本書『コンパスローズ英和辞典』は,おかげさまでご好評を頂き定評のある『ユニオン英和辞典』『ライトハウス英和辞典』『カレッジライトハウス英和辞典』『ルミナス英和辞典』の流れを受け継ぎ,この度新たに企画された新しい上級者用英和辞典である.これら既刊の辞書に共通して見られる代表的な特色としては「引きやすい」「見やすい」「分かりやすい」というフレンドリーな特徴がある.これらは利用者にとっては欠かせない,非常に重要な要素であり,それが三拍子そろっているというのが前掲の一連の辞書の大きな特長であった.本書もその例外ではありえず,これらの三大特長をさらにいっそう強化する形で制作を進めた.このことは,本書を実際に手に取ってご覧頂ければ,ご納得が得られるものと確信する.
昨今はスマホを使ったウェブ辞書や電子辞書など「デジタル系」の辞書が活用されることが当たり前のことになった.ついつい手軽さ・見かけ上の便利さに惹かれてそちらに手が伸びてしまうことになるが,紙の辞書には捨てがたい良さがある.その良さに改めて気づいて目を向けて頂きたいと心から強く願い,本書を世に送るものである.その有用さは使った者でないとなかなか実感できないものであり,ぜひとも実際に活用して頂きたいと願っている.
本書の制作過程において最も力を入れたもののひとつは語義記述である.辞書の利用者は,つづりを確認する,発音を調べる,語法を確認するなど様々な目的で辞書を引く.なかでも,意味を求めて辞書を引くというのが辞書に当る最大の理由であることは既によく知られている.そのような理由から,語義をどのように提示して学習者の便を図るかが最大の課題であると考え,最も腐心したところである.語義をひとつひとつ覚えていくことも悪いことではない.しかしながら,これが決して容易な作業でないことは多くの学習者が経験上身をもってよくわかっていることではなかろうか.学習上重要な基本語を中心に,ひとつのイメージを膨らませることによって多義語と称される,複数の語義を有する語の意味を習得しやすくするよう最大限心を砕いた.言うまでもないが,語の意味を記述することが辞書のすべてではない.従って,これまで同様,語法・文法の説明,用例の適格さ,語の結びつき,それらすべての提示の仕方などにも種々の工夫を凝らしてある.ぜひ実際に本書を活用することで,その有用性,利便性を体感して頂きたい.そして納得をして頂きたいと思う.
具体的にどのような工夫がなされているか,そのいくつかに触れておきたい.本書での新たな試みは,主に以下のようなものである.
英語圏のメディア,コーパス,辞典などを参照して,見出し語には時代の変化や最新の世界情勢を反映するよう心掛けた.dashcam,singularit.などのテクノロジー用語,Zika viru.などの科学用語,post-truth,Rohingy.といった世界情勢に関わる語句,fast fashion,Instagrammabl.など世相を映す表現などがその一例である.
辞書の「訳語」などを基に実際に英語を使ってみるが,それがネイティブスピーカーの感覚とずれてしまうような経験は誰しもあるだろう.また,重要語ほど多義的に使われるが,その意味をひとつひとつ覚えていくことは学習者にとって大きな壁となる.英語話者にしても,個々の語義を網羅的に記憶しているわけではなく,むしろ,ひとつの「語感」を基に語を理解し,運用している.そこで,ネイティブが持っているような基本の感覚とその拡張のしかたを「イメージ」として把握することをこの辞書では試みた.
具体的には,基本の「コアイメージ」と拡張された「派生イメージ」を関連づけて図式化し,単語を一元的に理解できるよう工夫した.同時に,それぞれのイメージに語義番号を対応させることで,項目のインデックスとしても使えるよう工夫した.
少しでもネイティブの感覚に近づき,ライティングやスピーキングにまで応用がきくような学習の一助となることを期待している.
「イメージ」だけでなく,語誌的観点が多義語の理解に役立つ場合もある.項目によっては,語源を考慮しつつ,複数の意味のつながり方をマッピングして,語の全体像を一望できるようにした.
使用頻度の高いコロケーションを取り上げるのはもちろんだが,さらには,日本人には思いつきにくい,英語らしい発想のコロケーションを識別して,英語学習の一助となるよう工夫した.
文法的に正しい文を話す・書くことが重要であるのは言うまでもないが,現実のコミュニケーションでは,状況,場面,さらには相手との関係に応じて適切に英語を使うことが求められる.そのような「適切さ」を判断するためのポイントを解説した.
本辞典の編集に当たっては,別掲の編集委員,執筆者,校閲者,資料提供者の方々のご協力をいただいた.特に「語のイメージ」については大西泰斗先生とポール・マクベイ先生のアイデアに基づいてその監修を仰ぎ,木内修先生,三澤秀徳先生にご執筆いただいた.さらに,発音の執筆・校閲では清水あつ子先生,語誌的観点を取り入れた語義のマッピングには三浦あゆみ先生,コロケーションの分類の見直しには井上亜依先生,ポライトネスの解説は清水崇文先生,巻末文法の執筆では輿石哲哉先生,TOEIC®テストの頻度表示については小野聖次郎先生にたいへんお世話になった.また,研究社辞書編集部では中川京子氏,鈴木美和氏,青木奈都美氏,星野龍氏に非常にお世話になった.ここに心から感謝の意を表する.
利用者本位で企画された本書は,多くの人に活用されて初めて存在価値を持つ.読者のご教示とご支援を切にお願いする次第である.