第189回
お・も・て・な・し

 今年の新語・流行語大賞は4語受賞という、異例の事態になった。それだけ話題になった語が多かったということなのであろう。個人的には「じぇじぇじぇ」を推していたのだが、本命は「お・も・て・な・し」だろう、などと勝手に予想を立ててみるのも楽しかった。「お・も・て・な・し」も「じぇじぇじぇ」も、予想に違わず受賞した。
 「じぇじぇじぇ」については第154回で書いたので、今回は「おもてなし」について書いてみようと思う。「おもてなし」は古くから使われていることばなので、聞いたことがあるという人も大勢いると思うのだが、オリンピック招致の際の滝川クリステルさんの映像は全世界に流れたであろうから、オリンピックが近づくにつれて、外国からのお客さんににどういう語なのかと聞かれることがあるかもしれない。そこで少し語源をおさらいしておこうと思ったのである。
 「おもてなし」の「もてなし」は、動詞「もてなす」の連用形が名詞化したものである。では動詞「もてなす」はどういう語なのかというと、そのように扱う、そのようにするなどの意味の「なす(成)」に、接頭語「もて」がついたものである。接頭語の「もて」は「動詞の上に付いて微妙なニュアンスを与え、または意味を強める」(『日本国語大辞典 第2版』)語で、「もてはやす」「もてさわぐ」などの「もて」と同じである。
 「もてなす」は、元来は、意図的にある態度をとって見せる、なんとか処置をするといった意味であったが、中世以降、手厚く歓待するという意味も生じてくる。
 『日本国語大辞典 第2版』には、その意味の以下のような面白い用例も載っている。
「アルトキ ネヅミノ モトニ カイルヲ マネイテ シュジュノ チンブツヲ ソロエテ motenaita (モテナイタ) トコロデ」(1593年『天草本伊曾保』ネテナボ帝王イソポに御不審の条々)
 原文はすべてローマ字書きで、「伊曾保」とは「イソップ」のことである。つまり「イソップ物語」のことで、この本はイエズス会が宣教師の日本語学習用に編纂した口語訳本である。
 ところで、たとえば英語で「おもてなし」にあたる語は何であろうか。serviceだといささか事務的な感じがしないでもない。だとすると、hospitalityあたりだろうか。だがそれとても、日本人が思っている「おもてなし」の微妙な意味合いは伝わらない気がする。
 国語辞典でも「手厚く歓迎する」といった意味しか記述できないのだが、もちろんもっと深い意味と内容をもったことばであることは間違いなさそうである。

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