岩波数学辞典は1954年の初版の刊行以来,1960年増訂版,1968年第2版,1985年第3版と増補,改訂を加えながら世に送り出されてきた.第3版の刊行以来20年を超える年月の間に数学の進歩は著しく,数学諸分野相互の間の連携が深まっているだけでなく,他分野の科学や社会の諸問題にも数学が有効に用いられる度合いが増してきている.一方,第3版に掲載されていない事項や,第3版の記述では不十分な箇所も数多く目立つようになってきている.このような状況の下に,日本数学会は第3版を改訂し,第4版として新しい装いの数学辞典を世に出すことになった.
以下,改訂の主要な点を列挙する.
(1) 規模について.項目数は515,第3版の450より大幅の増加になった.本文のページ数は1680,第3版の1347ページより約25%増である.部門は第3版の21部門より2部門増え23部門になった.新しい部門は応用解析部門である.また,第3版の計算機数学,組合せ理論部門が離散数学,組合せ理論部門と情報科学における数学部門の2部門に分かれた.なお,第3版の集合,位相,圏部門,群論部門,ユークリッド幾何学,射影幾何学部門,微分方程式,積分方程式,関数方程式部門,計画数学部門,力学,理論物理学部門はそれぞれ集合,位相部門,群と表現論部門,幾何学部門,微分方程式部門,最適化理論部門,力学,物理学部門に部門名を変えた.付録(公式,数表)の改訂部分は多くない.公式ではいくつかの事項の追加があった.数表の改訂については数表の最後の注記に述べてある.
(2) 項目の配列,本文の構成(節や引用など)は第3版に準じた.第3版と同名の項目では改訂の度合いに濃淡があるが,参考文献についてはすべて見直しを行い,できるだけ入手しやすいものを選ぶように努めた.項目の欧文名では,第3版にあったロシア語は掲載しないことにした.
(3) 索引について.索引の構成も第3版に準じた.ただし,第3版にあった欧字先頭和文索引は和文索引の中に取り込んだ.和文索引では,いわゆる複式索引(例えば,“ゲーデルの不完全性定理”は“ゲーデル”と“不完全性定理”との2箇所で検出できる)を第3版より多くした.しかし,ページ数の制限のため,当初の計画ほど完全なものにできなかった.人名索引では生没年の記載を廃止した.新しい人名が増え,対応する調査能力に限界があったためである.
(4) CD-ROMについて.新しい試みとして,CD-ROMを辞典本体に添付することにした.内容は,第4版のほぼ全部と第3版の本文および付録数表の一部のPDFファイルである.電子化による使用の便宜を考慮するとともに,第3版からの継続と変化をみる手がかりに供することを意図したものである.
つぎに,第4版の編集経過を略述する.
日本数学会では,数学辞典第3版の改訂の検討を1990年代の後半から始めた.結論に到達するには数年を要したが,2000年に至って,実行のための委員会としてコア委員会と渉外委員会が発足した.コア委員会は編集委員会の仕事の内容や構成を検討するためのものであり,渉外委員会は岩波書店との交渉に当たるためのものであった.コア委員会の提案に基づき理事会が任命した常任編集委員からなる常任編集委員会が2001年7月に正式に発足し,編集委員長として私が全般的なとりまとめを行うことになった.常任編集委員会は同年9月会議を開き,部門の決定をし,コア委員会の方針に沿って,各部門3名の専門編集委員の推薦を関連分科会に依頼することになった.同時に部門ごとに項目の選定の作業にはいった.2002年初めには,部門と項目の最終的な編成も終わり,専門編集委員もほとんど決定し,3月に合同の委員会を開いた.そこで,部門ごとに執筆者の選定にはいることを確認し,6月から漸く執筆依頼を始めることになった.執筆者数は第3版の2倍を超える433名に及んだ.これらの方々のお名前は旧版の執筆者のお名前とともに別記して感謝の意を表したい.
以下に常任編集委員の名を担当部門名とともに記す.
青本和彦(特殊関数),井川満(解析学;関数解析学;微分方程式;数値解析;応用解析),大島利雄(群と表現論;複素解析学),儀我美一(集合,位相;解析学;関数解析学;微分方程式;数値解析;応用解析;力学,物理学),楠岡成雄(確率論;統計数学),斎藤恭司(群と表現論;複素解析学),酒井隆(幾何学),佐藤雅彦(数学基礎論,数理論理学;離散数学,組合せ論;情報科学における数学),砂田利一(幾何学;微分幾何学),土屋昭博(位相幾何学;力学,物理学),深谷賢治(幾何学;微分幾何学;位相幾何学),松本幸夫(集合,位相;位相幾何学),三井斌友(数値解析;離散数学,組合せ論;情報科学における数学;最適化理論),森重文(代数学;代数幾何学),森田康夫(集合,位相;代数学;整数論),服部晶夫(数学史).
専門編集委員は部門ごとに次の方々である.部門によっては数学会以外から参加をお願いした方々がある.特に記してお礼を申し上げたい.
(数学基礎論,数理論理学)小野寛晰,田中一之,坪井明人,(集合,位相)磯崎洋,江田勝哉,太田雅己,小山晃,(代数学)佐藤文広,山形邦夫,渡辺敬一,(整数論)伊吹山知義,北岡良之,斎藤毅,(群と表現論)野村隆昭,原田耕一郎,堀田良之,寺田至,(代数幾何学)藤田隆夫,宮岡洋一,向井茂,(幾何学)剱持勝衛,(微分幾何学)大仁田義裕,小林亮一,宮岡礼子,山口佳三,(位相幾何学)河野明,松元重則,森田茂之,(解析学)新井仁之,金子晃,八木厚志,(複素解析学)大沢健夫,柴雅和,満渕俊樹,(関数解析学)内山充,幸崎秀樹,望月清,(微分方程式)岡本和夫,加藤順二,藤原大輔,(数値解析)杉原正顯,田端正久,中尾充宏,(応用解析)岡本久,堤誉志雄,増田久弥,(確率論)重川一郎,谷口説男,盛田健彦,(統計数学)江口真透,小西貞則,竹村彰通,吉田朋広,(離散数学,組合せ論)根上生也,斎藤明,(情報科学における数学)今井浩,渡辺治,(最適化理論)今野浩,室田一雄,(力学,物理学)津田一郎,三輪哲二,吉田善章,(数学史)小川束,斎藤憲,高瀬正仁.
原稿の整理に当たって,点検委員,校正委員,索引委員の方々に負うところが多かった.点検委員は原稿の段階で,校正委員は初校刷りの段階で種々の細かい点に目を通すことを役目とし,索引委員の役目は,人名の同定,索引で必要な用語の説明をつけるなどであった.細かい仕事にもかかわらずご尽力いただいたことに,感謝の意を表したい.索引の全部門を通しての調整は服部が行った.
点検委員は次の方々である.
(代数関係)落合理,加藤周,川北真之,高木俊輔,(幾何関係)河澄響矢,林修平,吉川謙一,(解析関係)下村明洋,滝本和広,戸松玲治,野村祐司,宮本安人,(その他)亀井聡,玉江伸成,増田弘毅.
校正委員と索引委員は兼任された方が多いので,まとめて記す.
(数学基礎論,数理論理学)佐藤雅彦,田中一之,(集合,位相)江田勝哉,横井勝弥,(代数学)志甫淳,橋本光靖,田口雄一郎,(整数論)志甫淳,田口雄一郎,(群と表現論)松本久義,(代数幾何学)小林正典,(幾何学)塚本千秋,(微分幾何学)今野宏,守屋克洋,(位相幾何学)山田裕一,(解析学)久保田幸次,立澤一哉,(複素解析学)谷口雅彦,上田哲生,(関数解析学)荒木不二洋,村松寿延,(微分方程式)浅倉史興,加藤順二,草野尚,高野恭一,田辺広城,(特殊関数)青本和彦,(数値解析)木村正人,緒方秀教,(応用解析)井口達雄,石毛和弘,川下美潮,(確率論)日野正訓,(統計数学)内田雅之,増田弘毅,(離散数学,組合せ論)斎藤明,(情報科学における数学)戸田誠之助,松本眞,渡辺治,(最適化理論)塩浦昭義,(力学,物理学)蔵本由紀,荒木不二洋,加藤晃史.
上記以外に,高橋礼司氏には項目見出しのフランス語,ドイツ語に目を通していただいた.また,笹森恵氏には文献欄の点検に力を貸していただいた.ご協力に感謝の意を表したい.また,第3版の公式その他の誤りを指摘してくださった方々も少なくない.ここに記してお礼を申し上げたい.
辞典全体の統一のために,編集委員会の一存でもとの原稿に筆を加えた場合がある.その責任はすべて私が負い,執筆者の方に深くお詫びするものである.
今回の改訂に当たっては,原稿はほとんど\(\TeX{}\)によって書かれ,最終的にすべての原稿は数学辞典専用のホームページに掲載され,編集委員による修正はウェブ上で行われた.また,種々の通信はほとんどe-mailを通して行われた.岩波書店では辞典編集部の千葉克彦氏が実質的にひとりで編集業務を背負ってくださった.5年以上に及ぶ千葉氏の貢献に心から謝意を表したい.
2006年11月
服部晶夫
※ジャパンナレッジ版ではCD-ROMならびに第3版のデータは搭載しておりません.
岩波数学辞典は1954年に初版,1960年に増訂版が刊行されたが,1968年には第2版として全面改訂され,今日まで17年の長きに亘って命脈を保ってきた.第2版はアメリカのMIT Pressから英訳版が刊行され,国際的にも名著として定評を得た.この間に数学は著しく進歩し,数学諸分野相互の関連がますます深まり,有機的総合体としての数学が形成されつつある.また数学に関連する諸科学においても高度の数学理論が用いられ,科学の基礎としての数学への期待が高まっている.このような状況に対応するため,第2版にさらに改訂を加え,第3版として世に送ることになった.この英訳版もMIT Pressから近く発刊される予定である.
改訂の主要な点は,つぎのとおりである.
(1) 規模について.項目数は450で,第2版の436よりやや多いにすぎないが,最近の数学の長足の進歩に応じて旧項目を整理統合し,多数の新項目を加えた.そのため内容的には第2版よりはるかに多くなり,読みやすくするための工夫もあって本文のぺージ数は第2版に比して50%増となった.なお,計算機数学の部門を数値解析の部門から独立させ,21部門とした.
(2) 項目の配列について.第2版では各項目の見出しをローマ字で表示し,アルファベット順に配列したが,第3版ではこれを改め,五十音順による項目番号をつけて配列した.各項目には部門内項目番号も付記した.
(3) 本文について.各項目の節には番号\(\mathrm{A}, \mathrm{B}, \mathrm{C},\cdots\)を付し,冒頭の節ではその項目の概説として入門的,一般的説明を与え,叙述に当っては数学諸分野の関連に留意するように努めた.ほとんど書き替えの必要のない項目についても,参考文献は読者の入手しやすいものに改めた.
(4) 付録について.本文の叙述に照応して書き替えまたは追加を行ない,関数電卓などで容易に計算できる数表は削除した.
(5) 索引について.索引の配列は項目と同様に,和文術語については五十音順に改めた.ただし欧字から始まる和文術語は,検索を容易にするため欧字先頭和文索引として独立して掲げた.索引語の抽出箇所の表示は,項目番号と節番号で示すことにした.
つぎに,第3版の編集経過を略述する.
数学辞典旧版の編集の総括に当られた彌永昌吉先生,河田敬義氏の発案に基づいて,日本数学会で第3版編集が企画されたのは1978年の夏であった.当時の日本数学会の決議により,彌永先生,河田氏をはじめ,小平邦彦,溝畑茂,田村一郎,岩堀長慶,木村俊房の諸氏と私が編集委員となって編集の基本方針を定めた.また各部門の編集はそれぞれ専門編集委員に委嘱し,全般的なとりまとめは私が当ることになった.
部門名と,各部門に深く関与した専門編集委員は,つぎのとおりである.
I.数学基礎論,数理論理学 前原昭二;II.集合,位相,圏 前原昭二,小松彦三郎,永田雅宜;III.代数学 永田雅宜;IV.群論 岩堀長慶;V.整数論 三井孝美;VI.ユークリッド幾何学,射影幾何学 田村一郎;VII.微分幾何学 小畠守生,飯高茂,田村一郎;VIII.代数幾何学 飯高茂;IX.位相幾何学 田村一郎;X.解析学 溝畑茂,伊藤清;XI.複素解析学 楠幸男,飯高茂;XII.関数解析学 小松彦三郎;XIII.微分方程式,積分方程式,関数方程式 木村俊房,溝畑茂;XIV.特殊関数 一松信;XV.数値解析 山口昌哉;XVI.計算機数学,組合せ理論 一松信;XVI.確率論 伊藤清;XVIII.統計数学 竹内啓;XIX.計画数学 古屋茂;XX.力学,理論物理学 荒木不二洋;XXI.数学史 彌永昌吉;付録 一松信.
編集を始めるに当っては,何度も編集委員会を開き,専門編集委員も2回集まり,また専門編集委員はその担当部門の専門家と会合して,項目選定の作業を行なった.とくに,変貌の著しい微分幾何学,関数解析学,確率論,応用数学の各部門などでは,多くの書き替えや新項目の追加の要望が専門編集委員より出された.このため,旧項目の整理統合を行ない,新項目を加えても一冊の辞典に納まるように項目を選定することとした.
1980年春に漸く項目と執筆者とを決定し,199名の方々に原稿の執筆をお願いした.これらの方々のお名前は,旧版執筆者のお名前とともに別記して感謝の意を表したい.
1982年夏以降,全般的な原稿整理を行ない,項目間の照合および校正に関して,つぎの諸氏のお世話になった.そのなみなみならぬ御尽力に対し,深く感謝するものである.
本橋信義(基礎論,集合論),横沼健雄(代数学,群論),三井孝美(整数論),川崎徹郎(幾何学,位相幾何学),飯高茂,若林功(代数幾何学),小畠守生,荻上紘一,小林治(微分幾何学),伊藤清三,岡本久(解析学),相川弘明,大津賀信(複素解析学),小松彦三郎,宮地晶彦(関数解析学),岡本和夫,藤原大輔(微分方程式),一松信(特殊関数),牛島照夫(数値解析),和田秀男(計算機数学),岡部靖憲(確率論),藤井光昭,矢島美寛(統計数学),古屋茂(計画数学),中村孔一(理論物理学),岡本周一(数学史),奥津杲作(数学史,整数論).
なお,辞典全体の統一のために原稿を少しく修正する必要が生じたとき,執筆者の方々に御相談をする時間的余裕がなく,やむを得ず筆を加えた場合もある.その責任はすべて私が負い,ここに深くお詫びする次第である.
索引については,横沼健雄,矢野公一,相川弘明,岡本久の4氏には校了になるまで2年にわたって全般的にお世話になった.人名索引については,基礎的な調査は東京大学の方々に御尽力いただき,伊藤清三氏にそのとりまとめをお願いした.また,池田信行,荒木不二洋氏をはじめ,各大学の資料を用いて多くの方々に調査に加わっていただいた.これらの方々の御協力に厚く御礼を申し上げたい.
完成間近の今8月,諸般の事情により暫く日本を離れることになり,最終段階での編集の任務を飯高茂氏に託さざるを得なかった.快く引き受けて下さり,時間的に逼迫した状況のもとで完成まで力を尽くされた飯高氏に,心からの感謝を捧げたい.
岩波書店辞典部の方々には,企画以来終始一方ならぬお世話になった.とくに佐々木幾太郎,牛田裕大,上武和彦,佐藤永生の諸氏は,本辞典を整ったものとするため幾多の工夫と努力を重ねられた.また,複雑な数式も含めた本文すべてをコンピューターで組版し,索引の編集に当っても惜しみない協力をして下さった大日本印刷の方々にも,併せて厚く御礼を申し述べる.
1985年10月
伊藤 清
岩波数学辞典増訂版が世に出てから,7年半の歳月を経て,ここに第2版が発刊されることとなった.この辞典は‘全数学をなるべく透徹した1つの体系の下に収め’ようとの意図で編まれた中項目主義の辞典であって‘数学およびその応用各分野の重要な術語にそれぞれ明確なる定義を与え,歴史的背景の下に各部門研究の現状を知らしめ,将来への展望をも与えようと試み’たものであることは,第1版序でも述べたところである.学問が日に日に進み,‘各部門研究の現状’が刻々変化しつつある情勢に即応するため,この第2版が編集されたのである.
改訂の主要な点はつぎのとおりである.
(1) 項目および規模について.第1版の項目のうち,重要度を減じてきたもの(例:3角形幾何学など)を取り除き,近時重要度を加えつつある事項(例:圏と関手,\(K\)理論など)を新項目として追加した.第1版では,応用数学関係のものなどに小項目が多かったが,それらは中項目に統合し,紙面の節約と記述の体系化を図った.そのため,項目数は,第1版の593に対し,この版では436となっている.全体の規模はなるべく変えない方針をとったが,内容の増加充実に伴い,第1版増訂版685ぺージに対し,約30%増加して885ぺージとなった.
(2) 本文について.項目名は第1版のままである場合にも,全般的に説明を書き改めたのが大部分である.基本的な項目の説明はとくにていねいにした.各項目名には,従来の英,仏,独訳に加えて,露訳をも添え,項目末の参考文献は現時点に即するものに改めた.
(3) 術語について.全巻の術語を統一し,cross-reference上,遺憾のないようにすることは,第1版でも心掛けたことであったが,なお不備な点があった.第2版ではこの点にとくに注意し万全を期したつもりである.
(4) 付録について.付録は本文との一体化を図り,重複を避けるとともに,相互の引用により双方の説明が充実されるようにした.公式では,解析幾何学などに関する初等的なものを除き,位相幾何学,確率,統計関係のものなどを補った.数表では,他書に容易に見られる統計分布表を除き,有限群の群指標などを追加した.
(5) 索引について.和文索引は,第1版では50音順に排列されていたが,第2版では本文と同じくローマ字アルファベット順とした.また主要な術語については検索を容易にするため,重複して掲出したものもある.(例えば‘超越特異点’は‘超越’と‘特異点’との2個所で検出できるようにした.) 人名索引は,第2版では参考文献中の人名をも収録した.この結果,和文索引事項数は8254から17740に,欧文索引事項数は8070から10124に,人名は1279から2438に増大した.
つぎに,第2版の編集の経過を略述する.
項目選定に着手したのは,1964年春であった.項目選定をお願いしたのは,集合論,数学基礎論関係では前原昭二;代数学,整数論関係では秋月康夫,河田敬義;微分幾何学,Lie群論,位相幾何学関係では松島与三,小松醇郎;解析方面では福原満洲雄,吉田耕作,亀谷俊司,一松信;確率,統計,計画数学方面では伊藤清,工藤弘吉,古屋茂;理論物理学方面では今井功;付録は一松信の諸氏である.私も歴史,人名および幾何学関係をお手伝いした.全般のとりまとめには,河田敬義,一松信両氏が当たられることとなった.
1964年夏,項目選定を終え,173名の方々に原稿執筆をお願いした.これらの方々のお名前は第1版御執筆の方々のお名前とともに別記して感謝の意を表明したい.
部門別の項目選定および原稿調整については,上記の方々の他に赤摂也,岩村聯(数学基礎論,集合論),永田雅宜,服部昭,松村英之,佐武一郎,竜沢周雄(代数学,整数論),村上信吾,尾関英樹,田中昇,森田紀一,戸田宏,中岡稔,菅原正博,荒木捷朗(幾何学,Lie群論,位相幾何学),能代清,小松勇作,伊藤清三,藤田宏,黒田成俊,溝畑茂,山口昌哉,斎藤利弥,木村俊房,岩野正宏(解析学),確率論セミナー(池田信行ほか),丘本正,森本治樹,竹内啓,石井吾郎,草間時武,二階堂副包,北川敏男(確率,統計,計画数学),久保亮五,宮沢弘成,古在由秀(理論物理学)の諸氏のお世話になった.
1965年夏以降,全般的な原稿整理の段階では,上記の方々のほか,つぎの諸氏にお世話になった:山崎圭次郎,伊原信一郎,近藤武(代数学),長野正,杉浦光夫,田村一郎,片瀬潔(幾何学),吹田信之,及川廣太郎,笠原乾吉,村松寿延,小松彦三郎,吉田節三,田中洋(解析学),村田全(歴史,人名).なおロシア語については千葉克裕,索引については公田蔵,片瀬潔の諸氏を煩わし,1966年春以降,校正刷が出るようになってからはさらに,関野薫,公田蔵,藤崎リエ子,片瀬潔,牛島照夫の諸氏にお世話になった.日本数学会側で編集事務を終始担当された遠藤洋子氏には,参考文献の調査,人名索引の調査,整理などにも大へんお骨折をいただいた.
第1版および増訂版では,私が全般的なとりまとめに当たったが,この第2版でその仕事を引き継がれたのは河田敬義氏であった.また一松信氏は終始協力され,とくに付録は同氏に負うところが多い.再校,3校および索引については河田氏が,4校および索引は一松氏が全体を通じて見られた.
この版の序は私が書かせていただくことになったが,前回までの経験で,辞典編集の労苦を味わっただけに,とくに河田氏の労を謝したい.終始協力された岩波書店辞典部の方々とくに堀江弘,美坂哲男,小林茂樹,国府田利男の諸氏,および大日本印刷,写真植字機研究所の方々にも心からの謝意を申し述べたい.
1968年3月
彌永昌吉
岩波数学辞典が世に出てから,すでに6年ばかりの年月を経た.その間に進歩した学問の成果を採り入れて,このたび増訂版が刊行されることとなった.この版では第1版に見られた誤りを正し,かつ93ぺージの増補を巻末に加えた.この増補分には,Abel多様体,オートマトン,層,ホモロジー代数,情報理論のような新項目もあれば,虚数乗法論,計算機械,多様体などのように,第1版にあった項目にその後の新発展を書き加えたものもある.また第1版の部分にも,ほとんど毎ぺージにわたって象嵌による訂正を施した.索引その他ももちろんそれに応じて改めた.
この増訂版の編集にあたっては,項目選定,原稿整理,校正等に関し,次の方々にことにお世話になった:集合論,数学基礎論の方面では黒田成勝,赤摂也;代数学,整数論については淡中忠郎,河田敬義,玉河恒夫;実函数論については亀谷俊司,吉田耕作;函数論については能代清,一松信;函数方程式については福原満洲雄,岩野正宏,山中健;位相解析については吉田耕作,伊藤清三;幾何学については佐々木重夫,岩堀長慶;位相幾何学については小松醇郎,田村一郎,米田信夫;確率論については伊藤清,伊藤清三;統計数学については北川敏男,森口繁一,河田龍夫;応用数学については森口繁一;力学,理論物理学については山内恭彦,今井功(以上敬称略).なお歴史の方面は彌永昌吉が担当し,編集事務については,田尾洋子,宮川永子,野上睦子の諸氏を煩わせた.増訂版の執筆をお願いした方々に対しては,第1版御執筆の方々のお名前とともに別記して感謝の意を表明した.
この計画には1958年夏ごろから着手し,ここにようやく完成を見るにいたったのである.長期にわたってこの事業に御協力下さった方々に対し,ここに厚く感謝の意を表明したい.
1960年秋
彌永昌吉
この辞典は,岩波理化学辞典,岩波哲学小辞典など,岩波書店から発刊されている学術辞典の1巻として企画され,委託を受けて日本数学会が編集したものである.学問の日に日に進む現代にあって,この種の学術辞典が緊要なことは,すでに他の辞典の序言にも述べられているとおりである.数学も現在最も盛んに発展しつつある学問の1つであり,広く科学技術の基礎をなすと同時に哲学とも関連するところが深く,知識の根底として重要なものであるから,今日この学問の現状を明らかにする辞典を刊行することは,時代の要望に応えるものと思われる.
今世紀に入ってからの数学の発達は,まことに著しいものがある.すでに前世紀の終りにおいて,数学は‘分科の下に分科を生じ,隔絶せる部門との間に意想外の交渉を生じ’到底その全体を達観することが不可能なまでに発達し,ために1898年Franz Meyerの首唱により,Göttingen,Berlin,Wienの学士院の後援の下に数学百科全書Enzyklopädie der mathematischen Wissenschaftenの編集が企てられ,二十余年の歳月を経てようやく完成を見たことは,本辞典‘19世紀の数学’の項目にも述べられているところである.今世紀の数学においては,いわゆる抽象化の方法が自覚して用いられ,異なる部門において同じ理論が成り立つならば,それは同じ公理から演繹せられ,集合,対応などの一般概念から出発して,位相的代数的に数学全般が再組織されようとしている.今日十数巻が刊行され,なお刊行がつづけられつつあるN. Bourbakiの Éléments de mathématique叢書はこの再組織を意図するものであるが,本辞典は規模においてささやかなものながら,同じ思想に基づき,全数学をなるべく透徹した1つの体系の下に収めようとしたのである.もとよりこの小冊子のうちにBourbakiの叢書におけるように,すべての定理に証明を与え,記述の完全を期することは不可能であるが,数学およびその応用各分野の重要な術語にそれぞれ明確なる定義を与え,歴史的背景の下に各部門研究の現状を知らしめ,将来への展望をも与えようと試みたのである.
この辞典の主要項目の選び方は,中項目主義によった.各術語の定義を敏速に見出すためには,小項目主義によるのが便であるが,数学は体系的な学問であるから,相互に関係の深い概念は1項目下にまとめて説明する方が,各概念を全体との関連において正確に把握せしめ,同時に説明の冗を省く利がある.他方,項目をあまりに大きくするときは,1術語の定義を知るために多くのぺージ数を読むことを余儀なくされ,辞典利用上不便をまぬかれない.中項目主義は両者の中間を行くもので,編集上には最も多くの困難を伴うが,小規模の中に多くの内容を盛る数学辞典としては,この方針に従うべきであると信じ,別記部門別項目表にあるような諸項目を選び,術語の迅速な検索のためには,別に詳密なる索引を付することとした.また公式および数表から成る付録を設けて本文の欠を補い,主として数学を利用される方々の便を図った.
初めこの企画がなされたのは,1947年春のことであった.当時の日本数学会委員会の決議に基づき,分科会に嘱して項目選定に着手して以来,幾多の紆余曲折を経て,ようやく今日発刊せられることとなった.ここにその委曲を述べることは差控えるが,編集の各段階において有力な御協力を賜わった方々のお名前を挙げて感謝の微意を表したい.発足当時の日本数学会委員長は故窪田忠彦博士であったが,博士のほか高木貞治先生,末綱恕一,辻正次各教授の賛同の下に,数学会の全般的協力を得て,事に当ることとなったのである.最初の項目選定に当っては,基礎論,歴史については黒田成勝,近藤基吉;代数学,整数論については正田建次郎,中山正,菅原正夫,河田敬義,岩沢健吉;幾何学については矢野健太郎,市田朝次郎;函数論については能代清,小松勇作;函数方程式については福原満洲雄,古屋茂;位相幾何学については小松醇郎,静間良次;位相解析については三村征雄,角谷静夫,吉田耕作;確率,統計については河田龍夫,北川敏男,伊藤清,国沢清典,小川潤次郎;応用数学については雨宮綾夫,今井功,小平邦彦,森口繁一の諸氏を煩わした.ついで執筆をお願いしたのは別記190名の方々である.1949年には一応原稿をいただくことができたが,以後その整理に意外の時日を費した.その間,原稿を浄書し,書き改めること数次に及んだものもある.それは1巻のまとまった数学辞典としての体系を重んじ,用語間の不統一や,項目間の照応関係の破綻のないようにと慮ったためである.この点編集者として能う限りの力を尽したつもりであるが,なお至らなかったことを憂える.各執筆者の丹精された原稿に筆を加えた罪は私がこれを負い,ここにおわびするものである.本辞典の不備については,一切私が責任を負う意味で,各項目の執筆者名も省略させていただくこととした.この点について御諒恕を乞う次第である.
整理,校正の段階において御協力を得た方々のお名前を挙げれば,三村征雄,河田敬義,松坂和夫,一松信,福富節男,赤摂也,入江昭二,佐々木重夫,河田龍夫,黒田成勝,小松勇作,雨宮綾夫,今井功,加藤敏夫,岩村聯,後藤守邦,吉田耕作,田村二郎,秋月康夫,能代清,増山元三郎,森口繁一,公田蔵,米田信夫,玉河恒夫,埴野順一らの諸氏であった.特に基礎論方面の整理は黒田成勝,岩村聯;代数学方面は松坂和夫,河田敬義;幾何学方面は佐々木重夫;代数幾何学については秋月康夫;実函数論方面は河田龍夫;複素函数論方面は小松勇作,一松信,田村二郎;位相解析方面は吉田耕作;位相幾何学方面は福富節男,米田信夫;確率,統計方面は増山元三郎,森口繁一;応用数学方面は雨宮綾夫,今井功,加藤敏夫,森口繁一の各氏に,それぞれ負うところが大きい.下村寅太郎氏は,AbelとRiemannの肖像写真を快く貸与された.また付録の公式は主として今井功,一松信,森口繁一氏に,数表は雨宮綾夫,今井功,一松信,森口繁一氏に,和文索引,欧文索引は公田蔵,井出弘子氏に,雑誌・叢書解説および人名索引は福富節男氏に負う.福富節男氏は,1948年秋以来,原稿の収集,用語の統一,原稿浄書の督励などに,精力的な努力を傾けられた.岩波書店編集部には終始お世話になった.その寛容と好意とによらなければ,この辞典が世に出ることはできなかったであろう.
以上の諸氏,その他この辞典のため直接間接のお力添を賜わった方々に対し,ここに心から厚く御礼を申し述べたい.
1954年3月
彌永昌吉