周波数変調(FM:frequency modulation)方式を使った放送。周波数変調は、音声信号の振幅に応じて搬送波の周波数を変化させる変調方式であり、FM放送は搬送波に超短波を用いることから、超短波放送ともよばれる。
FM方式は1928年にアメリカのE・H・アームストロングによって発明されているが、放送として実用化されたのは1941年からで、第二次世界大戦後は中波ラジオ用周波数の不足から、アメリカはもちろんヨーロッパでも盛んに行われるようになった。日本では1957年(昭和32)にNHK東京超短波実験局がFM放送の技術基準に関する資料収集を目的に開設され、1963年にはFMステレオ実験放送も開始、以後NHKによって全国放送網が拡充されて受信機の普及が図られてきた。1968年FM放送用の周波数割当てが決定、1969年に本放送開始、民間FM局にも周波数割当てが順次行われ、今日に至っている。
2020年2月17日
音声信号の振幅がゼロの場合の搬送波周波数f0を中心に、音声信号の正側の波形に対してはf0+Δfと、負側の波形に対してはf0-Δfとなるように、音声信号の振幅によって搬送波の周波数を変化させて変調する方式をとっている。この変調方式は、FM放送のほかに、テレビ放送の音声搬送波、衛星放送の映像搬送波などにも使われている。FM方式においては、中心周波数からのずれを周波数偏移とよび、FM放送ではその最大値を上下75キロヘルツに、またテレビ放送の音声搬送波では、最大値を上下25キロヘルツに規定している。
搬送波を音声信号で変調すると、搬送波のエネルギーの一部が中心周波数の両側に分布する。これを側波帯とよぶ。FM放送における側波帯は、中波放送の側波帯よりはるかに広く、音声信号の周波数と振幅によって決まる。これら両側波帯を含む帯域幅が占有帯域幅で、FM放送では上下200キロヘルツである。このように、FM放送は一つの放送波に広い帯域幅を必要とするので、中波放送(日本の割当て周波数は526.5~1606.5キロヘルツ)のように低い搬送波を使用する場合には実施できない。日本ではFM放送開始時に76.1~89.9メガヘルツが割り当てられたが、2014年(平成26)に90.0~94.9メガヘルツが加えられたため76.1~94.9メガヘルツが使用可能となり、現在ではFM補完放送(ワイドFM放送)などでも使用されるようになった。なお、アメリカでは放送開始当時40メガヘルツ帯であったが、その後88~108メガヘルツに変更されている。
2020年2月17日
FM放送に使用される超短波の電波は、中波放送に使用される中波の電波に比べて到達距離が10~100キロメートルと短いため受信範囲が狭く、サービスエリアは局地的である。また伝搬途中に山岳や高いビルなどがあると、電波がこれに遮られてしまうため、FM放送の送信所は高い鉄塔や山の上など高所に設置される。
2020年2月17日
標準的なFM放送用受信機はスーパーヘテロダイン方式を採用しており、中間周波数は通常10.7メガヘルツ、帯域幅は200キロヘルツである。中波放送に使われる振幅変調(AM:amplitude modulation)用受信機と異なり、振幅制限器(リミッター)をかならず内蔵しており、復調回路には搬送波の周波数変化を出力電圧の変化として取り出す周波数弁別器(ディスクリミネーター)を使用している。FM方式では、音声信号の高い周波数領域における雑音の影響が大きいため、送信側でまえもって音声信号の高域成分を強調(プリエンファシス)して送り出し、受信側で音声信号を復調したのち、送信側のプリエンファシスとちょうど逆特性をもつディエンファシスを通している。これによって、総合的にみて平坦(へいたん)な周波数特性を得るとともに、高域の雑音を低減させている。
2020年2月17日
FM放送は中波ラジオ放送に比べて次のような種々の特長がある。
(1)音質がよい 中波放送は9キロヘルツ間隔でチャンネル割当てが行われており、高い周波数成分をもつ信号を送ることはできないが、FM放送は搬送波周波数100キロヘルツ間隔でチャンネル割当てが行われており、信号帯域は30~1万5000ヘルツにおよび、原音にかなり忠実な音が放送できる。
(2)雑音が少ない 中波放送では、自動車の点火プラグや種々の電気機器から放射される雑音電波が受信機に混入すると大きな影響を受けるが、FM放送では、受信機の中に備えたリミッターによって、放送波に混入する雑音の振幅成分を除去できるので、雑音の影響が小さい。
(3)混信が少ない FM放送に使われる超短波帯の電波は到達距離が短いため一つの局の受信範囲は狭く、またFM放送波が2波存在しても、そのうち強い電波が弱い電波を抑圧する効果があるため、混信を受けにくい。
(4)受信状態が安定 超短波は昼夜ともに電離層の影響が少なく、伝搬状態が安定している。したがって、音量、音質とも安定している。
(5)ステレオ放送ができる FM放送は十分な周波数帯域をもち、1波で立体感のあるステレオ放送が可能である。
2020年2月17日