです。「これをネタに論文が書ける!」ということでしょうが、こうした瞬間がとても大切なんじゃないかな、と思います。
どのように利用すれば効果があるのか。そうした観点から利用教育で訴えていけば、徐々に浸透していくのではないでしょうか。
最後にeBookや電子コンテンツが見つからない例というのを紹介いたしましょう。
「スウェーデンの教員待遇と給与について調査したい。本で探したけれど……なかなか無い……。給与待遇が教員の質向上と関係があると聞いたんですが……」。レファレンスカウンターには、漠然とした質問がよく舞い込んできます。
このような主題に一番興味を持っているのは文科省か人事院ではないか、ならば政府の委託調査報告の類が出ているはずだ、と考えるのがふつうです。とりあえず、文科省に絞って、グーグルで検索しますと、ちゃんと、「諸外国の教員給与に関する調査研究」という素晴らしい報告が刊行されて、そのPDF版がネット上に公開されている。この瞬間、学生が抱える課題の半分くらいはクリアできたわけです。
その報告書で引用されているのは、「OECD Education at a glance」という有名な年次報告です。これを使えば世界各国の教育比較ができる。OPACで検索すると館内で所蔵しているのですが最新版はない。しかし本学では、OECDの発行物を全部見ることができるデータベースを契約しています。こちらを参照すればよいのですが、データベースとOPACがうまくリンクされていないし、その書誌データも取り込まれていない。契約しているにも関わらず、提供データベースの中に存在することが見えていない。だから使われない、ということになるのです。
OPACに様々な外部電子資料の書誌データを入れていこうとするならば、たとえば実践女子大学図書館でおやりになっている例は参考になるでしょう。「少子化」と「白書」と入力したら、ちゃんと内閣府が発行しネット上に公開している「少子化白書」の書誌データにヒットする。これは、予め書誌を付けてOPACに取り込んであるから可能なのです。クリックすると外部のサーバにあるこの白書に導かれる。さきほどの「OECD Education at a glance」や文科省の調査報告書なども、このような工夫を施せばOPACから探すことができるわけです。
以上のような努力が、存在の「見える化」のひとつです。システムを上手に工夫することで「見える化」が進み、利用促進につながる、といった事例報告がほしいところですが、それは次の飯野さん(佛教大学)が事例を語ってくれますので、そろそろバトンタッチをしたいと思います。