知識の泉へ

日本には約5600の博物館(相当施設・類似施設を含む)がある。この中には、いわゆる博物館のほか、美術館、動・植物園、各種資料館なども含まれる。 ここでの活動を一身に引き受けるのが<学芸員>と呼ばれる人たちだ。 彼らは日々、資料の<収集>に奔走し、<保管・整理>に苦慮し、より良い<展示>方法に悩みつつ、そのかたわらで自らの<調査研究>を深化させ、蓄積された情報を人々に発信する<教育活動>を実践している。そんな彼らの八面六臂の働きぶりを紹介しよう。

九十九島水族館「海きらら」

最近水族館に行ったことはありますか? めずらしい魚や海の生物を観察するのもいいのですが、大きな水槽をゆっくり眺めていると、まるで海の中にいるようでリラックスできるところがいいですよね。最近はナイトクルージングよろしく館を暗くして水槽を観察するような演出もあり、気分転換だけでなく、ロマンチックなデートにも最適かも!
「博物館に連れてって!」初の水族館は、2009年7月にリニューアルオープンした「九十九島水族館 海きらら」です。新人学芸員の門脇慧史さんに案内してもらいます。
2010年6月18日

第1回 九十九島という場所

 日々の暮らしの中で、人々は興味のあることには目を向け、興味のないことからは目を逸らしているのではないでしょうか。
 皆さんは、自分の住む町にどのくらいの興味を持っていますか?

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九十九島の島々と佐世保の町(画像クリックで、大画像が見られます)


 私が住む町、佐世保市にはこのような昔話があります。

むかし、むかし、ここには100の島がありました。夜になると島達は集まって遊んでいました。そして、朝になるといつもの場所に戻っていました。
ある日の夜、100の島達はお酒を飲みに出かけました。しかしそこで、ひとつの島が酔い潰れてしまったのです。朝になって、99の島はいつもの場所に戻りましたが、ひとつの島は戻ることができず、その場に取り残されてしまったのです。
このことから、戻ってきた99の島があるこの場所を、九十九島(くじゅうくしま)と呼ぶようになりました。


夕方の九十九島。もう少しで島が動き出す! パノラマでお楽しみください。

 実際、九十九島には208の島があり島の密度が日本一と言われています。
複雑な地形がたくさんあることで、様々な自然環境がいたるところに溢れています。
 島に上陸すれば、鮮やかな緑を目にし、花の香りを感じ、心地よい鳥のさえずりを耳にすることができます。
 海に潜れば、きらきら輝く魚、優雅に泳ぐクラゲ、森林を思わせる海藻を目の当たりにすることができます。
 そして、これらの生き物と生き物がつながっていることを体感できる場所、それが九十九島なのです。
 この九十九島にいる生き物たちは、皆それぞれが面白く、それぞれが主役です。

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九十九島の海を再現した大水槽。きらきら輝く魚たち!!

 これらの生き物たちのつながり、自然のすばらしさを伝えることが、「海きらら」の水族館スタッフ、学芸員としての役割だと考えています。
 「海きらら」とは九十九島の自然をそのまま切り取り、九十九島の生き物に焦点を当てた水族館です。(正式名称:西海国立公園九十九島水族館「海きらら」)

 次回は、いよいよ「海きらら」を紹介します。
 新人学芸員の私の目を通して、九十九島の魅力を少しずつご案内しましょう。
2010年6月25日

第2回 西海国立公園九十九島水族館「海きらら」

 「海きらら」は、九州の最西端に位置する水族館で、西海国立公園の“海”と、九十九島の“海”で、“きらきら”輝いている生き物を展示しています。
 メイン施設の九十九島大水槽には、120種13000匹の生き物が暮らしています。屋外型大水槽なので、晴れの日は直射日光が射し込み生き物をきらきらと輝かせ、雨の日は雨粒で水面に波紋ができ、一味違った気分を味わえます。

 3匹のイルカたちは「海きらら」の人気者。小さな子どもから大人まで、イルカプログラムはいつも大人気です。イルカたちは、それぞれ九十九島にちなんだ名前がついています。
 佐世保市の市花、カノコユリのユリからつけた「リリー」。九十九島の島の数208からつけた「ニーハ」。九十九島の穏やかな波からつけた「ナミ」。この3頭が、九十九島の景色をバックにジャンプします。

リリーがジャンプ!
ジャンプしているのはリリー。後ろに見えるのが九十九島。

 クラゲの展示は、「海きらら」を代表する見どころの一つ。神秘的で、空間に浮遊するようなクラゲの姿に思わず目を奪われます。
 クラゲは、九十九島の海に100種類以上いるといわれています。水面を揺ら揺らと優雅に泳ぎます。また、透明感と独特の存在感があります。

万華鏡水槽
ゆらゆら浮かぶミズクラゲ「万華鏡水槽」

 「生きている化石」と呼ばれている、カブトガニの展示も見逃せません。カブトガニの存在は、自然海岸という手付かずの自然が残してくれた九十九島の宝物です。

カブトガニ
九十九島の宝、干潟の住人「カブトガニ」

 「海きらら」では、九十九島の自然をそのまま切り取った水槽で、九十九島で暮らしている生き物それぞれに焦点を当てています。
 小さくても、大きくても、九十九島の生き物たちはそれぞれが皆主役です。だからこそ、当水族館のスタッフは九十九島の調査・研究を忘れず、それを展示という形にして表現しているのです。

 国語辞書によると“学芸員”とは、“博物館などに勤務して、資料の整理・調査・研究・解説を行っている人。”とのこと。何歳になっても、色々なことを学び、理解を深めることを追求していきたいものです。

 次回(最終回)は、当水族館の大水槽で雄姿を見せてくれた、謎の多い深海魚「リュウグウノツカイ」を映像とともに紹介します。
2010年7月02日

第3回 謎の深海魚、リュウグウノツカイの雄姿

 平成22年1月9日、長崎県平戸市の漁師の方から当水族館に電話がかかってきました。
「こいまでに見たこともなか大きか魚ば定置網で捕まえたばい!今、船の池間1で生かしとるけん取りにこんね?」
「分かりました!すぐに行きます!」
 当水族館には、このようなありがたい電話がよくかかってきます。そして、私たち水族館スタッフはその度に目を輝かせながらトラックを走らせます。当水族館は地元の力によって大きく支えられているのです。

 船の池間には、体長約4メートルの魚が銀白色の体を輝かせ、赤色の背びれを波打たせていました。この魚の名前の由来には様々な説がありますが、その奇妙な容姿が「竜宮城の使者」を思わせることからこの名前がついたと言われています。名前を、“リュウグウノツカイ”といいます。生態や分布に不明な点が多く謎の深海魚と言われています。

 できるだけ傷つけないように、大事に生物運搬用水槽に入れトラックで運びます。水族館に着いてから水槽をのぞいてみると、リュウグウノツカイは赤色の背びれを波打たせ続けています。私たちは、この謎の深海魚を大水槽へ移すことにしました。
 リュウグウノツカイは、頭部を水面に、尾部を水底に向け、体を斜めにし、背びれを波打たたせた状態で、浮力を得ているように見えました。また、時折体を左右にくねらせ前進しているようにも見えました。



 私が知る限り、水族館などでリュウグウノツカイの遊泳をさせた施設はないようです。この映像は、間違いなく貴重なものでしょう。
 私は、リュウグウノツカイを通して皆さんに今よりさらに身近な生き物たちに目を向けてもらいたいと思っています。
 そして、これらの不思議を少しずつ解明し、皆さんに紹介しようと努力することは、学芸員の使命です。皆さんの、興味や関心を探求する場として、「海きらら」はこれからも存在していきたいと考えています。

リュウグウノツカイ
体長4メートル! リュウグウノツカイの標本。海きららで展示中!!

 皆さんが住む町についても、周りを見回して、どのようなことでもよいので興味を持ってみてください。きっと、素敵な発見があることでしょう。

脚注

    1. 船に備え付けられた生簀(いけす)。

DATA

●所在地
〒858-0922
長崎県佐世保市鹿子前町1008番地
・TEL 0956-28-4187
・FAX 0956-28-4107

●開館時間
・3月~10月 9:00~18:00
(最終入館 17:30)
・11月~2月 9:00~17:00
(最終入館 16:30)

●休館日
・なし(年中無休)

●入館料
大人1,400円
4歳~小、中学生700円
3歳以下無料
団体料金等詳しくはこちら>

●URL
 http://www.pearlsea.jp/umikirara/