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けなす編 第3回

侍をけなす

刺客や女忍者のキャストが発表された「小泉劇場」。そのチャンチャンバラバラを語るときに使えそうな言葉を集めてみました。

  • 1内股侍(うちまたざむらい)内股武士(うちまたぶし)

    「内股膏薬(うちまたごうやく)」、つまり、あっちにくっついたり、こっちにくっついたりしている侍のこと。

    なお、「侍」は、平安時代においては貴族の護衛や警備をする者を、鎌倉時代前期においては馬に乗る身分の武士を意味しましたが、その後語義が広がり、武士一般を呼ぶようになったといいます。江戸幕府の法制度では、侍=旗本で、それ以下の中間などと区別しました。

    浄瑠璃・倭仮名在原系図-二「莫大の祿を蒙りながら、主人に見かへる内股武士」

    現代語に訳すと、「莫大な俸給をもらいながら、主人に見切りをつける内股武士」。党を裏切った人物を罵るとき、これを応用するとよいでしょう。

  • 2膏薬武士(こうやくぶし)膏薬武者(こうやくむしゃ)

    〈内股侍〉に同じ。「膏薬武士」「膏薬武者」ともいいます。効き目のありそうな公約、もとい、膏薬をつくる侍のことではありません。

  • 3田舎(いなか)(さぶらい・さむらい)田舎武士(いなかぶし)

    都会人が田舎出身の粗野な武士をバカにするときに使った言葉。現代でも都会人は地方をバカにする傾向がありますが、選挙となると都会に住むセンセイが急に地方に飛んで行きます。

    浄瑠璃・伽羅先代萩-七「田舎武士と申ものは、面々が勝手ばっかり、モ必お気にさへられて下さりますなへ」

  • 4業平侍(なりひらざむらい)業平武士(なりひらぶし)

    〈田舎侍〉と呼ばれる人が、都会的でハンサムなライバルをけなすときに向く言葉。「業平」は 平安時代の歌人で、「伊勢物語」の主人公とされる在原業平のこと。彼は色男の代表とされますが、同時に、軟弱な男の代表ともされます。

    随筆・三省録-一〇「歴々の者が女童子に気を奪はれて、業平侍になると見えたり」

  • 5海鼠武士(なまこぶし)

    気骨に欠ける、つかみどころがない、など、外見あるいは性格がグニャグニャした感じの武士をナマコにたとえていうもの。現代人はまったく用いない言葉ですが(試しにヤフー・ジャパンで検索をしてみたら、1件もヒットしませんでした)、「小泉劇場」で注目を集めたいなら、このようなユーモラスかつ意味がわかりやすい言葉で誰かを罵るとよいでしょう。

    雑俳・鶯宿梅「藁苞(わらづと)に傾く国やなまこ武士」

    〈海鼠武士〉が賄賂をもらって悪政をなすことを風刺した句。かつて日本では様々な物資が藁にくるまれて運ばれ、「藁苞」で土産物や贈り物を意味する場合もありました。それが転じて、賄賂を「藁苞」と呼ぶようにもなったのです。また、ナマコは藁で束ねると小さくなると伝えられ、「海鼠に藁」ということわざがあります。

  • 6腰抜武士(こしぬけぶし)後思案(あとしあん)

    「腰抜武士」とは、もちろん臆病な武士のこと。臆病な武士はイザというときに役に立たず、事後に無益の思案をめぐらすことを表わしたことわざです。近年からだの部位に関連する言葉は衰退する傾向にありますが、「腰抜」は比較的多くの人に用いられており、「腰抜外交」という近代語も雑誌等でよく用いられます。

  • 7鮟鱇侍(あんごうざむらい)鮟鱇武者(あんごうむしゃ)

    「鮟鱇」は、アンコウ鍋のアンコウ。「あんごう」「あんこ」ともいいます。アンコウは動きが鈍く、口を開けて餌を待つことから、ポカンと口を開けてボンヤリしている者、愚かな者の比喩に用いられました。

    浄瑠璃・最明寺殿百人上臈-含み状「口広いくせに尾の細いをあんごう武者とて、なんの役に立ぬもの。近比笑止笑止」

    この用例では、「口広い」(大口をたたく)くせに、尻つぼみな憶病者を「鮟鱇」にたとえています。

  • 8化粧武士(けしょうぶし)

    この場合の「化粧」は外面を飾ることを意味し、見かけだけの武士にいいます。

    歌舞伎・紋尽五人男-序幕「化粧武士のなまくら刃金、この玄龍の目からは竹篦(たけべら)同然」

    「なまくら」は切れ味の鈍いことを意味し、「鈍」と書きます。なまくら刀をぶらさげている武士や、刀をぶらさげていても使わない臆病な武士を、「なまくら武士」といいます。「小泉劇場」では、論説に鋭さが足りない登場人物を「なまくら」と呼ぶとよいでしょう。

  • 9へろへろ武士(ぶし)・へろへろ武者(むしゃ)

    さまざまな使い方が可能です。

    歌舞伎・四天王産湯玉川-五立「さては源家のへろへろ武士」

    この用例のように人を罵るときに「さては」を使うと、芝居がかった雰囲気を演出できます。日常会話では大仰すぎますが、政治討論会にはよいでしょう。

  • 10蠅侍(はえざむらい)蠅武士(はえぶし)蠅武者(はえむしゃ)

    ハエのように取るに足りない武士のこと。選挙戦で街角を飛び回っている人物を罵るときに向きます。

    開化問答〔1874?75〕〈小川為治〉初・上「世の中の蠅武士(ハヘザムラヒ)の飯を食ひはぐってはならぬと、扶持米にこびり付て居るものとは」

    「開化問答」は文明開化の美点を説くもので、ここでは勤王派と旧来の武士の違いについて語っています。現代においても、飯にたかるハエをどうするかが大問題となっていますが、ハエ同士で議論しているようにも見えます。

  • 11系図侍(けいずざむらい)不包丁(ぶぼうちょう)

    「系図侍」は、血筋が自慢の侍のこと。「不包丁」は、ふつうは料理が下手という意味でいいますが、ここでは肉切り包丁=刀の腕がないことを意味します。
    「小泉劇場」が経営する改革食堂のメニューがなかなか完成しないのは、「系図侍」が多いせいかもしれません。

2005-09-05 公開