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  11. うつほ物語(宇津保物語)

うつほ物語(宇津保物語)

ジャパンナレッジで閲覧できる『うつほ物語(宇津保物語)』の日本古典文学全集・日本大百科全書・改訂新版 世界大百科事典・国史大辞典のサンプルページ

新編 日本古典文学全集
うつほ物語
うつほものがたり
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うつほ物語 全体

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うつほ物語 拡大

【現代語訳】
〔一〕
昔、式部の大輔で左大弁を兼任している清原の王という人がいた。その人は皇女との間に男の子が一人あった。その子の利発なことといったら類がないほどである。父と母は、「まったく、この子は普通の子ではない。これからどうなるのか成長する様子を見てみよう」といって、わざと書物も読ませず、いろいろと教え諭すこともしないで養育したところが、この子は年齢不相応に背丈も高く、心づかいも賢明である。この子が七歳になった年、父が高麗の人と応対していると、この七つの子は父を見習って高麗の人と漢詩を作ってやりとりしたので、そのことを帝がお聞きあそばして、それは普通ではない、じつに珍しいことだ。どれほどの才学なのか、なんとかして試してみたい、とおぼしめすうちに、この子は十二歳になって元服した。帝は、世にも稀な学才の持主だ、年がまだ若いうちに試してみようとおぼしめして、唐の国に三度も留学したことのある明経博士の中臣の門人という学者をお呼び出しになり、むずかしい問題を出させていろいろとお試しになられる。今までもこのような試験をたびたび受けたことのある学生たちで、才能に秀でた男たちが、当惑してしまって、まだ一行の答えも提出できないで

【目次】
目次
古典への招待
凡例

うつほ物語(扉)
俊蔭(扉)
梗概
俊蔭 登場人物と系図
俊蔭 見出し一覧
〔一〕俊蔭の生い立ち その抜群の才能
〔二〕俊蔭、遣唐使となる 父母の悲嘆
〔三〕俊蔭漂流 波斯国から栴檀の林へ
〔四〕俊蔭、斧の声を尋ねてさらに西へ行く
〔五〕俊蔭、阿修羅に出会い、秘琴を得る
〔六〕俊蔭、西の花園で弾琴 天人降下、予言
〔七〕俊蔭、さらに西に行き、七仙人に会う
〔八〕俊蔭、七仙人と弾琴 その音仏の国に達す
〔九〕仏、現じて因果のことわりを示し予言する
〔一〇〕七仙人、俊蔭を送り、琴に名をつける
〔一一〕俊蔭、波斯国まで帰る
〔一二〕俊蔭帰朝 結婚して一女をもうけ官位昇進
〔一三〕俊蔭琴を方方に献上 弾琴奇瑞 勅命拝辞
〔一四〕俊蔭、娘に琴を習わす 人人の求婚を拒否
〔一五〕俊蔭、娘に秘琴のことを遺言して逝去
〔一六〕俊蔭薨後の娘の窮乏生活 嫗よく娘を養う
〔一七〕若小君、賀茂詣での途中、俊蔭の娘を見る
〔一八〕若小君、帰途荒邸に入り、俊蔭の娘と契る
〔一九〕若小君、自らを語り、娘の素姓を尋ねる
〔二〇〕翌朝若小君、去りがたい思いで女の許を辞す
〔二一〕大臣家の騒ぎ 人々若小君を探し出す
〔二二〕若小君、父母の監視下に女を思い悩む
〔二三〕若小君と俊蔭の娘、互いに嘆いて歌を詠む
〔二四〕嫗、俊蔭の娘の懐妊を知り、準備に苦労
〔二五〕俊蔭の娘、男子出産 嫗、喜ぶ
〔二六〕嫗、瑞夢を語り、子の将来を期待する
〔二七〕子の異常な生育 母への孝養に奇瑞生ず
〔二八〕子、食物を求め山に行き、童の助力を得る
〔二九〕熊、子の孝心に感じて杉のうつほを譲る
〔三〇〕母子、熊から譲り受けた杉のうつほに移る
〔三一〕住みよいうつほ生活 母、子に琴を習わす
〔三二〕子七歳、祖父の琴の手をすべて習得する
〔三三〕子十二歳、母子とも美しく、猿に養われる
〔三四〕東国の武士来襲 秘琴の奇瑞で難を免れる
〔三五〕北野の行幸 兼雅、琴の音を尋ねて山に入る
〔三六〕兼雅うつほに至り、子に会って境遇を聞く
〔三七〕兼雅、子に山を出るように勧める
〔三八〕兼雅、待っていた兄たちと山を出る
〔三九〕兼雅、母子を迎える用意をして北山へ行く
〔四〇〕兼雅、昔を語り、山を出るよう説得する
〔四一〕兼雅、母子を三条堀川の邸に迎えとる
〔四二〕兼雅、俊蔭の娘を愛し、子に学芸を習わす
〔四三〕仲忠元服 帝、往時を回想、琴の伝承を問う
〔四四〕仲忠、任侍従 五節の夜、御前で琴を弾く
〔四五〕人々仲忠を婿に望むが、秘かに思う事あり
〔四六〕翌年八月、兼雅邸の相撲の還饗の準備
〔四七〕八月二十二日、兼雅邸の相撲の還饗
〔四八〕正頼、娘を禄として、仲忠に琴を弾かせる
〔四九〕仲忠、仲澄と兄弟の契りを結ぶ
〔五〇〕兼雅と北の方、わが子仲忠の才芸をほめる
〔五一〕正頼、帰邸して妻大宮に仲忠の弾琴を語る
藤原の君(扉)
梗概
藤原の君 登場人物と系図
藤原の君 見出し一覧
〔一〕源正頼の紹介 大臣の娘と女一の宮を娶る
〔二〕正頼の子女たちの紹介 一族の繁栄ぶり
〔三〕源実忠、あて宮に懸想し兵衛の君を語らう
〔四〕藤原兼雅、あて宮に懸想し、祐澄を語らう
〔五〕平中納言あて宮に懸想 兵衛尉に文を託す
〔六〕実忠、兵衛の君を介してあて宮に歌を贈る
〔七〕実忠、なおも兵衛の君に仲介を頼む
〔八〕兼雅、祐澄を介してあて宮に歌を贈る
〔九〕実忠、正明、兵部卿の宮、あて宮に贈歌
〔一〇〕仲澄、同腹の妹あて宮に懸想する
〔一一〕上野の宮、あて宮を望み、入手を画策する
〔一二〕正頼、宮の謀計を知り、偽あて宮を立てる
〔一三〕上野の宮、偽あて宮を奪い取り、喜ぶ
〔一四〕三春高基の紹介 その徹底した吝嗇生活
〔一五〕高基、あて宮を望み、宮内の君を語らう
〔一六〕仲澄、あて宮に歌を贈るが返歌なし
〔一七〕実忠はじめ懸想人たち、あて宮に歌を贈る
〔一八〕良岑行政、唐より帰国して兵衛佐となる
〔一九〕行政、宮あこ君に託してあて宮に歌を贈る
〔二〇〕滋野真菅、あて宮を望み、嫗に仲介を頼む
〔二一〕真菅、長門を介してあて宮に文を届ける
〔二二〕真菅、長門の返事を誤解し、嫗を責める
〔二三〕真菅、更にあて宮の侍女殿守に仲介を頼む
〔二四〕実忠、兵衛の君を介してあて宮に歌を贈る
〔二五〕懸想人たち、恋心を託してあて宮に歌を贈る
〔二六〕真菅、殿守にあて宮のことを催促する
〔二七〕七夕、正頼の娘たち、河原に出て歌を詠む
〔二八〕七月末、懸想人たち、あて宮と歌を贈答
〔二九〕三の宮、仲澄、行政、あて宮に歌を贈る
忠こそ(扉)
梗概
忠こそ 登場人物と系図
忠こそ 見出し一覧
〔一〕橘千蔭の栄達 結婚 一子忠こそ誕生
〔二〕母君、忠こそのことを遺言して逝去
〔三〕故左大臣の北の方、千蔭に懸想し歌を贈る
〔四〕北の方、千蔭の愛を得ようと熱中する
〔五〕忠こそ十歳 北の方財を尽して貧しくなる
〔六〕千蔭、一条北の方を疎んじ、亡妻をしのぶ
〔七〕北の方、忠こそを恨み、奸計をめぐらす
〔八〕博打北の方の意を受け、千蔭の石帯を売る
〔九〕北の方、祐宗を呼び、再び奸計をめぐらす
〔一〇〕祐宗、千蔭に忠こそを讒言するが効なし
〔一一〕忠こそ、父千蔭の不興に煩悶し遁世を志す
〔一二〕忠こそ、出家の願いを鞍馬の山伏に語る
〔一三〕忠こそ琴に歌を残し、梅壺と歌を贈答する
〔一四〕忠こそ出家千蔭、帝に召され奸計を知る
〔一五〕千蔭、北の方を疎み互いに手紙を返却する
〔一六〕千蔭と側近の人々、忠こそを偲び歌を詠む
〔一七〕北の方嘆きの歌を千蔭に贈る 北の方零落
〔一八〕千蔭、小野に隠棲し仏事を営む 千蔭逝去
春日詣(扉)
梗概
春日詣 登場人物と系図
春日詣 見出し一覧
〔一〕源正頼、一族を引き連れ春日社に参詣する
〔二〕春日社頭での盛大な歌会 人々歌を詠む
〔三〕忠こそ、熊野への途中春日神社に立ち寄る
〔四〕正頼、忠こそと昔のことを語る
〔五〕忠こそ、あて宮を見て思慕する 人々帰京
〔六〕東宮をはじめ懸想人たち、あて宮に贈歌
〔七〕兼雅、俊蔭娘とともに新造の桂の邸に行く
〔八〕仲頼、帝の歌を桂に届ける 人々歌を詠む
嵯峨の院(扉)
梗概
嵯峨の院 登場人物と系図
嵯峨の院 見出し一覧
〔一〕仲忠、正頼邸を訪れ、仲澄と語り合う
〔二〕仲忠、孫王の君を介してあて宮に歌を贈る
〔三〕東宮をはじめ懸想人たち、あて宮に贈歌
〔四〕仲澄、あて宮への恋情を八の君に打明ける
〔五〕八の君、仲澄の意中をあて宮に伝える
〔六〕正頼邸の音楽の遊び 三の宮あて宮に贈歌
〔七〕正明、正頼に東宮の花の宴の有様を語る
〔八〕仲澄、花すすきに恋情を託しあて宮に贈歌
〔九〕行政、宮あこ君を介してあて宮に歌を贈る
〔一〇〕正明、兼雅、兵部卿の宮、あて宮に贈歌
〔一一〕仲忠、仲澄と語る あて宮仲忠に心とめる
〔一二〕東宮、詩宴の折に、人々の娘のことを問う
〔一三〕東宮、正頼にあて宮を所望する
〔一四〕正頼、あて宮の将来について妻大宮と語る
〔一五〕仁寿殿女御、正頼邸に退出して大宮と語る
〔一六〕仁寿殿、あて宮の東宮参入を大宮に勧める
〔一七〕十一月、正頼邸の御神楽の準備
〔一八〕神楽の当日兵部卿の宮、大宮と語る
〔一九〕神楽の夜、正頼仲忠の琴を所望 才名のり
〔二〇〕仲忠、仲澄と語り、あて宮の琴をほめる
〔二一〕大宮、嵯峨院大后の六十の賀の準備をする
〔二二〕正頼、御賀の準備を実正、忠俊等に命じる
〔二三〕実正、御賀のため、童たちに舞を習わせる
〔二四〕正頼邸における年末の御読経と御仏名
〔二五〕正明、実正、あて宮に歌を贈る
〔二六〕新年、正頼、賭弓の饗応を大宮に相談する
〔二七〕源仲頼の紹介 仲頼宮内卿忠保の婿になる
〔二八〕賭弓の饗宴に、仲頼あて宮を見て思い悩む
〔二九〕仲頼恋に悩む 妻親元に行き母に諭される
〔三〇〕忠保、仲頼の病因を尋ね、娘を諭す
〔三一〕正頼家の人人、后宮の御賀に嵯峨院へ参る
〔三二〕仲頼、正頼に招かれて病を押して参上する
吹上 上(扉)
梗概
吹上 上 登場人物と系図
吹上 上 見出し一覧
〔一〕神南備種松の富裕 源涼を大切に養育する
〔二〕松方、仲頼に吹上の涼訪問を勧める
〔三〕仲頼、行政を紀伊国訪問に誘う
〔四〕仲頼、桂に仲忠を訪ね、紀伊国訪問に誘う
〔五〕仲頼の出立のために、忠保費用を工面する
〔六〕仲頼、仲忠、行政、松方、吹上を訪問する
〔七〕仲頼、涼の籠居を惜しんで上京を勧める
〔八〕種松、客人たちを饗応する人々歌を詠む
〔九〕仲忠、涼に琴を贈る あて宮の噂話
〔一〇〕人々、林の院に出て花見をし、歌を詠む
〔一一〕人々、上巳の祓に渚の院に出て歌を詠む
〔一二〕藤井の宮の藤の花の宴、人々歌を詠む
〔一三〕人々の帰京に際し、種松豪勢な贈物をする
〔一四〕人々鷹狩を楽しみ、花を惜しんで歌を詠む
〔一五〕三月晦日、人々春を惜しみ歌を詠む
〔一六〕四月一日送別の宴 人々惜別の歌を詠む
〔一七〕四月四日帰京 忠保、人々をもてなす
〔一八〕人々、紀伊国から持参した品を方々に贈る
〔一九〕仲頼、正頼に吹上のことを語り品々を贈る
〔二〇〕行政、仲忠、吹上からの品々を人々に贈る
祭の使(扉)
梗概
祭の使 登場人物と系図
祭の使 見出し一覧
〔一〕祐澄、行政、賀茂祭の勅使として出立する
〔二〕東宮はじめ懸想人たち、あて宮に歌を贈る
〔三〕国々の荘園から五日の節供の料を調達する
〔四〕正頼邸の騎射 右大将兼雅も来邸する
〔五〕帝、行政に命じて正頼邸に引出物を遣わす
〔六〕正頼邸競馬兼雅、正頼、左右の頭となる
〔七〕季明、子息実忠のことを正頼に頼む
〔八〕東宮はじめ懸想人たち、あて宮に歌を贈る
〔九〕六月、正頼、新造の釣殿に人々を招き納涼
〔一〇〕正頼、兼雅の桂殿で神楽の催しを計画する
〔一一〕桂殿の夏神楽 正頼家の女性たちも同行
〔一二〕東宮はじめ懸想人たち、あて宮に歌を贈る
〔一三〕三春高基、宮内の君を招き、あて宮を懇望
〔一四〕滋野真菅、殿守を介しあて宮に代作の贈歌
〔一五〕藤原季英、苦学のかいあって見いだされる
〔一六〕正頼邸の七夕 童たち飾り付けをする
〔一七〕文人たち藤英を笑うが、忠遠これを諫める
〔一八〕藤英、正頼に見いだされ、苦学を賞される
〔一九〕正頼、元則の立派な装束を藤英に与える
〔二〇〕東宮はじめ懸想人たち、あて宮に歌を贈る
〔二一〕仲忠、孫王の君を介してあて宮に歌を贈る
〔二二〕涼、仲澄、実忠、行政、あて宮に歌を贈る
吹上 下 (扉)
梗概
吹上 下 登場人物と系図
吹上 下 見出し一覧
〔一〕仲頼、吹上の有様を院に奏上 御幸の準備
〔二〕九月一日、院吹上に御幸 管絃の遊び
〔三〕九日の菊の宴、吹上で盛大に催される
〔四〕忠こそ来合せる 人々昔を思い歌を詠む
〔五〕神泉苑の紅葉の賀 仲忠、涼、琴を弾く
〔六〕涼、仲忠、秘琴を競弾し、奇瑞起る
〔七〕涼、仲忠四位中将、種松五位紀伊守に任ず
〔八〕院、涼の琴の由来を問う 涼、三条に住む
〔九〕忠こそ真言院の阿闍梨となり、継母を養う
〔一〇〕東宮はじめ懸想人たち、あて宮に歌を贈る

校訂付記
付録
図録
平安京条坊図
平安京大内裏図
平安京内裏図
清涼殿・後涼殿平面図
官位相当表
京都歴史地図
奥付



日本大百科全書
うつほ物語
うつほものがたり

平安時代の物語。題名は首巻の「俊蔭(としかげ)」の巻で、主人公の仲忠(なかただ)が母と杉の洞穴(うつほ)で生活したことによる。従来「宇津保(うつぼ)」と書かれていたが、変体仮名の原漢字を用いたもので、題意からは「うつほ(ウツオ)」がよい。成立時代は円融(えんゆう)朝(969~984)~一条(いちじょう)朝(986~1011)初期で、作者は古くから源順(みなもとのしたごう)とする説があるが未詳。全20巻で、俊蔭、藤原の君、忠(ただ)こそ、嵯峨院(さがのいん)、梅の花笠(はながさ)(一名春日詣(かすがもうで))、吹上(ふきあげ)(上下)、祭(まつり)の使(つかい)、菊(きく)の宴(えん)、あて宮、初秋(はつあき)(一名内侍(ないし)の督(かみ))、田鶴(たづ)の村鳥(むらどり)(一名沖(おき)つ白波(しらなみ))、蔵開(くらびらき)(上中下)、国譲(くにゆずり)(上中下)、楼(ろう)の上(うえ)(上下)の各巻からなる。
内容は構成上2編6部に分けられる。前編第1部は「俊蔭」「藤原の君」「忠こそ」の3巻で、これらはそれぞれ、秘琴伝授の物語、あて宮求婚物語、継子(けいし)出家物語という別の主題をもつ短編読み切り的な性格の巻々で、長編構想が熟す以前の『うつほ物語』の発端として位置づけられる。第2部は「嵯峨院」~「あて宮」の7巻で、この部分は、あて宮への求婚者の増加やその多様な恋愛、凉(すずし)・仲忠の秘琴競弾など、求婚物語が秘琴物語と融合して長編化を遂げつつ物語が展開していく。第3部は「初秋」「田鶴の村鳥」の2巻で、俊蔭女(むすめ)の秘琴弾奏とあて宮入内(じゅだい)後の人々の処遇を描き、前編の構想のいちおうの結末をつけている。後編第1部は「蔵開」3巻で、ここでは帝(みかど)の女一宮(いちのみや)を得た仲忠一家の繁栄とその理想的生活が語られる。第2部は「国譲」3巻で、東宮妃となったあて宮所生の皇子と藤原氏出の梨壺女御(なしつぼのにょうご)腹の皇子との立太子をめぐる政争が生々しく描出されている。第3部は「楼の上」2巻で、俊蔭―俊蔭女―仲忠―犬宮と4代にわたって伝えられた秘琴伝授の物語の大団円として琴の一族の繁栄を語り、はるかに首巻の「俊蔭」と照応して長編『うつほ物語』を終結している。
以上のように、この物語は秘琴伝授の音楽物語を大枠として、前半に求婚物語、後半に立太子争いを織り込んだ構成となっているが、全体としての統一性を欠き叙述も冗漫で、概して素朴稚拙の感は否定できない。しかし、あて宮の求婚者たちの多様な性格づけや、政争の渦中にあって一喜一憂する人々の心理描写などにはみるべきものがあり、また行事、遊宴の細叙や和歌の群作、会話や消息文の多用等々による写実的な特色ある叙述も、この物語が獲得した長編構築の方法として看過できない。物語史上『源氏物語』出現に至る種々の過渡的性格を内在しており、現存最古の長編物語として文学史上高く評価すべき作品である。伝本には室町期にさかのぼる全巻そろいの古写本は現存せず、江戸初期写の尊経閣文庫蔵本(前田家本・古典文庫刊)が最善本とされている。
[中野幸一]


『うつほ物語』[百科マルチメディア]
『うつほ物語』[百科マルチメディア]
前編第1部 「俊蔭(としかげ)」 1691年(元禄4)刊 国立国会図書館所蔵

改訂新版・世界大百科事典
宇津保物語
うつほものがたり

平安中期(10世紀末)の作り物語。作者は古来の源順(みなもとのしたごう)説が有力。〈うつほ〉には〈洞〉〈空穂〉をあてることがある。初巻に見える樹の空洞に基づくもの。

あらすじ

清原俊蔭は王族出の秀才で若年にして遣唐使一行に加わり渡唐の途上,波斯(はし)国に漂着,阿修羅に出会い秘曲と霊琴を授けられて帰国し,それを娘に伝授する。俊蔭の死後,家は零落,娘は藤原兼雅との間に設けた仲忠を伴って山中に入り,大樹の洞で雨露をしのぎ仲忠の孝養とそれに感じた猿の援助によって命をつなぐ。やがて兼雅と再会し,京へ戻る。そのころ左大臣源正頼の美しい娘あて宮は都人の憧れの的となり,仲忠のほか多くの人が求婚するが,結局東宮妃に迎えられる(第1部,〈俊蔭〉~〈沖つ白浪(田鶴の村鳥)〉)。東宮が即位すると,藤壺女御となったあて宮腹の皇子と兼雅女の梨壺女御腹の皇子との間に激しい立太子争いが起こるが,帝の意向によって藤壺の勝利に終わる。しかしこの間の藤壺の心労は並々ではなかった(第2部,〈国譲〉)。仲忠は祖父俊蔭の旧邸跡に新築した豪邸の楼上に籠って娘の犬宮に琴を伝授し,母の俊蔭女もそれに加わる。八月十五夜には嵯峨・朱雀の両院も行幸し,3人の霊琴合奏ににわかに霰が降り星が騒ぎ天地も揺れとどろいた。両院もいたく嘉賞された(第3部,〈楼の上〉)。

特質と問題点

全体の首尾は音楽奇瑞譚でしめくくっているが,その間に求婚譚や立太子争いなどを配し,統一性に欠けることは否めない。その巻序も,有力諸伝本すべて巻三~巻七に〈忠こそ〉〈春日詣(梅の花笠)〉〈嵯峨院〉〈祭の使〉〈吹上(上)〉の順に並んでいるが,このままでは時間の逆行とか事件の因果関係の倒叙が頻出して難解のため,今日ではこれを〈嵯峨院〉〈忠こそ〉〈春日詣〉〈吹上(上)〉〈祭の使〉の順に並べて読むことが多い。しかしそれでもなお記事の重複など問題が多く残っていて,成立事情の複雑さが想像されるのである。その解決のために複数の制作注文主を想定したり,当初本文に付いていた絵がその後失われて絵詞のみが残ったことからくる特徴的な本文形態が指摘されることもある。また一方,その主因を作者の内部に求めて,最初は素朴な古風な求婚譚として〈藤原の君〉から書き始めたものの,さまざまの読者の注文と作者自身の意識の動揺とか発展に伴って,つぎには音楽奇瑞譚としての骨格に着想して〈俊蔭〉巻が書かれ,その間に求婚譚の展開の中から宮廷社会の風俗人情への関心が高じて,立太子争いをめぐるきわめて写実的な表現に足を踏み入れてしまう。しかし最後は再び本道に即して霊琴譚でめでたく終りを結ぶ--という道筋も想定されている。またこの間に古来の伝承をそのままの形で随所に取り込むこともあったらしく,古と新と2種類の文体の混在が問題をさらに複雑化している。

この作品を破綻だらけの失敗作と評することは容易だが,しかしそれまでの《竹取物語》その他短小のほとんどお伽話風の物語群と比較すれば,この作品が当時まさに破天荒な力作であったことも疑いの余地はない。散文的な外的世界への視野の拡大と浪漫的な美と芸術性への憧憬という二方向を極点にまで推し進めたところに,この作品の魅力と謎がある。しかし不幸にもその読者は中世近世を通じてきわめて少なく,伝本もその書写年代が近世初期以前にさかのぼるものは皆無の状態である。
[今井 源衛]

[索引語]
源順 清原俊蔭

国史大辞典
宇津保物語
うつほものがたり
二十巻からなるわが国最初の長編物語。題名は、主人公藤原仲忠が幼時北山の大杉の空洞(うつほ)に住み、猿に養われて育ったという首巻「俊蔭」の話による。作者は、鎌倉時代以来源順を擬する説が多いが、少なくとも身分・教養・思想など多くの面で彼と共通の基盤に立つ者と考えられる。『公任集』の記事によって、物語の前半(第一部)は円融朝末年ごろには成立していたことが知られるが、全編の完結は一条朝初期に及ぶかと推測されるので、全巻同一人の筆になるか否かも問題であり、文体なども勘案すると、数人の手で書き継がれた可能性も大きい。主題や成立事情をも考えて全体の構成を大観すると、第一部「俊蔭」―「沖つ白波」の十二巻、第二部「蔵開」「国譲」各上中下の六巻、第三部「楼の上」上下二巻となる。第一部では、貴宮求婚譚という形式にたよったためもあって、作者の興味はもっぱら外部に拡散し、内的統一に欠けるが、好色風流の伝統的貴族世界以外にも、三春高基・滋野真菅らの反貴族的人物や作者の自画像ともいわれる貧学生藤英などが紹介され、かれらをめぐる環境も活力ある筆で写し出されている。ただし、これは必ずしも現実直写を目ざしたものではなく、源正頼の春日社参、勧学院別当兼帯とか、その長女が仁寿殿女御と呼ばれ、九女貴宮が東宮妃として藤壺を賜わるなど、物語が現実世界に異なることも強調されている。第一部の人間描写が多様ではあってもついに孤立した類型の域を脱しえなかったのに対して、第二部では人間が社会の構造的力動関係において認識され始める。「蔵開」に仲忠一家の完全に充足した理想の生活が語られると、その影響は直ちに妹梨壺の地位の強化となり、ひいては仲忠と結ばれることを拒否して東宮を選んだ貴宮(源氏)方を、政権獲得に一族の全存在意義を賭けざるをえないところに追いこむまでになる。特に「国譲」では、政治という、社会的存在としての人間の問題が集約的に露呈される局面を物語の具体的情況として設定しえたことから、人間存在の総体的認識が著しく深化された。第三部になると主題が音楽の永遠性に移り、人間と自然との根源的同化が理想とされる。琴の秘曲の伝授を語りながら、作者は自然の変易の奥にひそむ造化との冥合を夢み、時空を超えた永遠の相の下に存在の本質を観ようとするのである。このような第二部から第三部への急激な転回は、それをめぐってこの作品の文学的価値や史的意義の評価に大きな対立をもたらすことになった。伝本としては、一、二の零本以外すべて近世以降の欠陥の多い写本であり、十分信頼できる証本は発見されていない。現存本中では前田家本が最も上位に立ち、その祖本から派生したと推定されるものに静嘉堂文庫蔵浜田本の系統がある。他に近世の板本に近い清水浜臣本系統もあるが、本文的にはさらに末流化したものである。なお、九州大学本などの異本系統は近世国学者の合成した本文であって、信用することができない。活字本では『宇津保物語―本文と索引―』(前田家本の翻刻)、『角川文庫』(浜田本を底本に校注)、『校注古典叢書』(前田家本を底本に校注)のものがよい。
[参考文献]
宇津保物語研究会編『宇津保物語新論』、同編『宇津保物語新攷』、同編『宇津保物語論集』、野口元大『古代物語の構造』(『有精堂選書』六)、同『うつほ物語の研究』、河野多麻『うつほ物語伝本の研究』、三苫浩輔『宇津保物語の研究』、石母田正「宇津保物語についての覚書―貴族社会の叙事詩としての―」(『戦後歴史学の思想』所収)
(野口 元大)
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1. 宇津保物語
世界大百科事典
平安中期(10世紀末)の作り物語。作者は古来の源順(みなもとのしたごう)説が有力。〈うつほ〉には〈洞〉〈空穂〉をあてることがある。初巻に見える樹の空洞に基づくも ...
2. うつほものがたり【宇津保物語】
デジタル大辞泉
《「うつぼものがたり」とも》平安中期の物語。20巻。作者未詳。源順(みなもとのしたごう)とする説もある。村上天皇のころから円融天皇のころに成立か。4代にわたる琴 ...
3. うつほものがたり【宇津保物語】
国史大辞典
活字本では『宇津保物語―本文と索引―』(前田家本の翻刻)、『角川文庫』(浜田本を底本に校注)、『校注古典叢書』(前田家本を底本に校注)のものがよい。 [参考文献 ...
4. うつぼものがたり【宇津保物語】
日本国語大辞典
(「うつほものがたり」とも。「うつほ」は空洞の意で仲忠母子が杉の空洞にひそんでいたことにちなむ)平安中期の物語。二〇巻。作者未詳。源順作とする説などがある。十世 ...
5. うつぼものがたり【宇津保物語】
全文全訳古語辞典
[書名]平安中期の物語。作者未詳。一説に源順が作者とも。俊蔭・俊蔭の娘・仲忠・犬宮の四代にわたる琴の名手の家系を中心とした長編物語。『竹取物語』的な伝奇的・空想 ...
6. うつほ物語
日本大百科全書
平安時代の物語。題名は首巻の「俊蔭(としかげ)」の巻で、主人公の仲忠(なかただ)が母と杉の洞穴(うつほ)で生活したことによる。従来「宇津保(うつぼ)」と書かれて ...
7. あい‐いたわ・る[あひいたはる]【相労】
日本国語大辞典
(「あい」は接頭語)【一】〔他ラ四〕目を掛けてやる。ねぎらう。*宇津保物語〔970〜999頃〕沖つ白浪「一日おとどにとり申ししかば『あひいたはらんと思ふ心やある ...
8. あい‐ぎょう[‥ギャウ]【愛敬】
日本国語大辞典
顔かたちが、にこやかでかわいらしいこと。愛らしく、優しい感じがすること。魅力があること。*宇津保物語〔970〜999頃〕楼上上「見奉り給へば、大将の児(ちご)な ...
9. あいぎょう こぼる
日本国語大辞典
顔つき、姿、言動などに愛らしい魅力があふれる。たいへん愛らしく慕わしい。*宇津保物語〔970〜999頃〕楼上上「いとうれしとおぼして笑み給へる、いと花やかに見ま ...
10. あい‐さだ・める[あひ‥]【相定】
日本国語大辞典
あひさだ・む〔他マ下二〕(「あい」は接頭語)(1)互いに相談して決める。相談し合う。*宇津保物語〔970〜999頃〕国譲下「臣下ども御あなすゑにて、やんごとなく ...
11. あい‐し【愛子】
日本国語大辞典
愛子〓」*宇津保物語〔970〜999頃〕俊蔭「父母があいしとして、一生にひとり子なり」*保元物語〔1220頃か〕 ...
12. あい‐つ・ぐ[あひ‥]【相次・相継】
日本国語大辞典
追う。あいつづく。*観智院本三宝絵〔984〕中「其寺いまにあひつきてさかゆる事いまにたえず」*宇津保物語〔970〜999頃〕国譲下「二人は大殿大臣のむすめなり。 ...
13. あいな‐だのめ【─頼】
日本国語大辞典
)むだな期待を人に抱かせること。あてにならないことを頼みにさせること。また、法外な期待。*宇津保物語〔970〜999頃〕国譲上「この三条といふ所は、又きゃうにも ...
14. あい‐ぬすびと[あひ‥]【相盗人】
日本国語大辞典
〔名〕共謀した盗賊同士。ひそかに密事を示し合わせている仲間。*宇津保物語〔970〜999頃〕内侍督「『あはれ、ならはぬ御心ちもおもほさるらん。それをなむ、ただい ...
15. あい‐むか・う[あひむかふ]【相向】
日本国語大辞典
〔自ハ四〕(「あい」は接頭語)互いに向かい合っている。向かい合う。*宇津保物語〔970〜999頃〕俊蔭「汝不孝の子ならば、親にながき嘆きあらせよ。孝の子ならば、 ...
16. あう‐て
日本国語大辞典
〔名〕「あいて(相手)」に同じ。*宇津保物語〔970〜999頃〕内侍督「いで、なにかは、あふてにしなし給はば」 ...
17. あえ なむ
日本国語大辞典
未然形「な」と、推量の助動詞「む」の付いた語)がまんできるだろう。差しつかえないだろう。*宇津保物語〔970〜999頃〕蔵開下「あしかるべくは、よかれと思ふとも ...
18. あえ‐もの[あへ‥]【和物】
日本国語大辞典
反 訓安不一云阿倍毛乃〉擣薑蒜以醋和之」*宇津保物語〔970〜999頃〕あて宮「よきくだ物、酒殿の大御酒など召して、〈略〉あへものにとてなどのた ...
19. あえ‐もの【肖物】
日本国語大辞典
〈略〉わが昔よりようずるを、あえものに、けふばかりつけよと、おほせられてたまへりしかば」*宇津保物語〔970〜999頃〕あて宮「いとうらやましげなる人々にあへも ...
20. あお[アヲ]【襖】
日本国語大辞典
が」(2)(狩襖(かりあお)ともいったため、「狩」が省略されて)狩衣(かりぎぬ)のこと。*宇津保物語〔970〜999頃〕国譲下「中納言は赤色の織物のあを、にびの ...
21. あお・い[あをい]【青】
日本国語大辞典
置きてそ歎く〈額田王〉」*彌勒上生経賛平安初期点〔850頃〕「瑠璃といふは、碧(アヲキ)色なり」*宇津保物語〔970〜999頃〕俊蔭「鳥、けだものだに見えぬ渚に ...
22. あおい‐かつら[あふひ‥]【葵鬘・葵桂】
日本国語大辞典
葵が二葉なので、諸葉草ともいう。雷の災いを免れるまじないともした(日次紀事{1685})。《季・夏》*宇津保物語〔970〜999頃〕楼上下「四月まつりの日、あふ ...
23. あおいろ の 上(うえ)の衣(きぬ)
日本国語大辞典
「あおいろ(青色)の袍(ほう)」に同じ。*宇津保物語〔970〜999頃〕菊の宴「わらは四人あをいろのうへのきぬ、やなぎがさねきたり」*源氏物語〔1001〜14頃 ...
24. あお‐がみ[あを‥]【青紙】
日本国語大辞典
〔名〕(1)薄青に染めた紙。*宇津保物語〔970〜999頃〕あて宮「あをきすきばこにみちのく紙、あをがみなどつみていだし給へり」*内局柱礎抄〔1496〜98〕上 ...
25. あお‐くさ[あを‥]【青草】
日本国語大辞典
訓)「素戔嗚尊、青草(アヲクサ)を結(ゆ)ひ束(つか)ねて、笠(かさ)蓑(みの)と為て」*宇津保物語〔970〜999頃〕国譲下「北方は、あをくさの色になりて、〈 ...
26. あお‐くちば[あを‥]【青朽葉】
日本国語大辞典
また、表は黄みのある薄萠葱(うすもえぎ)、裏は黒みのある青丹(あおに)ともいう(雁衣抄)。*宇津保物語〔970〜999頃〕祭の使「あなたの北の方よりはじめたてま ...
27. あお‐し[アヲ‥]【襖子】
日本国語大辞典
乎之〉」(2)童女の着る汗衫(かざみ)に似た服。狩襖(かりあお)より転じたものであろう。*宇津保物語〔970〜999頃〕春日詣「よき童四人、あをし、あはせの袴、 ...
28. あお‐じ[あを‥]【青瓷】
日本国語大辞典
〔名〕(1)銅を呈色剤とした緑色の釉(うわぐすり)を表面にかけた陶器。緑釉陶器。*宇津保物語〔970〜999頃〕楼上上「檜皮(ひはだ)をばふかで、あをじの濃き薄 ...
29. あお‐つづら[あを‥]【青葛】
日本国語大辞典
かづら〈和名鈔〉予州、あをつづら つづらかづら つづらふぢ」(2)植物「つづらふじ(葛藤)」の異名。*宇津保物語〔970〜999頃〕俊蔭「あおつづらを大なる籠に ...
30. あお‐つゆくさ[あを‥]【青露草】
日本国語大辞典
〔名〕露草のこと。*宇津保物語〔970〜999頃〕国譲下「雑色六人、装束、白きろうのさしぬき、あを露くさしてらうずりに摺りて、白きあやの袿(うちき)」 ...
31. あお‐に[あを‥]【青丹】
日本国語大辞典
表裏ともに、濃い青に黄を加えた色のもの。または、表は赤みの多い茶色で、裏は薄い青色のもの。*宇津保物語〔970〜999頃〕春日詣「装束は、大人は青色の唐衣、〈略 ...
32. あお‐にび[あを‥]【青鈍】
日本国語大辞典
〈花田濃色也。尼など用色と云〉」(2)襲(かさね)の色目の名。表裏ともに、濃いはなだ色。*宇津保物語〔970〜999頃〕蔵開上「四の宮、赤らかなる綾掻練(あやか ...
33. あお‐ばえ[あをばへ]【青蠅】
日本国語大辞典
からだが青黒く、腹に光沢のある大形のものの総称。あおばい。くろばえ。くろるりばえ。《季・夏》*宇津保物語〔970〜999頃〕国譲下「恋ひ悲しび、待ち居て、あをば ...
34. あおみ‐ずり[あをみ‥]【青味摺】
日本国語大辞典
〔名〕衣服の染色の一種。山藍(やまあい)で模様を摺って染めたもの。青く摺り染めにした衣料にもいう。*宇津保物語〔970〜999頃〕菊の宴「御供の人、青丹に柳がさ ...
35. あおみ‐や・す[あをみ‥]【青痩】
日本国語大辞典
〔自サ下二〕顔色などが青くなって、やせ衰える。憔悴(しょうすい)する。青みおとろう。*宇津保物語〔970〜999頃〕祭の使「尻切れの尻の破(や)れたる穿きて、け ...
36. あお・む[あをむ]【青】
日本国語大辞典
アヲ)める玻璃のうつはより初秋きたりきりぎりす鳴く」(2)顔色が青ざめる。血の気が引く。*宇津保物語〔970〜999頃〕蔵開上「すこしあをみ給へれど、いとあてに ...
37. あか・い【赤】
日本国語大辞典
杉天外〉二「二人とも顔を赧(アカ)くしてるのに気が着くと」(2)赤みを帯びた茶色である。*宇津保物語〔970〜999頃〕吹上上「少将にくろかげのむま、たけななき ...
38. あか‐いろ【赤色】
日本国語大辞典
宮記等〕。経は蘇芳(すおう)、緯は紫〔服飾管見等〕。経は紫、緯は赤〔胡曹抄・装束抄等〕。*宇津保物語〔970〜999頃〕国譲下「中納言は、あかいろの織物の襖(あ ...
39. あかき 粥(かゆ)
日本国語大辞典
「あか(赤)の粥(かゆ)」に同じ。*宇津保物語〔970〜999頃〕蔵開上「白き御粥一桶、あかき御かゆ一桶」*御湯殿上日記‐天正九年〔1581〕一一月一八日「なか ...
40. 明石(源氏物語) 235ページ
日本古典文学全集
。良清が以前報告したとおりに。→若紫[1]二〇三ページ。入道の豪勢な生活ぶりは、先例たる『宇津保物語』吹上上巻の神南備種松に比すれば、はるかにつつましく現実的で ...
41. あかし‐か・ねる【明兼】
日本国語大辞典
公鳥(ほととぎす)来鳴く五月の短夜もひとりしぬれば明不得(あかしかねつ)も〈作者未詳〉」*宇津保物語〔970〜999頃〕蔵開下「ちかくてもみぬまもおほくありしか ...
42. あか‐ば・む【赤─】
日本国語大辞典
〔自マ五(四)〕赤みを帯びる。赤らむ。*宇津保物語〔970〜999頃〕蔵開中「柑子を見給へば、あかばみたる色紙に、書きて入れたり」*西洋道中膝栗毛〔1870〜7 ...
43. あか・む【赤】
日本国語大辞典
また、赤茶ける。*日本書紀〔720〕皇極元年五月(図書寮本訓)「熟(アカメル)稲始めて見ゆ」*宇津保物語〔970〜999頃〕嵯峨院「九の君、おもてはあかみて、う ...
44. あから‐か【赤─】
日本国語大辞典
平安初期点〔850頃〕「世尊の唇の色は、光り潤ひ丹(アカラカ)に暉れること頻婆菓の如し」*宇津保物語〔970〜999頃〕国譲下「あからかなる綾かいねりのひとかさ ...
45. あから‐さま
日本国語大辞典
「あからさまにも」の下に打消の語を伴って、「かりそめにも…しない。全く…しない」の意となることもある。*宇津保物語〔970〜999頃〕俊蔭「あからさまの御ともに ...
46. あから〓
日本国語大辞典
懇(アカラシキ)かな、我が大師聊かに何か過失有りて、此の賊難を蒙る〈国会図書館本訓釈 懇 アカラシキ〉」*宇津保物語〔970〜999頃〕吹上下「おもひいづるなん ...
47. あから‐め
日本国語大辞典
(「あからめもせず」の形で用いることが多い)ふと目をほかへそらすこと。わき見をすること。*宇津保物語〔970〜999頃〕蔵開中「宮の御うしろにさぶらふほどに、御 ...
48. あか・る【散・別】
日本国語大辞典
日記〔974頃〕下・天祿三年「『火しめりぬめり』とてあかれぬれば、いりてうちふすほどに」*宇津保物語〔970〜999頃〕俊蔭「いとまたびて、みな十、二十人とあか ...
49. あ‐が‐きみ【吾君】
日本国語大辞典
*万葉集〔8C後〕一九・四一六九「松柏(まつかへ)の 栄えいまさね 尊き安我吉美(アガキミ)〈大伴家持〉」*宇津保物語〔970〜999頃〕菊の宴「あなゆゆしや。 ...
50. あ‐が・く【足掻】
日本国語大辞典
やれといふと心得て、五六町こそあがかせたれ」(2)手足をじたばたする。また、手足を動かしてもがく。*宇津保物語〔970〜999頃〕国譲上「思すやうに、平かにてと ...
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うつほ物語(宇津保物語)(日本古典文学全集・日本大百科全書・改訂新版 世界大百科事典・国史大辞典)
平安時代の物語。題名は首巻の「俊蔭」の巻で、主人公の仲忠が母と杉の洞穴で生活したことによる。従来「宇津保」と書かれていたが、変体仮名の原漢字を用いたもので、題意からは「うつほ(ウツオ)」がよい。成立時代は円融朝(969~984)~
落窪物語(日本古典文学全集・日本大百科全書・世界大百科事典・国史大辞典)
〔一〕今は昔のこと、中納言である人で、姫君を大勢持っていらっしゃった方がおられた。長女や次女の君には婿を迎えて、それぞれ西の対、東の対に派手に住まわせ申しあげなさって、「三女、四女の君には裳着の式をして差し上げよう」と、大事にお世話なさる
唐物語(国史大辞典・世界大百科事典)
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今鏡(日本大百科全書・世界大百科事典)
平安末期の歴史物語。1170年(嘉応2)成立説とそれ以後とする説とがあり、作者は藤原為経(寂超)説が有力。『大鏡』を受けて、1025年(万寿2)から1170年までの歴史を、座談形式を用い、紀伝体で叙述したもの。巻1~3は後一条天皇から高倉天皇までの帝紀、巻4~6は藤原氏
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魯迅 その文学と革命(東洋文庫)
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